「・・・以上。これがまあ、今回の問題なわけだけど、どう?」
「やっぱり、難しいです・・・」
「春日はステージには上がらないから補助に回れるとしても、机上の空論の域を出ないだろうね。」
「だろうな。このタイミングで此処に移動・・・等と言うだけなのは容易いが、実際には人込みや通達や、細々としたトラブルが多いだろう。1人で回せるほど、スムーズに行動出来るとは思えない。」
「すみません・・・!」
「紫希は悪くないから。」
「千百合の言うとおり、春日が悪いんじゃないよ。不慣れな事は、人間誰しもテキパキ出来ないという事だから、春日だろうと誰だろうと、然程上手くはいかないさ。」
この問題の難しい所は、場馴れしている人間が居ないという事にあった。
学校を知っている2年生や3年生は此処には居らず、居るのは入学して1月も経っていない1年生のみ。
質が足りないなら、量でカバーするのみ!
と行きたい所なのだが。
「・・・やっぱり、誰か部外者に手伝ってもらうってわけにはいかないの?」
「一応今日の昼、幸村と聞きに言ったけど駄目だったねー。」
「そうやって手伝いを入れていくと、際限が無くなると言われてしまってね。」
「良いじゃんかそのくらいー!」
「そういうわけにはいかない。生徒会側とて事情はある。むやみに人を増やして、収集が付かなくなるという危惧は妥当だろう。」
「きぐって「後にしな、紀伊梨」
運営している生徒会側からしたら、自分達も必死なのである。
そこに手伝いだなんだと関係ない人間を投入されたりしたら、それこそ生徒会側が回らなくなる危険が出てくるのだ。
「でもさー、やっぱりお手伝いさん欲しいよー!」
「だからそれは無理なん、」
「だって、私紫希ぴょんに1番前で見て欲しいんだもん!」
その言葉に、仁王がはたと顔を上げた。
「・・・春日を補助に回さんという事か?」
「だってライブの間スピーカー弄ったりとかライト消したりとか、そーいうのはメンバーの仕事じゃ無いじゃん!紫希ぴょんはメンバーなんだよ!スタッフじゃないし、運営さんでもないよ!」
「五十嵐・・・」
「紀伊梨ちゃん、そんな事言ってる場合では、」
「やだー!やだー!私達の事一番見ててくれないとやだもん!」
「でも紀伊梨ちゃん、メンバーだからこそ私は働かなくちゃいけないんですよ。それが筋というもので・・・」
「やなの!」
「紀伊梨!わがまま言うんじゃない!」
千百合がぴしゃりと言うが、紀伊梨は止まらない。
「だって!作詞して演出して、それで裏で見てるなんて、メンバーじゃないんだって言われてるみたいでいやだ!千百合っちは違うの!?どーして皆平気なの!?」
「平気なもんか!でもしょうがないでしょ!紫希が動いてくれたって、まだ足りないような状況なのよ、分かってんのあんた!」
「だって、」
「私だって居て欲しいわよ!何時もみたいに一番前で、私達の事見ててほしいけど、そんな事言ってられないでしょ!」
「だっ、てえ・・・・!」
小学校の頃は、教師陣が舞台を設定してくれた。
だからステージに立たない紫希はいつも一番前で自分達を見ていて、紀伊梨はその風景が好きだった。
本当は一緒にステージに上がって欲しいけど、無理強いはしたくない紀伊梨の、現状一番満足のいく形。
それが今崩されようとしている。
紀伊梨にはその事がどうしても我慢ならないのだった。
「・・・・・・」
考える。
考える。
突破口があるとするならば。
「・・・五十嵐。」
「ふえ・・・?」
「春日を演出に回すか、ライブが中止になるか、どっちがより嫌じゃ。」
これの答えで取る手段が変わってくる。
紀伊梨は即答した。
「どっちも嫌っ!」
仁王は笑った。
「ピヨ。ええ答えなり。」
「でも、そんな事言ったって・・・」
「・・・何か、考えがあるのかい?」
「其処まで大袈裟なもんじゃなか。おまんら、物事は出来るだけシンプルにするもんぜよ。」
「というと、どういう事ですか・・・?」
「要は、人数が足りればええんじゃ。」
「それはそうだが、その方法が無いから今こうして、」
「まあ待て、先ず条件の見直しじゃき。なっちん。」
「はい何。っていうか、男子からなっちんと呼ばれる日が来るとはねw」
「黒崎じゃ区別がつかんぜよ。妹の方を千百合と「仁王君、お話の続きを!続きをお願いします!」・・・なんじゃ急に。」
今、仁王はちょっぴり幸村に宜しくない心象で見られている。
ほんのちょっぴりだし、仁王に非があるわけではないけれど、それを徒らに加速させる事もあるまい。
「まあ良い。なっちん、人間の労働力を数値化した時、幾ら欲しい?」
「おう?」
「俺を1としよう。春日はまあ、押しが弱そうなのは置いとくとしても、運動が得意そうには見えん。力とかスピードを考慮して、0.7っちゅう所じゃな。」
「おっしゃる通りで・・・」
「で、トータルで幾らあれば回るんじゃ?」
「ははあ・・・」
分かった。
言わんとしてる事が。
要はどれほど使える人間が何人必要かという話になる。
勝手を知り尽くしている人間なら少人数で回るし、逆に動きの悪い人間なら頭数を揃えねばならない。
その最低ラインを知りたがっているのだ、仁王は。
「・・・4、かな。」
「4か。」
「どう?難しい?」
「簡単とは言えんの。」
「だろうね・・・」
「じゃが、出来んわけじゃない。」
信じられない。
そう言いたげな視線を一身に浴びて、仁王は笑わずにはいられない。
ああ楽しい。
気分が良い。
人の予想を裏切るこの瞬間。
「・・・どうするつもりよ。」
「まあ見ときんしゃい。」
訝る千百合に、仁王は目を細めて微笑んで見せた。
「言うたじゃろ。サイダーの分は、働くぜよ。」