「桐生、あれ出しといてくれ!」
「可憐ちゃん、この箱何処から持ってきたっけ?」
「桐生さん、次のメニューの準備終わってる?」
桐生、桐生さん、可憐ちゃん。
呼ばれる度に何か用事が出て来て逆に笑えてくるレベル。
「つ・・・疲れた・・・」
お前連休明けから網代の代わりな、という事で連休明けた今日の朝練、早速可憐はリーダー扱いされるようになったわけだが、これは辛い。
慣れない事をするからミスが出るし、しかもカバーも上手く出来ない。
ドジは置いておいて、まだまだ知識が足りないのだ。
(ええと、ええと、このメニューが今からじゃ時間が微妙だからこっちを先にする?あれ、先にして良いんだっけ?後じゃないとこっちの練習に影響出るかな?あれ?あれ?あれ・・・)
パニックはパニックを呼ぶ。
頭がぐるぐるして、普段なら分かる事が分からなくなる。
「可憐ちゃん。」
「はいっ!何っ、ごめんなさいっ!すぐやります!」
「落ち着きて可憐ちゃん。」
「おし、たり、君!」
なんだ、何の用事だ、と目を回しながら応対する可憐に、忍足は苦笑する。
「用事やあらへんて。手伝いに来たんや。」
「分かった、手伝い・・・手伝い?」
「手伝うって言うたやろ?」
そうだっけ・・・な顔に、如何に可憐が参っているか分かる。
忍足は可憐の背中にトン、と手を当てた。
「忍足君?」
「深呼吸しいや。」
トン、トン、と背中を軽い力で叩かれると、段々頭から要らない血が下がっていくような感覚がする。
「どない?」
「・・・なんだかスッキリした!凄いね忍足君っ!」
「よっしゃ。ほんなら一個一個行こか。今どないなってるんや?」
「ええと、今これをやってて、で、次はこれなんだけど時間があるから、こっちを先にして良いものかどうか・・・」
「それやったら、これでもこれでものうて、こっちのん先にしよ。」
「良いの?」
「ええよ。これがロブの練習やから、腕の負担考えるんやったら・・・」
ウンウン、とスッキリした目つきで忍足の話を聞く可憐は、やはり頭は良い。
呑み込みも良いのだ。
「分かった!有難う忍足君、そうするね!」
「おん。それはええねんけど、それはそれとして可憐ちゃん。」
「はい?」
「昼休み、時間ある?」
「今日?今日は特に何にもないから・・・」
「いや、今日だけやのうて。」
「え?」
ちょっと考えてはいた事だったのだ。
ただ、今日の様子を見ていると「いずれ折を見て」の「折」が早くも今訪れているとみて良い。
「思うててんけど、俺と勉強せえへん?」
「勉強?」
「テニスの勉強や。マネージャーの事やのうて、もっと技術的いうか、スポーツ科学の話やな。可憐ちゃん、あんまりテニスの事よう分かってへんやろ?」
網代と比較した時、可憐のマネージャーとしての総合力で大きく足を引っ張るのは、テニスという競技そのものに対する知識と理解の乏しさである。
それが無いから咄嗟の時に判断に時間がかかり、モタついてパニックを起こす。
網代はジュニアで良い成績を納めた選手だし、その辺は折り紙付き。引き換え可憐は、テニスという物に触れてから僅かに1月。
だから同じ働きをしろというのがそもそも酷なのだけど、跡部はそんな甘い事言ってはくれない。
「ほっ、本当!?迷惑じゃないかなっ!?」
「構へんよ。俺も勉強したい事ようさんあるし。」
「やったあ!お願いしますっ!!」
可憐自身もやらなきゃやらなきゃと思っていたのだ。
でもやるとなると誰かテニスに造詣の深い人に頼らざるを得ないので、どうしようと思っていた。願ってもない。
「じゃあ、今日のお昼ねっ!」
「おん。迎えに行くから待っとくんやで?」
「はーいっ!」
さっきと一転、ウキウキモードでニコニコ笑う可憐。
本当に頑張り屋さん。
これだから、手を貸してしまうのだ。