New comers 5 - 1/6



新人戦2日目。

やはりというかまあ順当というか、立海と氷帝はそれぞれ勝ち残り、今日の関東地方括りの試合に駒を進めた。

そんな中、丸井はちょっとぶすくれて口を尖らせていた。

「・・・・・」
「・・・なんだ、不機嫌そうに。せっかく勝ち進んで今日も試合するのに。」

言いながら郁は、丸井にしては極めて珍しい表情にちょっとびっくりしていた。

「べっつに!ちょっとつまんねえだけ。」
「つまんない?試合に出るくせにか?」
「出られるなら良いんだよ。出られねえから言ってんの。」

丸井は今日、S1なのである。

新人戦は、通常の夏の大会と同様、Dを最初に行って次にSになる。
したがって、Dは絶対試合をするが、Sは回ってきたり回って来なかったりする。

それでは経験にならないため、Sはこうやって入れ替えられるのだ。
今日は丸井がS1の番。

しかしそうはいっても立海は基本強いので、S1までほとんど回ってこない。昨日も2試合やって、1回もS1まで回らなかった。

「はーあ・・・」
「・・・朝はあんなに機嫌が良かったのに。」
「機嫌が良いからだよ。」
「は?」

朝は確かに我ながら機嫌が良かった。昨日の夜のことがあったから。
しかし、昨日の夜からのこれは反動でとてもブルーになってしまう。
今日もやるぞ!って思ってたのに、直後にお前次の試合出ねえから!と言われるこの出鼻くじかれた感。

良いけど。
絶対100%回ってこないってわけじゃないし。
午後はまた回ってくるかもだし。

「ただ、午後は午後で暑いんだよなあ・・・」
「暑い中での試合なんて、今に始まったことじゃないだろ。」
「見る側の心配をしてんの!お前も気をつけろい。」
「ぷっ!」

郁の首にかかっていたタオルを頭に被せてやって、丸井はその場を後にする。

「・・・・・・・」

眉間に皺があっても、口がへの字になっていても。
高鳴る心臓と赤くなっている顔は誤魔化せない。

本人にはおそらく知られてないだろう。
純粋に暑くて顔が赤い人はたくさん居るし、心臓の音なんて他人には聞こえないから。

でも。

「一条さん。」
「え?」
「ちょっと、良いかな。」

同じ立場の人は、欺けない。




「・・・つまり、なんですか。僕が危ないってことですか?」
「うん。まあ、ばっさり言うと。」

郁を呼び出したのは、現時点での3年生であり、マネジのリーダーを勤める女子である。

「はっきり言って、一条さんは選手に対して態度が良くないよね。でもそれは良いの、こっちもわかってて取ったんだし、仕事はちゃんとこなしてくれてるから助かってるし。ただね、それが気に入らない人も居るわけよ。」
「・・・・・テニス部のファン、っていう奴ですか。」
「テニス部って言うか、丸井君のファンかな。」

あくまでもばっさり言う。言いにくくても必要があれば言う。濁さない。
それが、リーダーとして最適とされた彼女の性格であった。

「多くの人はね、マネジ良いなーと思いつつ、マネジのデメリットも考えるから、まあ良いかって最終的には思うのよ。」
「マネジのデメリット・・・」
「聞いてるでしょ?恋愛禁止。原則ね。」
「・・・・・」
「特に、部員が好きだからって理由でマネジになられたら、動きが鈍るし目的がぶれるし困るわけよ。だから一条さんの、選手のこととか好きじゃない、って態度はある意味では安心なんだよね。ただねえ、丸井君に関しては・・・」

郁はきゅっ、と口を引き結んだ。

「・・・僕じゃない。あっちの方から寄ってきて、」
「そうなの、それなのよ。」
「え?」
「一条さんは、丸井君に寄っていってるというより、丸井君に寄って来られてるわけよ。それが問題なの。あの子あんなに態度悪いのに丸井君に好かれてる、ずるい、って思う女子が居るの。」

この言葉に、郁は優越感を感じずには居られなかった。

自分から向かってるわけじゃない。
向こうが寄ってきてる。

他愛ないことでも、丸井が自分を求めているということは、郁の恋愛感情と自己顕示欲を同時に満たした。

「だからね・・・聞いてる?」
「!は、はい。」
「ショックかもしれないけど、ちゃんと聞いてね。はっきり言って一条さんは今、反感を買ってるから。あっちが正しいとかそういうわけじゃないけど、事実として居るわけよ。そういう人は。だから、もう少し丸井君に優しくできない?」
「え・・・」

嫌。

郁は喉元まで出かかった。

だって自分が優しくしたら。
そしたら、ファンのうちの一人になるじゃないか。
自分が求める立場になるじゃないか。

それより今が良い。今が一番いい。
自分は丸井に興味が無くて、でも丸井は自分を追いかけてくれる、そういう立場に居たい。
ずーっとずーっとそのままが良い。

もっと言うと、今学校で流れてる噂だって、郁は嫌じゃなかった。
皆が丸井との仲を噂してる。もっと言うと、丸井が郁を好きなんだと噂してる。だって、郁はいつも態度が悪いから。だから、2人で居るのなら自動的に、それは丸井が寄って行ってる結果になる。

優しくしたら、もうそれは消える。
丸井が郁を好きなんだとは言われなくなる。

それは嫌だ。
だから。

「・・・・忠告はわかりましたが、僕は何も変える気はありません。」
「ええ・・・」
「僕は元からこういう性格です。テニス部もそれは知っているはずです。今更変えろなんて言われても嫌です。」
「いやあのね、気持ちはわからんでもないけどあなたが危なくて、」
「だからって優しくしたいわけでもない人に優しくしろと言われてもできません。もし、本当に・・・本当に何か言われたりされたりしたら、その時に考えます。」
「そうは言っても・・・あ、ちょっと!一条さん、まだ話が・・・一条さんってば!」

聞こえないふりをしながら足早に立ち去る郁は、リーダーに言ってなかったことがある。

あなたが危ないのよ。そう言われた時、反射的にこう返しそうになった。

そうなったら丸井に助けてもらえるから。
それはそれで良いです。