氷帝学園において9月に行われる社会科見学というのは、学年全員が同じ所に行くものではない。
そういう学校もあるだろう。全員で浄水場とか、そういう所に行くやつ。
ただ、氷帝は違う。事前にアンケートを募り、行き先を分散し、行きたいところに各々行くタイプだ。(ついでにいうと、立海も同じ方式を取っている。)
たかだか社会見学と侮るなかれ、今年は特別だ。
あのスーパー金持ちのスポンサー御曹司のおかげで、あらゆる職種の中のトップレベル企業に行くことができる。
だから生徒側も、夢のはっきりしている者は目の色を変える。
絶対絶対、このチャンスを逃すまいとする。
その点、可憐は実に宙ぶらりんな生徒というやつで。
「どこに行こっかなあ・・・」
「社会見学?」
「うんっ。皆もう決めたっ?」
「アタシお菓子屋さん!お菓子もらえそーダカラ!」
「低俗な理由をでかい声で言いやがるぜ~。」
「なっ、じゃあ朝香はドコ行くのさ!」
「私デザインのメーカー行くも~ん。」
「すごい、考えてるんだねっ。瑠璃は?」
「・・・HIBIKI。」
「楽器メーカーだねっ。私でも知ってる有名な・・・どうしたのっ?」
「系列がほら・・・榊グループだから、あそこ・・・」
「あちゃ~。」
「先生監督かあ・・・つら。」
粗相があったらどうしよう。死んじゃう。
いや、死なないことはわかってるんだけど。
「可憐はどうすんの?」
「あはは・・・ま、まだ迷い中でしてっ。私、特に将来の夢とかそういうの、考えたことないから・・・」
「何か、ぼんやりとでもないの~?」
「うーん、小さい頃は『お母さん』になりたいって思ってたけど・・・」
「アー、可憐っぽいなー!」
「うん、いかにも言いそう。」
「そ、そうかな・・・っていうか、それは今良いんだけどっ!どうしようかな、どうしよう・・・」
「いっそ、真美みたいな選び方したら?」
「え?」
「ほら、なりたいものというよりさ。もらえるもので的な。」
「あ~、確かにまったく当てが無いなら、それでも良いかも~。」
「アレ?ちょっとねえ、私の時と反応違くない?」
「ううん、でももらえるものかあ・・・あ。」
「病院?」
「うんっ!」
その日の部活中、片づけをしながら可憐と向日は社会見学の話をしていた。
ちなみに、向日は気球を飛ばすアクティビティの企業に行くらしい。いかにも向日らしいチョイス。
「なんで病院なんだよ?」
「病院って言うか、何か見てたら病院でもいろいろあるみたいでっ。その中でね、精神科って言うかメンタルトレーニングみたいなやつがあったから。」
「へー!お前そんなんに興味あんの?」
「う、うんっ、興味あるっていうか・・・あははっ!」
「?」
現状で自分のメンタルが不安定だから、メントレの力を借りたくて。
とは言えない。
(だって一番欲しいものって言われると、こうなっちゃったんだもん・・・)
「そういえば。」
「え?」
「侑士も病院にするとかって言ってたな。」