仁王が棗を追わなかったのは、別に「彼奴ら」とやらが誰でも良いさと思ったからであった。
そう、別に誰でも良いと思った。
思ったけどだ。
「・・・こりゃあ、意外な面子じゃの。」
呼ばれた音楽室に居たのは、呼び立てた棗は勿論、紀伊梨に紫希、千百合のビードロズメンバー。
そして後2人。
「「神の子」と「マスター」にこんな所で会う事になるとは、世の中分からんもんなり。」
「仁王はそうかもしれないな。」
「俺達としては、至極納得のいく人選だけどね。」
彼奴らも一緒、と言われた時にテニス部かなとはちらっと思ったが、テニス部の中でも軽音楽とは程遠い2人と合流した事に、仁王は内心で結構驚いていた。
「さ!揃ったし始めるよー。」
棗がパンパンと手を叩いた。
「その前に、仁王は初めてさんが何人か居るから自己紹介タイム。よろよろー。」
「完全に初見なのは2人じゃな。A組の仁王雅治じゃ。サイダーの分は働くぜよ。」
「サイダー?」
何それ、な顔を皆する中で、千百合だけが溜息を吐いた。
「アレで吊ったのね、あんた。」
「あっはっはwまあまあ、その辺は後で。今は自己紹介の続き続き。」
「はいはーい!私は五十嵐紀伊梨ちゃんだよっ!クラスはB組で、リーダーとギターとボーカルやってます!よろしく!」
「出来るんか?」
「どういう意味!?」
間髪を入れずにこの返しが出来る男、仁王。
流石と言うべきかなんというべきか。
(流石仁王だな。)
(人間観察のスキルは、噂通りのようだね。)
「ゆっきー!やなぎー!今何かしつれーな事考えなかった?」
「「そんな事は。」」
「私の事は知ってるわよね。名前は黒崎千百合で、ベース。クラスはC組。よろしく。」
「この前は助かったぜよ。」
「別に。寧ろこっちが悪いわね、付き合わせちゃって。」
「それは構わん。面白そうじゃき。」
「ねーねー!なんかさっきから、サイダーとかこの前とかなーに「はいはいはいはい、後にしよーねー?」
「・・・・・」
棗は紀伊梨の発言をサッと遮った。
その辺を今掘り下げられると面倒なのである。幸村的な意味で。
「ほれ最後ー。」
「あ・・・初めまして、春日紫希と申します。クラスはC組で、作詞をやらせて頂いています。よろしくお願いします。」
「楽器はやらんのか。」
「私、何も出来ませんので・・・」
「逆よ、作詞出来るのが紫希しか居ないの。」
「そーそー!ステージには立たないけど、ちゃんと、メンバーなんだかんね!」
「ほお。」
「あの、そんな大袈裟なものではないので、本当に・・・」
(此奴はからかうと怒るより先に泣くタイプじゃな)
仁王は心の中で、悪戯して良い生徒リストの中から紫希をそっと外した。
「ま、メンバーとしてはこんなもんかな。で、後メンバーじゃないけど俺達の親友の幸村。それから紀伊梨に懐かれてる所為で貧乏くじ引いてる柳。」
「懐かれてる所為で!?」
「紀伊梨煩い。実際、貧乏くじなんだから。柳に感謝しなさいよ。」
「感謝はしてるけどー!」
「親友だったんか?」
「幼馴染なんだ。小学校の時からずっと一緒でね。」
「ほう。で、マスターは懐かれとるんか、面白い図じゃの。」
「まあ、成り行きという奴だ。」
「おーし。じゃあお互いにお互いを知ったところで、本題に入りまーす。」
棗は紙を磁石で貼ったホワイトボードを出してきた。
「まず、確認。俺達ビードロズは、今困っています。何故かというと、このままじゃ思い通りのライブが出来ないから。運営上の問題が生じて、演出を削るかそれとも諦めるか、どっちかにしろって言われてるわけね。それが昨日の昼の話。」
「紀伊梨が放送で呼び出されてたやつね。」
「いやいや~、何かしたのかと思って、ちょー焦りましたよ!」
「でも、それはそれとして五十嵐はもう少し生活態度を直さないと、今度こそ怒られるよ?」
「うっ!」
「まあまあ、今は違う話ですので・・・」
「そうねw続きだけどまあそんな次第で、昨日居合わせてくれた柳に詳細を教えて貰って、帰ってから幸村入れて俺達5人で考えたわけなんだけど、どうも手詰まり気味だ。なので、新しい意見が欲しくて今日は柳と仁王に来てもらった次第。ここまでオッケー?」
頷く面々に、棗は指し棒を伸ばした。
「次だ!条件の確認。これは当日のタイムテーブルで・・・」
「待ちんしゃい。」
「はい、仁王君。」
「それは生徒会しか持っとらん情報の筈じゃが。」
「盗んできたんだよ当たり前じゃんw」
しれっと笑う棗に、ある者は苦笑いある者は溜息。
紀伊梨だけは流石なっちん!と褒めているが。
「やるの。」
「サンクースwで、これを見て欲しい。まず開始時刻は此処から。で、その後これがありーの、これがありーので、ずっと来て、ここね。此処に1時間ある。この内の15分が、俺達が欲しい時間。」
「大凡3曲、というところか。」
「そう。まあ15分ってのは演奏時間だから、前後併せると30分は絶対欲しいね。で、もう一つ困った事が。これは生徒会からの要望なんだけど、なるべく纏まった時間が欲しいから1時間の間でもど真ん中は止めろと。つまりこの1時間が始まったら、始まった直後か終わる直前に持ってこないといけない。」
「でも、そうすると前後に他のプログラムが入る所為でこっちの手伝いに回ってくれる人間が居なくなってしまって、演出が出来ない。そういう事だね。」
「そう。なので、如何に人数を割かずに演出するか?其処が肝になる。」
「・・・・・・」
仁王は考え始めた。
まだ材料は足りないが、根幹となる部分は今聞いた。
さて、どうする。
「で、次に具体的に俺達がやりたいと思ってる事なんだけど・・・」
棗の話は続く。
曲のタイミング、照明のタイミング、入り方出方、移動の方法。
ただ、仁王は半分以上聞いちゃいなかった。
彼の頭の中では、もう7割型プランが出来上がっていた。