切原誕2019 - 4/4


「出ねえー!もー嫌だー!」
「俺の台詞だっつの!なんで俺がゲームするわけでもねえのに、一日ガチャ引いてなきゃなんねえんだよ!」

今日に限ってスクールはコート整備で休み。
塾も無いから気ままな放課後になると思って、だから家に友達読んで久しぶりにテレビゲーム大会といこうと思ってたのに、なんで帰宅してまで興味もない萌え系アプリのガチャに時間割かれなきゃならないんだろう。

「お前らまだやってんのか?」
「おお・・・」
「お前らじゃねえ、此奴!俺は止めてえの!」
「ははは。」

もういい加減うんざりしてきた。
もう十分付き合ったから良いだろ、なんて思っていると、別の友人が画面向こうのゾンビを華麗に捌きながらうーん・・・と呟く。

「なあ。」
「あ?」
「気分を変えるって意味でさ、切原のスマホでやったら?」
「はあ!?なんでだよ!っつうか、俺のスマホに入れたところで、」
「だから、それで出たら引継ぎコードだけ出して消したら良いんだよ。それを此奴が入力すればいい。アカウントの譲渡ってやつだ。」
「おお!良いなそれ!」
「良くねえよ!面倒くせえ!」
「まあまあ。一回だけ。な?代わりに、お前はもういい加減解放してやれよ。切原が可哀想じゃん。」
「う・・・・わ、分かった!」
「ほら、切原。こう言ってるし。」
「・・・分かった!これで終わりな!もーこれっきりだからな!」
「有難う!」

もうこれで終いにするから。
ずっと聞きたかったその言葉が聞けただけで、もうずっと見ていたどうでもいいキャラのアイコンがスマホに生まれるのも許せる気がする。

「えー・・・お名前は?」
「あ、名前は変更効くから適当で!」
「はいはい。えーと、ストーリーがこれでメニューがこれで、ガチャ・・・結局どれが当たりなんだよ?」
「アリスちゃん!ピンクブロンドでロリ系で、巨乳で舌っ足らずな喋り方g「取り合えず引いて、画面見てもらったら良いじゃん。」
「まーな。これで、10連ガチャを引きますよ・・・ってね。」

きらきら光りだす画面。
仰々しいサウンド。

並んでいく10枚のカード。
薄いブルーはノーマル。4枚。
レッドはレア。4枚。
シルバー。Sレア。1枚。
ゴールド。SSレア。1枚。

レアリティの低いのから捲られていくカード達。
ノーマル。レア・・・

「あ!アリス!」
「マジで!?」
「SR。」
「は・・・・」
「はははははは!」

これは出たと言えるのだろうか。
とはいえ、切原の見てる限りではSRといえどアリスなるキャラを見たのはこれが初めてだ。

「SSRは?」
「右下にカノンって書いてっけど。」
「カノンちゃんかー!カノンちゃんも良いなー・・・底抜けに明るくて元気で、弾けるパッション!って感じが!」
「じゃあもうこれで手を打って、切原からコード貰ったら?」
「むーん、悩ましい・・・確かにカノンちゃんはステが良いし、SRとは言えアリスちゃんは手に入る・・・・」
「どうすんだよ。」

なんでも良いから結論早くしてほしい。
プレイの順番を自室のベッドの上で待ってるもんだから、段々眠くなってきた。

「・・・・・・」
「うーん困った・・・」
「・・・・・」
「SRとはいえ、リセマラし始めて初めて見るアリスちゃんだし・・・」
「・・・zz、」
「今後SRだけでも出るって保証もないしなあ・・・」
「zzz・・・・・」
「・・・良し!なあ切原、そのアカウント・・・っておい!」
「あーあ、早く決めてやんないから。」
「ちょ、なあ!引継ぎコード、」
「おいおい、友達のとはいえ人のスマホを勝手にいじるなよ?プライバシーの侵害だぞ・・・おっと、エイム外れた。やべ。」
「えーー!そんなおま、ちょ、どうすんだよ!えー・・・はあ。しょうがねえな、起きるまで自分のでもう一回やるかー・・・」










もう一回。
もう一回。

もう一回・・・


切原君!




