「全く彼奴と来たら、人に迷惑ばっかりかけるんだから・・・」
千百合はベースのチューニングをしながらボヤいた。
「まあまあ、確かに柳君には悪い事をしてしまいましたけれど、放っておけないのは紀伊梨ちゃんの良い所でもありますから・・・」
「危なっかしいって言うのよ、アレは。」
「目が離せない事には変わりないけどね。丸井も、教室でそう思うんじゃないかい五十嵐を見てると。」
「そうだな、何時も何かしらやらかしてる気はするなー。」
やはりか、と皆が思った。
「体育したら転ぶだろ?授業中は何時も寝てるから当てられたら寝ぼけて椅子から落ちるし、良い事あっても悪い事あっても取り敢えず声出すからな、彼奴。」
「昔っからよ。」
「おかげで五十嵐の具合が悪い時は一目で分かるね。」
「あ、あはは・・・」
「ま、彼奴が静かなら静かで気持ち悪いんだけど、ねっ。」
ダン!
とスネアの良い音が棗の足元から鳴った。
「さて、じゃあやりますかw」
「今かよ!?」
丸井は思わず声を上げた。
紀伊梨は来ていないし、それにもう一つ。
「俺今思い切り飯食ってるんだけど?」
そう、丸井は食事を取っていた。
早弁はしたけど、それはそれとして腹は減るし、どうせ紀伊梨はまだ来ないと思って食べ始めたのに。
仮にも聴かせて貰う立場なのにながら聴きなんて、そんな事して良いものか。
「あ、いーのいーの、それは別に。」
「いや、俺が言うのもなんだけど良くねえだろい。」
「良いって。寧ろ食べといてよ、一心不乱に。」
「俺なんの為に此処に来たんだよ・・・」
どういう態度を求められてるのかさっぱり分からない丸井に、幸村は微笑みかけた。
「丸井。」
「ん?」
「演奏しない俺が言えた事じゃないのかもしれないけど、そんなに改まらなくて良いよ。」
「えええ、そんなもんかよい?」
「五十嵐のライブじゃないからね。」
「五十嵐のライブじゃないからって・・・」
「誤解して欲しくないんだけど、なんと言おうかな。言うなれば、至って気楽に聞くものなんだよ。
紫希の歌はね。」
そう言って目を細めて笑う幸村の視線の先を追うと、紫希は千百合に立たされて居た。
「ほら、始めるわよ。真ん中真ん中。」
「心臓が口から出そうです・・・」
「1人ならどうにかって昨日言ったのにw」
「1人だから辛うじて立てて居るんですよ・・・もっと増えたりしたら私真ん中になんて立てませんよ・・・」
「本人が1番気楽から遠いだろい。」
「春日の舞台度胸の無さは筋金入りだからね。観客が居る、その事実だけで春日には凄いプレッシャーなんだよ。」
「そそ。だからブンブン君はなるべく食べるのに集中して、BGMと思ってあんまりこっちを見ないでおいてよ。」
「そう言われると逆にちゃんと見たくなるな。」
「止めて下さい死んでしまいます・・・!」
上がり症で注目を集めるのが苦手な紫希。
幸村含め5人しか居ない時だって、この時は始まる直前まで心臓がドキドキする。
まして知り合って間もない丸井が居るなんてもう。
(頑張れ、頑張れ、大丈夫、大丈夫、覚えた通りに・・・)
ああ辛い。
丸井が相手だから尚更辛い。
なんだか色んな恩とか縁を感じるからこそ、絶対失敗したくないと思ってしまって体が固まる。
「CDは?」
「入れてあるー。」
「両方入れてあるんでしょうね?」
「多分ねー。」
「多分だあ?」
「嘘嘘w入れてるって。」
「紫希、曲の頭は分かる?」
「『始めよう』です・・・」
「オッケーオッケー、出だし覚えてたらなんとでもならあよ。」
紫希の状況的に口にはとても出せないが、目の前で3人並ぶと流石にバンド然とするなと丸井は思った。
真ん中にボーカルの紫希。
その奥にドラムの棗。
左にベースの千百合。
そして紫希の正面に2つのレコーダー。
両方のボタンに手をかけて、紫希は後ろを振り返った。
「・・・じゃあ、行きます。」
「ん。」
「ういー。」
カチ。カチ。
と音が鳴った。