それから入学式が終わり、スケジュールを渡されカリキュラムを渡され、(一部の者にとってはかなり要らない)教科書を貰い、その日は解散。
立海では厳密にいうと入学式の日と登校日は分けられているので、今日は登校初日ではないのだ。
したがって部活なんかに入りたいと思っている者達も、それは登校日までお預け。
聞く事を聞いて貰う物を貰ったら、新入生に関する準備に早く取り掛かりたいと思っている教師陣に生徒達はサクサクと追い出され、その所為で「入学したぜ!」という実感が育ちきらぬまま新入生は暇な放課後を迎える事になる。
のだが、それは普通の生徒の話。
一仕事終えた者は別だ。
そう、例えばこの5人のように。
「んっふふー!あー、わくわくするなー!」
紫希、紀伊梨、千百合、幸村、棗の5人は、カフェでちょっと遅いランチタイムと洒落込んでいた。
ランチと一緒に頼んだクリームソーダを呑みながら、紀伊梨はご機嫌そのものである。
「本当にOK貰えるとはね。もうちょっと文句言われるかと思ってたけど。」
「ま、前例は少ないとはいえあるしねー。」
「それに、幸村君のおかげでかなりちゃんとした企画書に出来ましたからね。」
「そうそう、紫希ぴょんの言うとおり!いやー、ゆっきー様様ですなあ!」
「いや、大した事じゃないよ。」
「そんな事はありませんよ。本当に、幸村君がいなければ此処まで練られませんでした。」
「そうかい?まあ、何にせよ皆の役に立てたなら嬉しいけどね。」
この5人は入学早々、学校に交渉事を持ち込んで、それが通ったのだ。
何故こんなことが出来るのかというと、偏に幸村のおかげである。
スクールにて立海生からスカウトを受けていた幸村は、その伝手で立海の学校としての情報をいち早く入手できた。
紀伊梨の「幸村様様」発言は強ち過言でもない。
「でさあ、これからの事なんだけどー。」
棗がコーラをズルズルと音を立てて吸い込みながら言った。
「中学生になった事だし、ビードロズは続けて行くんでしょ?」
「そりゃあね。」
「もちもち!折角中学生になって、音楽室とか借りれるようになるんだからさっ!」
「出来る事の幅も増えますからね。」
「校内ライブなんかも出来るらしいからね。」
ビードロズ、というのは紀伊梨をリーダーとしたバンドのグループ名である。
ボーカル兼ギターの紀伊梨。
ベースの千百合にドラムの棗。
それから梃子でも舞台に立とうとはしないが、作詞担当の紫希。
この4人で組む3ピースバンドである。
因みに、ビードロズという名前の最初の由来は、かの世界的なロックバンドビ/ートルズの名を、紀伊梨がビードロズと聞き間違いした事から始まる。
「幸村は?」
棗の促しに、皆が視線を幸村へと向けた。
「俺はやっぱり、テニスに打ち込みたいかな。」
その言葉に、4人は空気を緩ませた。
そう言うだろうなと思っていた。
「絶対、応援行くかんね♪」
「何かお手伝い出来る事があれば仰って下さいね!」
「うん、有難う。」
「大会の時とかはさー、日程とか言っといてくれたら此奴が愛妻べんと、う”ぎいっ・・・・!!」
千百合の爪先が、棗の脛を渾身の力で直撃した。
「な・・・何故だ妹よ・・・」
「雉も鳴かずばですよ・・・」
「きじもなかずば?ってなーに?」
「ええとですね、」
「良いよ紫希。此奴教えたって分からないだろうから。」
「何それー!分かるもん!紫希ぴょんが教えてくれれば!千百合っちの説明は分かりにく「ああ”?」ごめんなさい!」
「まあまあ。」
わあわあと騒ぐ4人。
それを幸村は微笑んで見ていた。
微笑んで見ていたのを、千百合だけが見ていた。