切原誕2017 - 3/4


夢を見た。

知らない所だったけど、此処が何の部屋かは一瞬で分かる。

黒板。
机。
椅子。
グラウンドが見える風景。

そう、此処は教室。

誰も居ない其処の真ん中で、机に向かう1人。

たった1人。

「・・・あああああ!くっそ、分かんねーよこんなの!」

あーあ・・・と言って、がっくり落ち込む、見知らぬ少年。

ああ、懐かしい。
紀伊梨も、受験の時はこんな風だったっけ。

「あ!笑ったな!」
「ん?」

少年はいつの間にか、テキストから顔を上げてこっちを見て居た。

「俺の事、頭悪りー、とか思ってんだろ!」
「何、良いの?」
「う・・・!いや、それはその、あれだけど・・・」
「ぷっ。」

正直な奴。

「なっ、そっちは良いのかよ!」
「あんたよりは数十倍マシと思うけどね。」

紫希に比べたら流石に劣るだろうが、成績という意味では人並み以上ではある。
千百合が少年の前の席に座ってテキストを覗くと、懐かしい問題がずらっと並んでいる。

「ふうん。つるかめ算分からないんだ。」
「!あんた、分かんの!?」
「このくらいは。」
「マジかよ!なあなあ、教えて!頼むよ!笑った事は許してやっからさー!」
「許して「やるから」ねえ・・・随分上から目線ね。」
「うぐ!お、教えて・・・下さい!」
「ま、許してやるかな。」
「よっしゃあ!」
「で?何処が分からないって?」
「えーと、まず」

そう言って引き受けたは良いものの、成る程。

教えれば教える程分かるがこの少年、なかなかの頭の悪さである。

「主人公の気持ちが・・・あー!もー分かんねー!頭が破裂するー!」
「あんた、本当に馬鹿ね。」
「分かってるっての!」

くそう、と言いながら又テキストに齧り付く。頭は悪いが、根性はあるらしい。

「・・・頼むわよ、本当に。」

その言葉は。
ポロ、と口から出た。

「何が?」

少年が顔を上げるが、答えられない。
千百合自身、良く分かって居ないからだ。

「・・・テストの出来かな。こんだけ教えといて点数伸びないとか、洒落になってないし。」
「ああ、そういう話!」

少年はニッと笑った。


「ま!任せとけって!ぜってー、無駄にしねーからよ!」


そう言って、根拠も無いのに胸を張る姿。

普段の千百合なら、馬鹿に磨きがかかって見えるから止めろ、とかいう場面。

でも、何故だろうか。
今、言いたいのは。
思ってるのはそういう言葉じゃなくて。

「・・・本当よ。」
「おう!」

「信じてるからね、あんたの事。」

吃驚した少年の顔が、ホワイトアウトしていく。

遠く。遠く。





「・・・・・・!」

ガバ!と上体を起こした。

オレンジ色の夕日が射す教室で、切原は机に座っていた。

周りには、友達同士で教えあったり只管問題に打ち込んで居たりする、自分と同じく自習する生徒の姿。

「やっべ、寝てた・・・」
「あ、あのう、切原君。」

そろ、と此方に近づいてくる、クラスメイトの女子。

「あ?何?」
「あの、言いにくいんだけど・・・問題集、大丈夫?」
「え?問題集・・・あああああ!」

すっかり涎で汚れているテキストを見て狼狽えて。

そしてやっぱり、切原は夢を見た事を忘れてしまった。

つるかめ算が、ほんのちょっとだけ分かるようになった気がするのは、次のテストの時。