千百合と幸村が集合場所に来た時、その時点で集まっていたのは自分達の他に丸井。桑原。それから棗だった。
「やあ。」
「まだこんだけなんだ。」
「まだ時間あるからな。」
「後一屋台分くらいなら回れるでしょうからねw」
「だよな、もう一軒行きたかったぜ。」
「行かないの。」
「金がねえんだよな。」
「ああ。」
紀伊梨もそうだが、こういう時に燃費の悪い者というのはあっというまに軍資金が底をつく。
「ところで話は変わるんですがw」
「ん?」
「今の内に聞いておこうwズバリw貴方なんで今日に限って紫希の事褒めてやらないのw」
「は?」
「褒めなかったんでしょw」
「え、褒めたけど。」
「「嘘つけ!」」
千百合と桑原が一斉射撃した。
「え、俺褒めたよな?って、幸村君達は居なかったか。」
「褒めてなかったらしいよ、丸井。」
「いや、会った時に、」
「母さんすげえな、とは言ってたって聞いたよ。よく思い出してごらん、本当に言ったかどうか。」
「・・・・・・・」
そう言われて、冷やしキュウリを齧りながら反芻する丸井。
「・・・うわ、マジだ。言い忘れた。」
「お前は本当にさ。マジでさ。さっき呼びかけた私がバカみたいじゃんか。」
「呼びかけた?」
「こっちの話だよ。」
「というか、母さんって何なんだよ・・・」
「いや、今日着替えてる時に母さんに言われた事思い出してさ。」
「何言われたわけ。」
「というか、それなら後でちゃんと言ってやった方が・・・自分だけ何も言われてないと思って気にしてると思うし・・・」
「いやあw残念だけどもう手遅れでしょうw」
「え?なんで?」
「こういうのはやっぱり、後から言ってもね。周りからお世辞を強要されたんだろうなと思うだけだよ。」
「ま、紫希の性格ならそうよね。」
「そっか。あーあー・・・」
失敗失敗、とか言いながら左程狼狽えない丸井の態度が千百合には又むかつく。
何だこの不思議な他人事感は。
いらつく、を通り越して千百合はちょくちょく不可解に思っていた。
何なんだろう。この変な余裕というか、焦らない感じというか、自分のペースが全くブレてない感じ。
「でもブン太、」
「待った待ったw噂をすれば影だw」
「すいません、お待たせしました!」
「まだ時間じゃないから、大丈夫だよ。」
「紫希、お疲れ。あんたらも。」
「俺らは一括りか。」
紫希は仁王と柳生と合流した。
これで後3人。紀伊梨と真田と柳だが、まあ真田と柳が遅れることはあるまい。
これで揃うな、と全員が内心で胸を撫で下ろした。
「仁王、顔色良いじゃん?」
「ああ、気温が下がってきたきに。」
「ですが、仁王君。もう少し食べられた方が良いですよ?」
「あれ。仁王は食べてないのかい?」
「食欲が沸かないらしいです・・・」
「かき氷は食うとる。」
「雑誌の女子かよ。」
幸村はそれを聞いて思い出し笑いをした。
「飯食えよ・・・」
「言うとるじゃろ、食欲が沸かん。」
「部活までしてるのにw」
「それとこれとは別じゃ、俺だって食う気になれるもんならなりたいぜよ。」
「ふーん、勿体ない奴。こんなに露店あんのに。」
「あ。」
「ん?」
「あの、丸井君、あの・・・・」
「?」
「・・・丸井君、焼きそば、食べられましたか?」
((((((焼きそば?))))))
傍で聞いてる方は何故いきなり焼きそばの話が出てくるのかわからない。
紫希が後ろ手に持っている袋に焼きそばが入ってることも知らない。
「あー・・・いや。実は、」
「あれ?ブン太、焼きそばが食べたかったのか?あんなにーーー」
「あー、良いから良いから!えーと、取りあえず探しては居たんだけど見つからなくてよ。結局食い損ねたんだよな。」
「そういえば、焼きそばはあんまり見かけなかったね。」
「確かに。どちらかというと変わり種の露店の方が多く見えましたね。」
「ほう、そうだったんか。」
「あんたはもうちょっと興味持って食べたら。」
「俺もたこ焼き逃したなw見かけた時並んでるからって後回しにするんじゃなかったわw」
食べられなかった。
その返事を聞いて、紫希はそろそろと手を前に持ってきた。
「あの、これ・・・」
「?」
「焼きそばです。」
「え!」
「丁度紀伊梨ちゃんと並んだので買ったんです。もし丸井君が買えてなかったらと思って・・・どうぞ。」
丸井は目を丸くして差し出された焼きそばを見つめた。
マジか。
「ほう、丸井の分だけか?」
「お前食わんくせにw茶々入れは怠らないのかw」
「あ、あの!GWの時に、私達残りましたけど食べそびれちゃってたので、それで・・・」
「ほう、そんな事が。」
「そうだっけ?俺は初耳だな。」
「ああそうか、2人ともあの場に居なかったか。」
「紫希は?」
「え?」
「苺飴食べたいって言ってたじゃん。買えたの?」
「え、ええと・・・」
それを聞かれるとちょっと答えづらいというか。
結果的に焼きそばだけ残ってしまったので、又お前は他人の事ばっかりと怒られそう。
「買えなかったのかw」
「か、買ったんです!でもその、譲ってしまって・・・」
「譲った?」
「どなたにです?」
「ど、どなたと言われると知らない方だったんですけど・・・ちょっと、色々ありまして・・・」
「じゃあ、結局春日は食べてないんだね?」
「はい・・・」
「あははははははは!」
丸井は笑ってしまった。
人の焼きそば買っておいて、自分は結局苺飴買えなかったってマジか。
こんな事ってあるのか。
「春日。」
「はい?」
「ジャーン♪」
「はい、え・・・」
「苺飴。」
丸井は焼きそばを買えなかった。
でも、苺飴はちゃんと買えた。2人分。
約束したから。
「というか、ブン太は今日ずっと苺飴ばっかり探してただろ・・・」
「だって食えなかったら嫌じゃん?約束したのに。後、焼きそばは探さなくてもその辺にあると思ったんだよなー。」
「確かに苺飴の方がレア度は高そうw」
(私丸井のこういう運の良さが好かん、やっぱり)
「・・・・・」
「良かったですね、春日さん。」
「え?」
「食べられるじゃないか、苺飴。欲しかったんだろう?」
「もっと喜んでもええんじゃぞ。」
「あ、ええ・・・そうなんですけど・・・」
貰って良いのか。
そもそも丸井が買ったのにという事以上に、なんだか目の前で起きた偶然の連鎖に驚きすぎて喜びがまだ追いついてない。
そこに、予想だにしない声が飛び込んできた。
「開場しまーす!花火見物の方は、押さないで前へどうぞー!」