GW最終日。
この日も朝から暑かった。
そう、暑かったからあんな一日になったのだ、と真田は思わなくもない。
今になって振り返ってみれば、だが。
「かき氷が食べたい。」
朝の7時に何を言ってるんだろうか此奴は。
真田の感想はそれだ。
「こら左助。何を言ってるの、今はご飯を食べなさい。」
「嫌だー!かき氷が食べたい食べたい、」
「喧しい!何がかき氷だ、甘い物ばかり食べとらんで朝食を食わんか!」
本来両親か、若しくは祖父母が言うべき事がついつい口から出てしまう真田。
断っておくが、左助の両親の対応が遅いわけではない。
真田が早過ぎるのだ。
「全くたるんどる!4つにもなって、」
「弦一郎。左助を庇うわけじゃないが、お前が4つの時と普通の4歳児を一緒にしてはいけない。」
「何を言ってるのです兄上。幸村の奴もこの時分にはもっと落ち着き・・・」
「幸村君もだ。」
頼むからこの弟は、自分と親友が年相応の精神年齢ではない事をもう少し自覚してくれないだろうか。
真田の甥、左助は4才。第二次イヤイヤ期の真っただ中である。
そう、本来4つというのはイヤイヤ期なのだ。
箸が転げてもおかしい年頃、というが箸が転げても嫌になる年頃という奴で、もう兎に角自分の思い通りに行かないとイヤ。周りが怒ろうと宥めようとイヤ!ハイと言われてもイイエと言われてもイヤーーーー!そういう年。
間違ってもどこぞの誰かさんのように風林火山の概念を掴めるような年じゃない。
「まあまあ左助ちゃん。かき氷はおやつの時に食べましょうよ、ね?」
「母上、甘やかしては、」
「嫌だ嫌だ嫌だー!」
ピキ。と青筋が立つが、今度は左助の母ーー真田の義姉である伊奈の方が早かった。
「左助!我儘ばっかり言うんじゃないの!」
「嫌だ!」
「父さん、ちょっと左助を隣の部屋に連れて行くから、」
「嫌だ!」
がっつんがっつん溜まるフラストレーション。
ああ、子供とはこんなにムカつく生き物だっただろうか。
他所の子なら嫌だ嫌だと喚いていても何とも思わないのに、身内になった途端急に気に障る。
別に嫌いなわけじゃない。子供は可愛いものだし、家族なら尚更だ。
ただ、逆に可愛いからこそ泣き喚かれるとどうしても無視出来なくて、言葉は通じているのに話は通じないわ、聞き分けは無いわ話し合いにもならないわで、二進も三進もいかない。
もっと和やかに過ごしたいのに、千百合と上手くいかなかった時より数十倍も数百倍も難しい。
ああ腹立つ。
腹の底では可愛いと思っているから輪をかけて腹立つ。
そんな事を考えていたら、顔に出ていたのだろうか。
嫌だ嫌だと叫ぶ左助と、目が合ったその瞬間。
「・・・嫌だー!!!」
「・・・人の顔を見て嫌だとはなんだこのたわけが!」
「嫌だ嫌だ嫌だー!ゲンイチローなんか嫌いだー!」
「結構だ、お前に好かれようなどと思っとらんわ!」
「あっち行けー!」
「こら左助!」
兄、信行の制止ももう遅かりしであった。
大人びては居ても真田も中学1年生。5日間こんな事の繰り返しに付き合い続けて、もう限界だ。
「・・・言わせておけば。」
「弦一郎、」
「俺とてお前と一緒に居たくなぞないわ!言われずとも俺は練習だ!直ぐ出て行ってやる、好きなだけ叫べ!」
朝食、まだ残ってる。
そんな事に気を配る余裕もない真田は、サッと部屋を出ると憤懣遣る方ない思いのまま玄関まで行き、用意してあった荷物を引っ掴んで学校へと駆けて行った。
まだ7時。
それでも、暑かった。
兎に角日差しが強くて。
だから今日は、こんな日になってしまったのだ。