Training camp – in Irupinet Hotel -:Disuguise 1 - 1/5


「えええええーーーーー!?」

イルピネットホテルの一室で紀伊梨は驚愕の叫び声をあげた。

「じゃあじゃあ、ゆっきー達みーんな同じホテルに泊まってるの!?」
「そうでーすw」

そう。
不運な事故から当初合宿予定地としていた住良木旅館に宿泊できなくなってしまったテニス部一同は、旅館に併設されていたコートも使用中止になり、そもそもの場所をがらっと変えた合宿を余儀なくされたのだ。

そして急いで抑えた次の候補地が県の端っこにあるテニスコート。
そしてそこは併設の宿などなかったので、そこにほど近いビジネスホテルに宿泊することになった。

そこがこのイルピネットホテル東店。
ビードロズが抑えた所と同じだったのである。

「やったー!じゃー皆と一緒、あれっ?へんそーって何で?」
「あのな、考えてみろよw休み明けにだよ、テニス部の合宿宿とビードロズの合宿宿って一緒だったんだってー、とか噂されたらどうなると思う?」
「まあ、」

話を聞いていた小鳥遊が割って入った。

「ファンの心理としては叩きに動くわよね。示し合わせてたんだ、ずるいビードロズばっかり、身内だからって贔屓してもらってるんだ、ってなものよ。」
「えー!!なんでよー、そんな事紀伊梨ちゃん達してないっしょー!っていうか、わざとやったんじゃなくて偶々そーなっちゃっただけじゃん!紀伊梨ちゃんたち、ずーっと前からここに泊まろうって言ってたのにさー!」
「外から見てどうかって事でしょ。」
「やっぱり、宿が一緒だったとだけ聞いたら、私達側が合わせたように取られてしまいますよね・・・」
「まあそうだねー。テニス部の宿が事故で使えなくなったなんて、レアケース過ぎて普通は考えないよね。」

その場で弁解できるなら良いのだが、噂というやつはとかく本人の居ない場所を流れがち。

「まあでもさ!ほら、逆に考えようよ逆に!テニス部側の事故ってことはさ、逆に言うとテニス部はこっちに非がないこと知ってるわけじゃん?だから少なくとも、テニス部に誤解されることはなし!な!」
「おー!うんうん、そーですな!」
「まあでも、それはそれとして面倒なのは避けたいのでねw」

例えテニス部全員が自分達が悪いと思っていても、この場合そもそもテニス部に所在を知られるだけで面倒になる。
テニス部員に見かけられて、休み明けにその人が誰かに合宿地被っちゃっててさー、とか言ったのを誰かに聞かれたらもうアウト。噂の発生となり、人の間を恐ろしい速度で駆け回る。
例えその元となった人が弁解してもその頃にはもう遅い。不特定多数に対して弁解なんて出来ない。まさか一人一人に話して回るわけにもいかないし、うさんくさい信じないわと言われたらそれで無意味になる。

「なるほど、そこで変装というわけね?」
「そうwこれでテニス部にこっちが来てることを悟られることはなくなるwとは言っても幸村と真田と柳は知ってるけどな。」
「まあその3人なら大丈夫なんじゃない。」
「そうですね。3人とも、そういう事をみだりに漏らすタイプじゃないですから。」
「えー!でも変装とかやだよー!っていうか、変装は面白そうだから良いけどゆっきー達と喋ったりしちゃダメって事っしょー?それが嫌!」
「こら!我儘言うんじゃありません!」
「だってー!」
「まあ気持ちは分かるよw」
「友達が目の前に居るわけだものねー、他人のフリしなさいって言っても辛いわよね。」
「まあそうなんですけどねwでも、正直お前は誰よりも変装に慣れとかないと。」
「お?どして?」
「あんたね、アイドルになるんじゃなかったの。」
「アイドルになると、あんまり素顔では出歩けなくなりますものね。目の前にファンとかがいても気軽に話しかけたり出来ませんし・・・」
「あー!」

