D2つは結局、立海と氷帝1勝1敗づつという結果で終わった。
D2で氷帝が1勝を上げた時、ベンチの仁王の眉がちょっとだけ動いたのを丸井は見た。これで、S2の仁王まで絶対に回ってくるわけだ。
「まあ見てろい。」
「?」
「お前が万一負けても良いようにしてきてやる、って言ってんの。」
「そうか、んじゃ頼むぜよ。」
ぐいっと伸びを一回して、出陣。
そんな立海とうってかわって、どうも緊張感が緩んでしまうのが氷帝サイドである。
「芥川君っ!起きてる、ねえっ!」
「ん~・・・・」
「はあ・・・ほらもう、出番だよっ!相手は、ええと、相手・・・あれっ?丸井君っ?」
「みたい、ね。新人戦に1年生が2人でSかあ。」
これだけでもう立海の層の厚さが伺える。だって、この場に出てるのは丸井と仁王の2人でも、あっちにはまだ三強が控えているのだ。
この前夏が終わったばかりなのに、もう次の夏が思いやられてしまう。
せめて、こっちのS3がもう少ししゃんとしてくれれば安心もできるのだが。
(これだもんなああ・・・)
「ジロー!しっかりやれよ!」
「こけんときや。」
「ん~・・・」
ふあ、とあくびしながら前へ出る。
丸井はちょっと目を細めて芥川を見た。
テニスの実力と見た目は関係ないから、今の態度だけ見て力量を測るわけにはいかないんだけど。どうしても、目の前でこうも大欠伸されると引きずられるというか。
「両校、礼!」
「シクヨロ。」
「ん~、うん・・・」
「プレイ!」
(確かこいつ、柳から聞いた話じゃ昨日不戦敗してんだよな。)
5-0で圧倒していたのに、あまりのつまらなさにその後眠りこけ、止む無く不戦敗扱いになったという経歴を持つ芥川。
そんななりゆきで不戦勝とかしてみろ、かっこ悪いったらない。勝ちを譲られてるも同じだ。せめてまともに負けさせて。
(って、ことは・・・)
「・・・・はっ!」
「ていっ!・・・え?」
丸井はすぐに前に出た。
速攻だ。
攻撃が通るー--攻撃がまともに機能する内に、コテンパンにする。寝られたら終い。
「ふっ!」
「15-0!」
おし、と丸井は小さく呟いた。
とりあえず今のは通った。
この調子でガンガンゲームを先取して、可能そうなら押し切ろう。
とかいろいろ考えている丸井を他所に、芥川は口をちょっと開けて、今ショットが入った方を見ていた。
それを見た向日が、お、と小さく口に出した。
「どうしたのっ?」
「起きたみてえ。」
「え?」
「・・・・うら!」
丸井のサーブ。
「えいっ!」
「!へえ?」
その位置は、ちょっとリターンしづらい。少なくとも、ボレーは無理。
・・・と、普通なら思うのかもしれない。
(無理って思ってる奴が、一番出し抜きやすいんだよ。)
丸井からしてみたら、攻撃のチャンスでしかない。
今芥川は、頭の中で「ボレーはない」と思っている。
(命取りだぜ!)
「ふっ!」
「!」
「30-0!」
今度こそ芥川は目を見開いた。
ボレーが得意そう、と思ったから、今ボレーを打てないようなコースに打ったのに。
咄嗟に即応できるあたり、芥川も相当強いのだが、それを上回る丸井のスキル。
「・・・・・・・・」
「どう?目、覚めた?」
「・・・・・す、」
「す?」
「すっげー---!」
「・・・・へ?」
「すげえすげえすげえ!ねえねえ、今のもっかいやって!俺、さっきと同じ所に打つからさあ!もっかいやってよもっかい!」
「は?」
「芥川君・・・!」
「こうなるとはなあ。まだ序盤やのに。」
「ふっ。まあ良いだろう。眠られるより何倍も有意義だぜ。」
「確かに、眠りそうにはないけど・・・」
「不思議ねえ、起きてるのに緊張感に欠ける所は変わらないのよ、ね。」
「ねえ!もう一回!もういっかー--」
「わかった、わかったよ!もう一回な。」
「やったー--!嬉C!」
「レディ!芥川選手!」
「あ、はーい!」
スキップしそうな勢いで定位置に戻る芥川。
「はあ・・・よっ!」
さっきと同じ所に打つとか、ブラフじゃないのか。
と思いながらサーブを打つと、本当に芥川はさっきと同じ所に打ってきた。
「・・・ふっ!」
「きたあ!これこれ・・・てえいっ!」
(返した!)
これはだめだ。決められない。
丸井は後ろに下がった。
「ほっ!」
「やっ!」
(へえ?)
うっすらそうかな、とは思っていたが。
芥川慈郎。彼もまたボレーヤーである気配を丸井は感じ取った。
ということはだ。それを踏まえて対応を考えないといけないわけだが。
(心理戦が通じねえ気がするんだよな。)
駆け引きだとか精神攻撃だとか。そういうのは芥川にはあんまり効かない気がする。
じゃあ、スキル勝負か。
望むところだけど。
「・・・ほっ。」
「わっ!」
丸井のドロップをダッシュで拾う芥川。
「へえ、拾うじゃん?」
でも。
後ろががら空きである。
「はっ!」
「40-0!」
「わあああああ・・・・・!」
ポイント取れてないのに、芥川の目はキラキラである。
「マジマジ、すっげー!」
「・・・ぷはっ!はいはい。」
駄目だ。緊張感を持ってやろうと思っていたのに、どうもそんなテンションになれない。
ある意味流されてると言えなくもないのかもしれないが、まあ。幸いなことに、いつもの調子が出せないとか、そういうのは感じないので。
「次は返すかんね!」
「おう、やってみろい!」