「切原君!もう一回!」
「え?」
「もう一回やって!もう一回!」

放課後の空き教室で、超わくわく顔でこっちを見つめてくる紀伊梨先輩。
自分の右手に持っているシャーペンを見て思い出した。

「・・・ほいっ!」

くるん、と回るシャーペン。
所謂、ペン回しという奴。

とは言っても、そんな大したことじゃない。
たまたま今日一番簡単なのを友達から教えてもらって、授業中暇だったので(暇であるはずがないというのは棚上げしておく)なんとなーく練習し、昼休みになる頃にはどうにか落とさないで出来るようになれたと言うだけの話。

ペン回しの技術としては初歩の初歩の初歩。
大阪に居るスピードスターのスキルと比べると天と地の差どころの騒ぎじゃないけれど。

「おおおー!すごーい!」
「そ・・・そっすか!まあ簡単っすよ、このくらい!」

持ち上げられたら鼻高々になっちゃう中学生男子、切原赤也。

「何回か教えてもらったんだけど出来にゃいんだよねー!」
「そうなんすか?でも、先輩はギターやってるし指先器用だと思うんすけど。」
「そーなのかなー?」
「そっすよ!なんなら、俺が教えるっすよ!」
「おー!やったー!」
「へへへ・・・うっし!先ずこう持って!」
「はい!こう!」
「ん?何か今の時点でもう違いません?」
「およ!?どこ!?どこ!?」
「ええとそのー。中指の位置が・・・」

ああくそ。
上手く言えない、イライラする。

人のネクタイを結ぼうとしてる時のイライラ感に似ている。
出来るのに教えようとすると上手くいかない。

「こう?」
「じゃないっす!」
「こう?」
「じゃなくて!」
「???」
「あー・・・あ!そうだ先輩、ちょっとじっとしてて下さい!」

そうだそうだ、それこそネクタイの話と同じじゃないか。
対面でああしろこうしろというからいけないんだ。

こうやってさ。
同じ側に回って横についてさ。

「あれ?あれ?切原くーーー」
「良いっすか先輩!先ずこう!」
「あ、あいあいさー、せんせー!こう!」
「これっすよ、ここ!此処が違うんすよ、こっちの指をペンのこの辺、に・・・・」

そうやって触れた指が。

小さいな。
というか細いな。

豆が無くて、でも皮膚がちょっと固くて、ああ、ギターやってる指ってこんなのなんだって。
ギタリストの指。
でも女子の指。


大好きな、先輩の指先に。
自分の豆だらけの指が触れてるんだと、今なんだか唐突に思ってしまって。


ひとたびそう感じてしまうと、もう。

「すーーー」

すんません、先輩。
そうやって大声で謝ろうとしたけど。

でも。でも顔を上げたら貴方が。

「・・・・・・」

そうやって、赤い顔で手を見るから。
いつもあんなにお喋りなのに、急に黙るから。

だから。
なんだか謝らないでいいような気がしてきてしまって。

「・・・あの!」



続きは言えなかった。








「おーい、切原ー。続きー。」
「あ・・・・?」

コツコツ、と頭に固い何かを当てられてる感触。

何かと思ったらコントローラーだった。
コントローラーで頭を小突かれてるのだ。

「ほれ、2面まで来たから。」
「ああ、ん・・・あれ?彼奴は?つうかリセマラは?」
「あっち。」

顎で友人が指し示す先には、まだスマホを握りしめる友人の姿が。
あそこまで行くと逆に尊敬する切原に、友人は苦笑した。

「一旦はさ。お前の引いた結果で手を打とう、ってなってたんだけど。」
「マジ?」
「うん。ただお前が寝ちゃってさ、起きるまでもうちょっと自分でやるって言って又始めて・・・で、今結局「やっぱりアリスのSSRが譲れない」ってなってる段階に戻っちまった。」
「へー・・・え?おい、じゃあ俺のアカウント!」
「消しちまって良いんじゃね?ハズレでした、って事で。義務は果たしただろ。」
「・・・そっか。」

そういえば、そういう約束だった。
いずれにしろ、もう自分は解放されたのだ。

「・・・・・」

解放されたんだけど。

消そうとして、とっくの昔に暗くなっているスマホの画面を点けて、一瞬よぎったカノンのSSR。

明るく元気で、パッション弾けるって感じで。
なんだかそんな夢をーーーそんな人と過ごす夢を見た気がする、から。

「消さねえの?」
「んー・・・まあ、後々!それより続き!」

ベッドに置き去りにされたスマホの中。
アプリを消さない間は夢の面影が眠ってる気がした。



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