そう、紀伊梨にとってはこれは将来のための予行演習でもある。
そもそも外見の美少女振りとか、騒がしい振る舞いとかで人の目を引きがちだが、それをいかに抑えるか。地味に振る舞うスキルは、一応紀伊梨の夢的には必要なのだ。逆説的だけど。

「えー、でもつまんないよー!」
「可哀想だけど、状況的にしょうがないわよねー。」
「紀伊梨ちゃん、合宿の間だけですから、頑張りませんか?それに、そもそも向こうもテニスコートに入りびたりなので、我慢しないといけないほど鉢合わせる場面も多くないですよ。ね?」
「うー・・・」
「でも変装って言ってもどうするわけ。」
「私達、特に準備なんかはしてませんけど・・・」
「良いの良いの、それは考えがあるからwあ、それから大人組3人w」
「「「?」」」
「あんたらは3人ともうちの部活に興味あるだろうけどw今回はなるべく関わらない方向で一丁よろよろw」
「「えー!」」
「いや当たり前だよw」
「何でよ!別に私達は良いでしょ!」
「いや、お前らだってうっかり漏らしそうじゃん。ぽろっと紫希ちゃん、とか紀伊梨ちゃん、とかってテニス部の前で呼んだりとかさ。」
「「う!」」
「俺もなー。引率を引き受けた以上、何か呼ばれたり頼られたりしたら即応しなくちゃいけないし。テニス部の近くに居たばっかりにバレたら、迷惑するのは俺達じゃなくてこの子らだし。」
「「うう・・・」」
「全くの他人なら誤魔化し聞いたかもしれないけど、偶々とはいえなまじ面が割れてるからなあw動くのは止した方が良いでしょ。こっちがへましたばっかりに、皆が学校でトラブっても責任とれないし。」
「「・・・・」」
「説得どうもw」
「いやこのくらいはさせてw俺も大人だから。」

まともな大人が一人でも居てくれて良かった。棗は心底そう思う。

「あ!待って待って、それはそれとして私から一つ提案ー。」

小鳥遊が軽く片手を上げた。

「千百合ちゃんは変装しなくても良いんじゃない?」
「「「「「「え?」」」」」」
「要は、よ?「合宿地」が被る事が問題なわけじゃない。それはそれとして、個人で出かけてて偶々通りすがっただけなら、そこまで目くじら立てられないんじゃない?」

合宿を示し合わせることの何が反感を買うかと言って、本来合宿とは皆でやるものであって一個人としてのプライベートな話じゃないのに、そこに私情を挟むから眉を潜められるのだ。
それなら、合宿という前提を外せば良いのではと小鳥遊は思いついたのだった。

「家族で旅行とか言って、一日だけ普通にしてても良いんじゃない?」
「確かに、それならギリギリ可能かもしれません。」
「・・・・・・」
「お前良いこと言うな!」
「えっへん!」
「いやあ、此奴はスクープの種にしたいだけでしょw今月刊プロテニス担当だしw」
「えー、でもでもそれ良いじゃんしちゃいなよー!

ゆっきー、絶対喜ぶよ!」

その言葉がいやに頭に響いた。

喜ぶ。
喜ぶだろうか。そうか?

だってさあ、彼奴はもう私のこと大して好きじゃないのかもしれないし。

とか、拗ねたような事を考えながら千百合は首を横に振った。

「えー、どーしてー!?」
「低リスクってだけでしょ。0リスクを目指して変装するんだから、しないに越したことないじゃん。後、そっちのあほ記者に記事の種やるのも癪。」
「くっ、流石に冷静ね・・・」
「お前マジでさあ・・・」
「何かお前、ダメなおばさんになったな!」
「うっるさいわね、ダメなおじさん!」
「何!?」
「さてさてwじゃ、あっちは放っておいて早速変装といきますかw」
「はい・・・」