「せ・い・しゅ・ん・どまんなっかー♪」
歌いつつ、意味もなくけんけんぱしながら商店街を歩く紀伊梨を、紫希と棗は後ろで見守りながら歩いていた。
「今のは新曲?」
「はい。サビだけちらっと、紀伊梨ちゃんにお教えしたんです。」
「流石、仕事がお早いw」
「早くはありませんよ・・・もっと頑張らなくちゃ。」
「そーお?」
棗はこっそり苦笑した。
隣に居る友人は、一度だって褒め言葉を真面に受け取ってくれた試しがない。
もう少し自分に自信を持っても良いと思うのだが。
「紫希ぴょんは頑張ってるよ!っていうか、紫希ぴょんが頑張ってなかったら私って何!?って感じになるよ!」
「それは俺も思うわ。紀伊梨はも少し好きな事以外の事も頑張るべき。」
「何ぃ!?確かにそうだけど人に言われると腹立つぞ、なっちん!」
紀伊梨はけんけんを止めてくるりと後ろを向くと、2人の元に来て見上げるように紫希を下から覗き込んだ。
「頑張る紫希ぴょんに~・・・」
「?」
「紀伊梨ちゃんとのご褒美タイムを授けよう、ジャジャーン!」
「あっ!」
「お、苺のポッキー。」
紀伊梨の手にあったのは、あのムースポッキーである。
「えへへー!ブンブンから貰ったんだ、一緒に食べよっ♪」
「ブンブン?」
「新しいお友達ですか?」
「うん!丸井ブン太って言うの!小学校でブンブンって呼ばれてたんだって言うから、ブンブン。」
言いながらピリピリと袋を開ける紀伊梨。
「っていうか、それ持ってたの男子なわけ?」
「良いじゃん!言っておくけどねー、なっちん!時代はすいーつ系男子なんすよ、すいーつ系男子!今時は女の子は勿論、男の子だって甘い物好きな時代なんですよ?」
「sweetsってちゃんと言えるようになってから出直してこいやw」
「うるさいでやんすー!ほら、紫希ぴょん!あーん☆」
「あ、あーん・・・」
食べると、苺の甘酸っぱい味が紫希の口いっぱいに広がった。
美味しい。
「どお?どお?美味しい?」
「はい、とっても。」
「おおお!そうなんだ!どれ、私も・・・うううん!美味しい~!」
「マジか。俺もちょっと欲しい。」
「駄目~!」
「はああ?」
「これは私がブンブンから、「五十嵐と紫希って奴で分けろよ」って言われて貰った奴なんだもん!だからなっちんは駄目~。」
「ほほう、紀伊梨の癖に生意気な・・・」
「なっ・・・い、いや!私は脅しには屈しないぞっ!紫希ぴょん、2本目だっ!早く食べてしまえっ!奴が来る!」
「あ、ありが、あむ・・・」
美味しい。
とても美味しい。
(五十嵐と、紫希って奴で分けろ・・・)
もぐもぐしながら紫希は推測を巡らせた。
分けろと言われたという事は、つまり相手は紀伊梨が分けるという事を知っていて与えたのである。
(・・・もしかして、袋でくれたのはその所為なんでしょうか。)
普通友達とお菓子を分ける時は、開けたら自分と友人で同時に摘まむもの。
しかしこれをくれたブンブンこと丸井ブン太なる人は、丸々一袋分、自分の口には絶対入らないと分かっていてくれたのだ。
紀伊梨が分けたがっている事を知っていたから。
会ったばかりの紀伊梨と、顔も知らない自分の為に。
(・・・丸井君って、優しい人なんですね。)
名前以外何も知らないけれど、きっと。
今自分の目の前に、桜の花弁を振らせた春の風のように。
優しい、人。