Night beach - 1/8



あんなに長い長いと思っていた夏休みは、ふと気づくともう終盤になっていた。

終盤になると、毎年恒例、紀伊梨の「宿題が終わんなーい!」が発動して、皆でわちゃわちゃ宿題をこなし。
それだけならまだしも、今年は関東大会のために仮病休みしたツケとして、休み明けテスト平均点以上を取らなければいけないので、皆で自主勉強する羽目になった。

海原祭りも近づいていて、練習もガンガンして、ふと気づけば新学期はもうすぐそこ。

「あ”ぞびい”ぎだい”・・・!」

紀伊梨はシャーペンを握りこみながら、ぎりりと噛むように言った。

「無茶言うなしw」
「というか、誰のせいでこうなってんのよ。」
「やだやだやだー!もう疲れたもーん!遊ぶもーん!遊ぶもーん!」
「進行どう、紫希。」
「ええと・・・後8ページ、です。」
「無理だわw夜までコースだわw」
「いやだー!いやーーーー!」
「あ、あはは・・・」

可哀想に思う気持ちはある。しかし、実際問題紀伊梨のペースでは多分終わるのは18時を過ぎる。そこから遊びにと言われても。

(夏祭りならそのくらいの時間でもやってそうですけど、もうこの時期になると夏祭りなんて・・・うん?)

「紫希どうしたの。」
「いえ、ちょっと・・・」

そうだ。
何も夏祭りに限らなくても良いんだ。お祭りであれば、あるいは。

「・・・あ、あの・・・」
「どったのー?」
「もし間に合えば、こことか・・・どうでしょうか?」
「え、見して見してw」

紫希のスマホの画面には、湘南ビーチライトアップという催しのイベントページが表示されている。






紀伊梨の常だが、こういうときはすぐにテニス部のグループLINEに話を流してしまう。

この日もそうだった。
部活がひと段落した夕暮れの更衣室で、いつもの面々はスマホに通知が入ってるのを見た。

「五十嵐さんですか。」
「ビーチライトアップか・・・彼奴も良く見つけてくるよなあ。」
「ここまで常に遊びたがる根性は流石じゃの。」
「常に引っかけたがるお前の言う事じゃないだろい。」
「プピーナ。」

なんて言いながら返信を打とうとしたが、丸井の親指がスマホに着地するより、幸村の声の方が早かった。

「丸井。」
「ん?何?」
「悪いんだけれど、少し急ぎ目に着替えてくれないかな。話があるんだ。」
「?良いけど。」
「ありがとう。じゃあ第一コートのあたりのベンチに居るから、来て。そんなに長い話じゃないから。」
「おう。」

そう言うと幸村は軽く微笑んで、すっかり着替えた身を翻し、一足早く更衣室を出て行った。

なんだろう。部活の事のような気もするし、そうでない気もするし。
コートに来いと言うあたり部活の事の可能性が高いけど、フォームを直すとかだったら着替えた後に言うのは変だし。

とか思っていたら、隣の桑原が、感嘆とも悲しみとも取れないような、実に微妙な溜息を吐いた。

「ちょっとそんな気はしてたけど・・・いざとなるとやっぱり色々考えちまうな。」
「え?何が?」
「おや?分かりませんか、呼ばれてる理由が?」
「うん。」
「まあ、別に分からんからちゅうて、取り消されることもないじゃろ。」
「へ?取り消し?何が?」

自分以外皆分かっている様子に「?」としか思えない丸井。まあ、着替えて行けば済むだろうから、数分後には自分にも分かるはずだ。

言われた通り急ぎめに着替えて、第一コートの方に向かうと、夕日に照らされてオレンジに染まる。幸村。それに、真田に柳。マネージャーの林が居た。

「ああ、来た。こっちだよ、丸井。」
「おう、お疲れ。幸村君だけじゃなかったんだな。」
「ふふ、そうだね。驚かせたかな。」

まあ、ぶっちゃけなんなんだとは思う。幸村だけでなく、真田と柳までいて、マネージャーまで。

「実は、連絡と相談があってね。」
「連絡と相談?」
「うん。相談の方は、まず林さんから。」
「はい。実はね、えっと・・・今日、郁の家に行ってくれないかな?」
「へ?」
「もう夏も終わりでしょ?一区切りついたところで、本格的に誘おうかなって思ってて。で、資料を渡したいんだけど・・・私が行くより、丸井君の方が、よりテニス部に親しみを持ってくれやすい、かなー、と。」

郁にとって林は、テニス部というより友人枠に入ってしまうのだ。だから、テニス部と親交を深めるというのであれば、誰か林以外で追い返されない人が必要。

となると、丸井しか居ない。
全員一致でそう認識される程度には、丸井は一条に近い存在とされていた。あくまでテニス部の中ではという点を差し引いてもだ。

「そっか、オッケー。行ってくる。」

一瞬だけ。
紀伊梨の誘いに「行く」って返事するつもりだったのに、と思った。

でも、遊ぶよりこっちが優先なのもわかる。部活のことだ。自分が断ったら、それは部のマイナスになってしまうから。

(まあ、家寄って資料渡して、って言うだけならそんなにかかんねえよな。)

後から行く、って返事しとこう。丸井はそう思った。

「で?連絡の方は?」
「うん。実は、9月の話なんだけれど。」
「9月?」

何があったっけ、9月。
と、考えをめぐらせた次の瞬間、心当たりが急浮上して、心臓がドクンと大きな音をたてた。

まさか。
いや、でも。
もしかして。

丸井の表情から逸りが見て取れて、幸村は微笑んだ。


「新人戦。Sで出てくれるね、丸井。」


とても凛としたはい!の即応が、夕暮れのテニス部に響き渡った。