擬音をつけるなら、ドーン!か、キラキラキラ・・・か、どっちにしようか迷う所。
この量。
ずっしり感。
それでいてカラフルでふわふわで、見ている目まで溶けそうな程甘い。
そんなスイーツ達が、もうこれ以上乗れないというくらいお皿の上にぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっと。
「おし!いただきます!」
「いただきます。」
紫希と丸井はテニスを終えて、予定通りバイキングに来ていた。
お昼なんだからちょっとはしょっぱい物を・・・とかそういう発想が丸井にはない。
だから紫希がちょっと目線を上げると、眼前にはケーキの類が並ぶばかり。
その1つに丸井のフォークが入った。
「~~~美味い!勝った後のケーキは格別だろい!」
「ふふふ。そうですね、美味しいですね。」
結局、ダブルスは丸井と紫希の圧勝で終わってしまった。
上手いとか下手とかも勿論だが、2人とも本気の丸井側と、片方やる気ない塩飽側では結果は火を見るより明らかだった。
小口辺りは最後の方は、ブン太君此奴に引導を渡してやれと実に堂々と反旗を翻す始末。
「もうちょい、接戦の予定だったけどな。ま、勝ったから良いけど。」
「塩飽さん、何か勘違いしてらっしゃいましたよね?」
「ああ、リア充がどうのってやつ?」
「はい。違うと言っても信じて頂けませんでしたし。」
「いや、あれは信じてなかったってより・・・」
頻りにリア充爆発しろ、爆ぜろ砕けちれと言う塩飽に対して、私達友達ですからと紫希は言い募ったが、そういう事じゃ無い!と一蹴された。
付き合ってるとかそうでないとかじゃなくて、俺女の子にあんなに懐かれた事ない!という類のやっかみだろう。
(でも俺、マジで懐かれてんのかな。)
それはちょっと優越感。
人見知りと仲良くするのはそれなりに苦労するんだから。色々と。
「?何ですか?」
「ん、何でもねえだろい!で?」
「はい・・・・?」
「なんで急にテニスしたいとか言い出したわけ?」
ひと段落ついたら絶対聞こうと思っていた。
幸村の友人なら、今の今までテニスに触れる機会は存分にあった筈。
それが何故今。
何故自分だったのか。
「・・・あの、仁王君には秘密にしといて欲しいんですけれど。」
「おお・・・彼奴に秘密か。」
「はい。どっちかというと、仁王君が何時も皆に秘密がある側の気もするんですけど。」
「はは!だな。まあ良いよ、分かった。言わねえ。」
「有難う御座います。それであの、仁王君、柳生君とダブルスを組みたがっているんですよね?なので・・・」
紫希は作戦の事を話した。
仁王に世話になったから、今度はそれを返したいと皆思っている事。
その為に柳生を引き入れる作戦を考えている事。
そしてその為に、この土曜日に色々考えたいと思っていた事を。
「へえ・・・そんで、テニスやってみたいって?」
「ええ。私、どうして自分がビードロズに居るのか考えてみたんです。」
「え?音楽が好きだからじゃねえの?」
「それも1つです。勿論、紀伊梨ちゃんや千百合ちゃんや、棗君が居るからというのも理由です。でも・・・」
紫希にとって何より大きい事は、それではない。今の2つもそれぞれ大きいけれど、1番大きい事は。
「・・・私はきっと、憧れているんです。」
「・・・憧れ。」
「ええ。私こんな性格ですから、1人で行動を起こそうとすると身が竦むんです。人にとっては大した事無いような事でも。でも、そのくせ1人じゃ出来ないような素敵な事をやってみたいんです。」
1人で成し遂げられる事には限界がある。
ましてカリスマ性も意気地も無い自分なら尚更。
でも、1人では見られない景色を見たい気持が捨てられない。
ワクワクしたい。
ドキドキしたい。
楽しい事に挑戦するのを、どうしても諦められない瞬間がある。
「だから私、ビードロズが好きなんです。ビードロズに居ると、皆が次々新しい事を考えて、私もやりたい事が見つかって。皆が背中を押してくれる・・・大丈夫だよ、出来るよ、やっても良いんだよって言ってくれますから。」
「・・・・・・」
