Nemesis 2 - 1/8


正直な所、次の日も本当に安音が来るのか、可憐と忍足は半信半疑であった。

家訪問自体というより、勉強にやる気がなくなり、訪問の気も失せているのではという懸念があったのだ。

しかし、次の日も安音は昨日とおおよそ同じ時間にまたやってきた。

「うぃっす!おねしゃす!」
「・・・・お疲れ、安音ちゃんっ。」
「?何すか?」
「いや、正直やる気無くなってへんかと思うて。」
「まー、怠いのは事実っすけどー。勉強嫌いだし。」
「だよね・・・」
「でもま、代わりに誰かがやってくれるわけでもないんで。しゃーなしっすよね、しゃーなし。」

言いはしないが、2人とも「こういう所はえらいな」と素直に思っている。
なんだかんだ、安音は行動する。嫌なことでも。

「そんじゃー、今日も行きますか!レッツゴー!」
「きょ、今日もお邪魔しますっ!」
「どうぞ。」





「・・・忍足君、ごめんっ。ここの数式がよくわかんなくてっ。」
「うん?・・・・ああ。ここは、三角形の面積から出すやつやわ。三角形ABCと、三角形BCC’の面積からーーー」
「あっ、そうかっ!ここの面積を使ったら・・・」
「せんせー、これどういう意味?」
「日出所て言うんは、太陽が出る所ていうことや。」
「あー、中国から見て東にあるからって言いたいわけ?え、でもそれなら東でよくね?」
「正解やで。これは、敢えてこう書いてあんねん。いっぺん最後まで読んでみ。」
「えー、ひ、いずるところのてんし・・・」

2日目。
忍足は初日から思っていたことを言った。

「あれやな。」
「「?」」
「2人とも優秀やな。」
「そ、そうかなっ?」
「ふふん!ま、俺ってやればできちゃうタイプだからなー。」
「反応は真逆やな。」

正直な所、忍足はもっと捗らないと思っていた。
可憐はともかく、安音は事前に聞いていた成績の無残さからして、多分相当時間かかると思っていたが、意外にもちゃんと始めるとちゃんとできている。

「神崎さん、普段からやってたら、絶対もっとできるて思うねんけど。」
「やだ!」
「どうしてっ?」
「コツコツ勉強とか男らしくねーもん!」

言うとは思った。
だが。

「その辺のプライドは捨てへんと、受験は難しいで。」
「ぐ・・・・・・・」
「別に、コツコツ勉強してても男の子っぽいタイプは居ると思うなあ・・・」
「逆に、勉強してへん女の子らしいタイプも居るしなあ。」
「そうだねっ。紀伊梨ちゃんとか、勉強嫌いって言ってたけど、女の子っぽいよねっ。」
「えー・・・・」

安音がだるそうに天井を見上げた時、インターホンが鳴った。

「おって。」
「あー!ちょっと待て、まだここわかんねーんだってば!」
「あんな、」
「あ、私出るよっ!はーいっ、今出まーすっ!」

流石にリビングから玄関までの距離は迷わないよね、大丈夫だよね、と若干ドキドキしつつ、玄関扉を開けた。

「お待たせしました、どちらーーーーあれっ?」

可憐は出る前に、来客と言えば高確率で宅配ないしそれに類する人だろうなと思った。
そうでなきゃ近所の人とか。
家族はインターホンなんて鳴らさないし。友達を呼ぶなら、忍足はそうと予告すると思ったから。

だが、玄関先に居たのは意外な人物だった。

「向日君っ!どうしたのっ!」
「・・・で。」
「えっ?」
「家出!」
「え・・・・・えええええ!?」
「あーもう!くそくそ!良いからとりあえず入れろ、よっ!?」

「人に当たらんときて。」

パコ、と軽い音がした。
可憐の後ろから顔を覗かせた忍足が、丸めたノートで向日の頭を小突いた音である。

向日は口を尖らせて無言になった。
良くないことをした自覚はあるらしい。

「今日他に神崎さん居るで。」
「?神崎?さん?」
「まあ会うたらわかるわ。」
「へーい。」

勝手知ったる足取りで家に上がる向日を、可憐はやや呆然と見つめた。

「あ、あの忍足君っ!家出って、」
「ああ。前言うたけど、ちょくちょく家出してくんねん。」
「・・・あ。」

確かに。
言われてみれば、教えられた気がする。
マイマグカップが家に置かれるレベルで家出してると。

「皆、心配しないの・・・?」
「まあもう慣れっこやろなあ。週1ペースで来てるし。」
「頻繁過ぎないっ!?」
「まあ。可憐ちゃんも、便宜上家出やけど、あんまり深刻に考えんでええで。頭冷やしに来てるだけやさかい。」
「ううん・・・」

そうかなあ、と思っていると、不意に忍足に手を引っ張られた。

「え?」
「あんな、可憐ちゃん。別に用事ないかと思うててんけど、言うとくわ。」
「??何がっ?」
「ここに、インターホンがあんねん。」
「・・・・・・」
「せやから、直接出る前に、ここで確認してもろたらええわ。」
「・・・・!そ、そうだよね、ごめんねっ!」

可憐は恥ずかしくてちょっと顏が赤くなった。

そうだ。
そういえば、それはそうだ。こんな大きい家なら、外に直接出なくても、外が伺えるインターホンくらい普通にある。

また気が回らない一面を晒してしまった・・・と顏に書いてあるような可憐に、忍足はちょっと苦笑した。

「あんな、可憐ちゃん。別に、外に出てくれたのがあかんて言うてるわけやないで。」
「ううう・・・でも・・・」
「ただ、最近物騒やから。もし不審者相手に、大人でもない女の子が出てしもたら、何されるかわからんさかいな。」
「!そっかっ!」

実の所、忍足は内心で結構びっくりしたのだ。
私出るよと言われて、インターホンの所に行くと思っていたら、まっすぐ玄関に向かうから。

今回はたまたま向日だったから良かったようなものの、本当の不審者だったら目も当てられない。今大人居ないし。

「ほんなら戻ろか。」
「うんーーーー」





「お前女かよ!」




「・・・あははっ!」
「やっとんなあ。」

大体何が起こってるのか想像がついて、2人は顔を見合わせて笑った。