「切原ー、お前あのゲームどこまで進んでるー?」
「へへん!聞いて驚けよ、昨日はもうチャプター15までクリアしたからな!」
「マジ!?」
「おう、マジマジ!」
「なあ、11の中盤の仙人捕まえるとこあんじゃん?あれどうしたら良いんだ?何回やっても捕まえられなくて、彼処で詰んでるんだけど・・・」
「あれは、」
スパン!
と、とても良い音が、長閑な教室に響いた。
「~~~~ってえ!なんなんだよ!」
「なんなんだよ、じゃない!あんたも日直でしょ、ちゃんとやってよ!」
「へいへい。」
「何よその返事!大体あんたね、いつもいつもそうやってーーー」
「あー、煩え煩え!分かったって言ってんじゃんか、お前俺の母ちゃんか何かかよ!」
「はああ!?誰があんたの母ちゃんよ!そもそもあんたが、」
「秋ー!なんか呼ばれてるよー!」
「あっ、はーい!切原、話は未だ終わってないからね!」
「終わりで良いじゃん・・・」
「終わってないの!直ぐ戻るから待ってなさいよ!」
げえ、と内心で呟く切原。
「面倒くせえ、戻って来なくて良いっつの。」
「いや、お前も日直忘れてたのは悪いだろ。」
「それは俺が悪いけどさ、言い方があるだろ言い方がよ!はーあ、なんでああいう女子って、ああやってわあわあネチネチ騒ぐのかねー!普段はそうでもないくせに、怒る時ばっかり大声出しやがって。」
「まあ気持ちは分からんでもないけどさ。」
「だよな?だよな?せめてもう少し静かにして、言う事だけスパッと言ってくれても良いじゃねーかよ!」
「その潔さを持ってる女子はなかなか居ねえんじゃねえかなー。」
そうなのかな、なんて考えていると、ふいと欠伸が口から出た。
「お、おい寝んの!?」
「悪い・・・放課後になったら教えて・・・」
今から放課後迄って、寝過ぎだろ。
というか、又怒られるぞ。
そう言うクラスメイトの声が遠く。
遠く・・・
「おい。」
「ぎゃあっ!」
不意に後ろから声をかけられて死ぬ程ビビった。
「なんだ黒崎先輩っすか・・・もー!驚かさないで下さいよお!」
「別に驚かしたつもりないし。お前が勝手に驚いてるだけじゃん。」
「う!」
「ボーッとしてるからそういう事になんのよ。」
「ぐ・・・そうっすけど!」
反論の材料を探したが、見当たらなくて取り敢えず黙った。
「・・・・・」
「何よ。」
「・・・何ってなんすか。」
「偉く静かじゃん。何時ももっと、わあぎゃあ騒いでるくせして。」
「そんな煩くないっすよ!それに・・・俺だって落ち込む時もあるっつうか・・・」
「ふうん?あ。」
「?」
「分かった、又負けたんだ。」
「ぐううっ!」
痛い。
凄く痛い所を、凄い勢いで突かれた。
「・・・黒崎先輩ってー。」
「あ?」
「オブラートに包むとか、優しく言うとか、そういうの全っ然無いっすよね!」
「少なくとも、あんたにそれする意味があるとは全く思えない。遠回しに言っても察さないじゃん。」
「ううう・・・」
痛い所に海水をごしごし擦り込むかのような痛さ。
「容赦ねえって言葉がピッタリっすよね、あんたら2人揃って・・・」
「それは俺の事も言ってるんだよね?」
ひた。
と背中に冷たい物がそっと寄り添うような感覚。
「ぶ、」
「ぶ?」
「ぶ、ぶ、部長・・・!」
「ああ、部長って言いたかったのか。ふふっ、何かと思ったよ。」
後生だから、笑わないでくれるだろうか。
超怖い。
「あ、あの・・・」
「うん?」
「す、すんませんっ!その、別に俺部長が厳しいって言いたかったんじゃなくて、」
「超厳しくて超怖いって。良かったね。」
「言って無いっすけど!?」
「そうなのかい?傷つくなあ、俺はこんなに優しくしてるつもりなのに。」
「部長!今のは先輩の冗談っすから!俺言ってませんって!先輩も真顔でそういう事言わないで下さいよ!部長が信じるじゃないっすかあ!」
必死に言い募る切原に、目の前の少々意地悪な先輩2人は可笑しそうに笑った。
「ふふふっ。冗談はさておき、大丈夫だよ。俺は傷ついてなんか居ないから。」
「・・・そっすか?」
「俺の事を怖がってるのは分かるけどね。」
「い”っ!」
そう。
ぶっちゃけ、怖いとは思ってる。
ある意味怒鳴ってくるあの副部長より怖い。
「良いんだ。先輩っていうのは、後輩に怖がられるのも仕事なんだから。」
「そ、そうなんすか・・・?」
「うん。だから、怖がるのは存分に怖がってくれて良いんだよ。」
「・・・・・」
「良いんだよ。」
もう十分です。
「じゃあ、俺は次の授業があるからこれで。2人とも、又後でね。」
「ん。」
「はーい・・・」
ふう、と息を吐いた。
ああ怖かった。
あの人の前はどうも気が緩められない。
「ちょっとお!あんた何言ってくれてんすか!」
「本当の事じゃん。」
「ぐ・・・!」
「それに、別に怒ってないよ。」
「ぜってー嘘!」
「嘘じゃないって。寧ろ喜んでるって。」
「なんで怖がられて喜ぶんすか!」
「だってあんた、そのくらいじゃないとついていかないでしょ。」
「へ?」
「言う事聞かないしワガママだし、そのくせ実力はあるし。テニスの先輩として面倒見ようと思ったら、怖いって思われてる位が丁度良いのよ。」
そう言われると言い返せない。
その通りだからだ。
「・・・まあ、そっすけど。」
「分かったなら大人しく怖い目に遭っとけ。」
「怖い目に遭うのは前提なんすか!?ちょっと!ちょっーーー・・・・
「きーりーはーら!」
「いてえっ!!!何!?何だ・・・げっ!」
目の前には、激おこムカ着火ファイヤーなクラスメイト。
「後で話あるって言ったでしょ!寝るな!仕事しろ!」
「う・・・しょうがねえだろ、眠くなったんだからよお!それに今、何つうかこう・・・」
「こう?」
「こう、すげえ大事な夢を見た気がするっつうか・・・」
嘘じゃない。
本当に見た。内容は忘れちゃったけど、素敵な夢を。
嘘じゃない。
嘘じゃないけどだ。
「知るか!」
「あでーっ!」
日直サボってる奴に、大事な夢が云々言われても知った事かという話。
「ほらもう!黒板消して!花瓶の水も換えて!日誌も半分はあんたが書くの!」
「いででで!分かった、分かったよ!」
(親愛あらばこそ)
(もう少し、俺に対する情けはねえのかよ!?)
(あるかそんなもん!)