「いよす。」
陰る視界。
かけられる声。
仁王雅治は屋上で寝そべった体制のまま目を開けた。
「プリッ。・・・誰じゃ。」
「E組の黒崎棗だよ。」
知らん。
仁王は反射的にそう思ったが、思い直した。
知らん?いや。
「おまんがオフザウォールか。」
「何それかっこいいwそんな大したもんじゃないけどw」
棗は仁王の隣に腰を下ろした。
「お前はアレでしょ。」
「ん?」
「A組のマジシャン。仁王雅治。噂は良く聞くよ。」
「ほお。」
幸村や棗も大概だが、仁王という男も又、入学して間も無く有名人になりつつある生徒の1人であった。
ぶらっと現れぶらっと消えて、人や物に悪戯を仕掛けて怒られる前に又消える。
ついたあだ名はマジシャン・仁王雅治。
しかし。
「ただ、間違った噂を信じとるようじゃあおまんも大した事はないぜよ。」
「おう?間違ってるの?」
「俺はマジシャンじゃなか。イリュージョニストなり。」
棗は少し目を見開いた。
イリュージョニスト。
イリュージョンーーーつまり幻惑、幻想、幻覚等、俗に言う幻。それを見せる事に特化した者。
「ほおおおん、予想外だったわ。マジシャンじゃなかったのか。」
「人にちょっかいかける時は、手品紛いの事をする事が多い。マジシャンちゅうんは其処から来とるんじゃろうが、俺の本分は違う方ぜよ。」
「はああ・・・」
思った以上に変な奴だった。
と棗は思ったが、仁王の方も棗に言われたくはあるまい。
「これは、吉と出るか凶と出るかねー。」
「何の話じゃ?」
「実はお前にお願いがあって来たんだよね。」
「お願い・・・?」
「そ。俺たちの事助けてほしーのよ。」
なんだか面白い話の匂いがする。
そう感じた仁王は空ばかり見上げていた顔を少し棗の方に傾けた。
「俺、バンドのメンバーなのね?で、校内ライブをしたいんだけどどうも演出上手くいかないの。俺達のやりたい事しようとすると、それは現実的に無理がありますねってなるわけ。」
「そんな事有り得るんか?というか、現実的に無理って何する気なんじゃ。」
「大した事はしようとしてないよ。ただ人手が足りないのさ。」
「・・・はあ。」
「まあそういうわけなんだ。だから助けて欲しい。どうやったら見せられるか・・・いや、魅せられるかの意見を仰ぎたい。時間が足りないんだ。お前みたいなプロが居るなら、頼まない手はない。」
「買い被りじゃなか?」
「一応買い被りじゃないと思って此処来てるわけなんですけどw」
「ふうん・・・」
面白そうな話ではある。
だが。
「ただと言われると、どうも腰が上がらんのう。」
「それ言うと思ったw」
「良い読みじゃ。で、何を出してくれる?」
「もう出したwだから頼みに来たw」
「は?」
「俺の妹が当てたルーレットで飲むサイダーは美味かった?」
ルーレット。
サイダー。
妹。
仁王の脳裏に蘇る、先日自販機で会った女子生徒。
「・・・やられたなり。おまんの双子の妹っちゅうんは彼奴の事か。」
「ご名答ー♪」
勝ちを確信した顔で呑気に笑う棗。
悔しい。
色々と、してやられた感があるのは否めない。
借りを知らずに作っていた事も。
そして何より、面白そうだと思ってしまってる事も。
「・・・よか。引き受けちゃる。」
「うし!んじゃあ早速、今日お前の部活終わってからね。」
「おい待て。しれっと言うとるが、テニス部は結構終わるまでかかるぜよ。」
「知ってる知ってるwでもしょーがない。彼奴らもそうだもん。んじゃ、宜しくー。」
(・・・彼奴ら?)
彼奴らとは誰だ。
そう問い直そうとして上体を起こす間に、棗はもう屋上から出て行ってしまった。