Prologue Side R - 3/7


「とーもだっち100人でっきるっかなー♪」

軽快に廊下を歩く紀伊梨。

周りに他の4人の姿は無い。

クラス発表を見た結果、同じクラスだったのは紫希と千百合だけだった。
後は紀伊梨も幸村も棗も、皆バラバラだ。

少々寂しくはあるが、まあ言っても詮無い事だ。
与えられた環境でめいいっぱい楽しむべく、紀伊梨は新しいクラスへとスキップで向かっていた。

「えーと、B組・・・おっ!此処ですな!」

意気揚々と扉を開けると、既に席は半分程埋まっていた。

黒板に書いてある席順から五十嵐 の文字を探す紀伊梨 。

「えーとお?五十嵐、五十嵐・・・あるぇ?」

「・・・此処だよ、お前。」

「んえ?」

振り向くと、赤い髪。

丸井が自分の真正面の席を指差していた。

「おお!あんがとなり!見っかんなかったよー!」
「いや、ド真ん中だろい!」

1番見やすい所に書いてあるのにどうして見つけられないんだろう。

丸井は紀伊梨を「明るく、且つ注意力散漫な奴」としてインプットした。

「いやはや、助かり助かりー!ありがと!」
「おお・・・まあ良いけどよ。」
「ねえねえ、名前なんて言うの?」
「俺は丸井ブン太。シクヨロ☆」
「ほうほう、丸井君だね!私は五十嵐紀伊梨ちゃんだよ、シクヨロ☆音楽と甘い物が大好きな、ティーンエイジャーです!」

此処に居る奴ら全員ティーンエイジャーだと丸井は思ったが、言うのは止めておいた。
どうもいちいち突っ込んでいたらキリが無い。気配を早くも感じる。

「んでもそうか!お前も甘い物好きか!」
「うん!丸井君も?」
「おう!あ、そうだ。」
「?」

鞄を開ける丸井。

ガバッと中を開くとそこには。

「お・・・お菓子がいっぱいだあ!凄ーい、宝の山だぁ!」
「へっへっへー!だろい?お前面白い奴だから、なんか一個やるよ。俺も何か食いたいし。」
「マジすかやったー!えーと、じゃあね、じゃあ・・・」

その時、紀伊梨の目に入ったのものは無論。
無論、アレである。

「・・・ああああああー!」

きい・・・んと耳鳴りがしそうな大音量で叫ぶ紀伊梨。
迷惑。

「なっ・・・んだよ!いきな「苺のムースポッキーだあ!」

紀伊梨が指差したのはそれ。
今朝から渇望していたのにいっかな手に入らなかった、苺のムースポッキーであった。

「苺の?これか?」
「そうそれ!もー、聞いてよー!こないだからずーーっと探してるのにさあ、何処行っても『まだ入荷してなくて』『うちは置いてなくて』ってさあ!」
「あー。」
「今日なんか駅の前のコンビニに駆け込んだら、今しがた売切れた所ですとか言われたんだよ!?酷くない!?」
「あーそりゃ・・・え?」

駅前のコンビニ。
というと今朝自分が寄った彼処だろうか。

という事は売切れにした張本人は。

「・・・・・・・」
「もー!かくなる上は、もう1つ向こうの駅に、」
「・・・五十嵐。」
「うん?」
「ん。」

袋を開けて、口を紀伊梨に向けてやる。

「一本やるよ。」
「良いの!?」
「なんかやるって言ったろい?」

別に丸井は悪い事をしたわけではないけれど、なんとなく悪い気になってしまう。

そうとも知らず、わーい!と笑顔で手を伸ばす紀伊梨だったが。

「あ・・・・」
「?」
「・・・ごめん、やっぱ良いや。」
「は?なんで?欲しかったんじゃねえの?」
「欲しかったけどー、私はmy sweet friend 紫希ぴょんと一緒に食べようねって約束したのですよ。」

此処で一本頂いてしまったら、自分だけ美味しい思いを――――文字通り美味しい思いをしてしまう事になる。
それはいけない。

「だからそれは遠慮しておくであります!」
「ふーん・・・。其奴も甘い物好きなのか?」
「紫希ぴょん?うん、好きだよ!あ、後ね後ね!紫希ぴょんは甘い物好きだけど、甘い物作るのも好きだし上手だよ!」
「マジ?」
「うん!ケーキが1番得意でー、」
「ガトーショコラとか?ショートケーキとか?」
「それも美味しいけど、私が1番好きなのはリンゴと紅茶のケーキかな!」
「なんだそれ美味そう!」
「美味しいよぉ?紅茶のクリームが良い感じの甘さで、も~、幾らでも食べれちゃう!って感じ!」
「うわ、すげえ!食いてえ!」
「うへへ、良いでしょ~?」

えっへんと何故か自分が大威張りする紀伊梨。

「其奴も立海か?」
「うん!C組に居るよん。」
「隣か。」

見えるわけでもないけれど、なんとなく紀伊梨の向こうの黒板を見てしまう。

その更に向こう、C組に居る紫希とやらの姿を探すように。

「・・・んじゃま、お近づきの印って事で。」

丸井はムースポッキーの未開封だった2袋目を箱から出した。

「ん。」
「うん?」
「五十嵐と、その紫希って奴に。分けて食ったら良いだろい?」
「マジかあ!?」
「特別だからな!普段はしねえんだぞ?」

丸井は基本的には面倒見がよくおおらかで優しいが、殊食い物の事になると話は別である。
でも今日は最後の一箱を攫ってしまった負い目と、それから。

それから。
これから。

「改めて、シクヨロ。」
「うん!よろしく!」

よろしくお願いします。
良いお友達になりましょう。
その気持ちを込めて目の前の貴方に。



それから、壁の向こうに居る、未だ見ぬ貴女に。