今講堂は薄暗い。
前方のスクリーンで、立海学園の歴史というフィルムが流れているからだ。
とはいえ、毎年の事なので上級生はもう鑑賞済であり、1年生くらいしか集中して見ている生徒は居ない。
「そろそろ行くかい?」
「うん。」
幸村に促されて千百合が時計を見ると、もう準備の時間だ。
さっきから、紫希も仁王も丸井も居ない。
けど、きっとどこかで自分達の為に何かしてくれている。
だから自分達はライブを。
最高のライブをしないと。
「・・・・」
「緊張してる?」
「うん。でも、やりきるしかないから。」
成り行きによっては最初にして最後の校内ライブになってしまう。
その事は幸村も、他のテニス部の面々ももう知っていた。
それでもやる。
そう心に決めて凛とした光を目に宿す千百合を、幸村は綺麗だと思う。
「・・・・」
「精市?どうしたのキョロキョロしちゃって。」
「いや・・・スライドショーだから暗いなあって思って。」
「?まあ、そりゃあ見やすいように多少はく、ら・・・!」
暗いから。
だから大丈夫だよ、と心の中で言い訳して、幸村は千百合の右手を取った。
「ちょ、」
「頑張って、千百合。」
「・・・頑張る、けど。」
「皆と見てるから。」
「・・・・・」
「作戦がどういう物かはまだ分からないけど、トラブルが起きても俺達でなんとかするよ。だから千百合達はこっちの事は気にしないで。生徒の皆・・・観てるお客さんの事だけ考えて。」
見抜かれていた。
「精市・・・」
本当は心配だ。
心配しない、なんて出来ない。
皆々、ビードロズのライブの為に考えて、行動して、危ない橋を渡ろうとしてくれてる。
生徒会にだって迷惑かける。
全てが終わったら皆して怒られるに違いないのに、手を貸してくれる。
でも、もう賽は投げられた。
やるしかない。
「・・・有難う。」
「ううん。大した事じゃないよ。」
「そんな事無い。精市が大丈夫って言ってくれるだけで、私は安心する。」
根拠なんて無い。
只、大好きな貴方がそう言ってくれるから。
「よし!じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい・・・」
暗くて良かった。
囁かれた耳が熱いなあ、と思いながら幸村は少し手をぱたぱたさせて自分を仰ぐのだった。
「・・・そろそろかねー。」
「行くのか。」
「おう。後あれだけ食べたら。」
棗も男子である。
運動部には劣るとはいえ、それなりに食べるし食事は好きだ。
「そーだやなぎ―君。」
「?」
「やなぎー君はあれやってくれんの?ほら、幸村と一緒に。」
「・・・ああ。」
何の話かと思った。
「そのつもりだが。」
「マジかよw」
「止めた方が良いか?」
「いやいやw意外だっただけで。・・・本当に有難いよ。真面目な話。」
「大した事じゃないが。」
「そう思うでしょ?でもステージに立つとさあ、どんな応援よりブーストかかるのよ。」
そう言って棗は取ってあったポップコーンの、最後の一粒をポーンと弾いて食べた。
芸達者である。
「んじゃ、行ってきやす。」
「ああ。だがその前に・・・」
「アレの回収ねw」
棗と柳は笑って、紀伊梨の方に目を向けた。
「おい、もう時間だぞ。」
「ふぇ!?もむんまむぐぐ・・・!」
「口に物を入れたまま話すな!たわけが!」
ハムスターの如く、口いっぱいにデザートを頬張っていた紀伊梨は、桑原から時間を告げられて危うく吹き出すところだった。
もうこんな時間だとは。
「むぐ・・・ぷはあ!えー!?早いよー!っていうか、紫希ぴょんとブンブンとニオニオはー!?」
「む・・・そういえば、未だに姿が見えんな。」
「まあ、色々あるんだろ?ほら、作戦とやらの為に。」
「むー・・・」
本当に見ててくれるのだろうか。
思わず紀伊梨は口を尖らせてしまう。
「・・・気持ちは分かるけどな。でもほら、今居ないだけでもう少ししたら来るかもしれないだろ?」
「むむむ・・・」
「・・・たるんどるぞ!」
「たるんどるって何さー!」
「仁王は春日に最前列で見させると約束したのだろう!人の事を疑っていないで、自分のやるべき事をやらんか!」
紀伊梨は目を見開いた。
そうか。
そうだ。
気を揉むという事は、自分が仁王を信じていないという事になる。
「・・・うん!ありがとー真田っち!私頑張るね!」
「ああ、その意気だ。」
「いき?」
「あのなあ・・・」
「・・・少しは勉強せんか!たるんどる!」
「今更よ。」
「しゃーないしゃーないw」
「あ!千百合っちー!なっちん!」
お迎えが来た。
「じゃ!行ってくるねー!」
「ああ!頑張れよ!」
「うむ。」
3人はステージのセットをするべく舞台へと向かった。
「・・・行ったな。」
「ああ。上手く行くと良いが。」
などと普通に話す真田と桑原の後ろ。
幸村と柳はヒソッと話を交わす。
「・・・ところで柳。」
「ん?」
「仁王は結局、俺達の調べた事を使ってるのかい?」
幸村と柳が昼休み外していた理由。
それは、仁王から頼まれたある調べ物であった。
それは何かと言うと。
「遠慮なく使っている確率、96%だな。」
「そうか・・・流石に心苦しくはあるね。」
「まあ確かに、調べた事がどう使われるかは知らされてはいなかったとはいえ。
・・・人にいう事を聞かせる為に用いられる事になるとはな。」
開演まで後20分。