「ですから私、柳生君に同じ気持ちになって頂けたら考えてくれるんじゃないかと思ったんです。」
「それで、テニス?」
「ええ。テニスに挑戦するのって楽しいんだよ、ワクワクするんだよ、皆とやればもっとずっと凄い事が出来るんだよって言えればと思いまして。でも、それには先ず自分がテニスをやってみて、楽しいと思えなくてはいけないので・・・」
くそ生真面目かよ。
と思う丸井だが、紫希はそういう性格だというのももう分かってきた。
「・・・そっか。」
「はい。」
「どお?楽しかった?」
「はい、とっても!色々下手くそでしたけれど、ラケットを振ったり、ボールが向こうのコートに入ったり、それだけでとっても楽しかったです。ラリーも出来ましたし、試合も。」
ちょっと教えて貰えたら、くらいのつもりだったのに、こんなに一通り教えて貰えるとは思っていなかった。
楽しかった時間。
今思い出しても笑顔が浮かぶ。
いつになくニコニコ顔で受け答えする紫希に、丸井も笑みが深くなった。
「本当に有難う御座いました。」
「おう、どういたしまして♪」
「私・・・」
「ん?」
「丸井君はテニスお上手だって元々思って居ましたけれど・・・自分でやってみて、もっとずっとそれが良く分かりました。」
丸井君は凄いです、と言って紫希は又嬉しそうに笑った。
「・・・そう?」
「はい!」
本当にこういう時の紫希の受け答えはキビキビしている。普段のあの自信のなさそうなオーラは何処へやら、目はキラキラで語気はハキハキだ。
それは良い事だと思う。思うけど。
(なんかこう、春日に正面から褒められるとすげえ恥ずかしいんだよな・・・)
もっと紀伊梨みたく、ブンブン凄いねー!と軽く言ってくれたら、当然!とか返せるのに。
千百合みたく、やるじゃない、としれっと流してくれるんでも良い。そうだろもっと褒めろい、とか茶化しながら返事出来るし。
でもこう、正面から大真面目に堂々と持ち上げられるとなんかもう、擽ったくて照れくさくってどうしたら良いのかわからなくなる。
嫌じゃないから余計に。
「柳生君も、何度かラケットを持ってみてはくれないでしょうか。きっと楽しいと思うんですけれど・・・」
「んん、まあそうだな。あくまで自分から握る気にならねえと、ってのがネックかもしんねえけど。」
「ですよね・・・」
「なんか、その辺の考えはねえの?」
「棗君がそれは任せてと仰ってましたけど。」
「それすげえ面倒な予感するな。」
知り合って間もないけれど、仁王と棗の言う「考えがある」がどういう意味を持つのか、丸井も皆も早くも掴み出している。
絶対何か大掛かりな事が始まってしまう。
そして自分達は巻き込まれてしまう。
いや、半分巻き込まれに行ってしまうのだ。
「あの、もしかしたらテニス部の皆さんにもお手伝い頂くかも・・・」
「もしかしたら、じゃなくてほぼ絶対の間違いだろい。」
「ごめんなさい・・・!」
ライブの時を彷彿とさせる。
企画者はビードロズなのにテニス部を巻き込むこの成り行き。今回は辛うじてテニス部関係あるだろと言えなくもないけど。
困った顔でおろおろしだす紫希に、丸井は又笑わなくなっちゃったなーなんて呑気に考える。
巻き込まれる事?それは全然構わない。
「良いよ、お前らに付き合うの楽しいし。」
「そう言って頂けると有難いですけど・・・」
「退屈もしねえし?」
「それは保証します。」
「ははは!其処は自信あんのかよ?」
「ええ。私が一番良く知っています。ビードロズは楽しい事を考える天才ですもの。」
「お前も?」
「え?」
「お前もビードロズだろい?」
「ちっ・・・」
違う。
そういう意味で言ったんじゃない。
丸井もその事を分かっていて言ってるのは、その崩れない笑顔を見れば分かるが、言わずにはおれない。
「違います、違います!私は違いますけど、」
「ビードロズじゃねえの?」
「ビードロズですけど、私以外の皆が楽しいのであって、私はそうじゃなくて、」
「どうだろうな?」
「違います・・・!」
紫希だって十分楽しい。
前そう言ったのに、やっぱり忘れてるなあと思いながら丸井はケーキにフォークを入れるのだった。