Help 1 - 6/6

「・・・ふう。」

千百合は未だ濡れている髪をタオルで拭きながら、ベッドに座った。

(見に来て、か・・・どうにかしないと。)

帰り道、幸村と別れた後千百合はその事ばかり考えていた。

見に行くのは良いが、現実問題として見られる位置迄行けるだろうか。
声援くらいならある程度離れていても聞こえるが、見える位置となると厳しい。
自分は別にチビでは無いが、取り立てて背の高い方でも無いし。

(精市の試合だけでも、今だけで良いんで、って言って譲って貰う?いやいや、無理よ。同じような事考える人はいっぱい居るだろうし。)

人から恨みを買うのを承知で、譲れ譲れ退け退け、なんて言えない。そんなみっともない事して見たって意味が無い。

「・・・どうしよ。」

途方に暮れかかる千百合の耳に、電子音が飛び込んだ。

~♪

(LINE?)

グループLINEの通知だった。
紫希と紀伊梨と、女子3人で作っているグループで、名前はビードロガールズ。

(紀伊梨から?何・・・!?)

千百合は目を見開いた。




『お疲れちゃーん☆千百合っちにお知らせだよ!今度の水曜日、ゆっきー達のレギュラー決めがあるんだって!知ってたあ??』

『それでね、皆で応援行こ!ニオニオが裏技を教えてくれたから、特等席で見れちゃうよ!』




(何、特等席って・・・)

そんな都合の良いものがあるものか。

と思ったが、仁王が絡んでくるなら話は別かもしれない。あの男は今日、千百合や皆の目の前でその「都合の良い事」を作ってくれた張本人だ。




『何それ。』

『あのねー!ちょっと待って、なんか色々言われちゃってさ!』

『紫希、お願い。』

『紀伊梨ちゃんを無視しないでー!確かに紫希ぴょんの方が説明は分かりやすいけどー!』

『ええと、お待ち下さいね。』

『端的に言うと、普通は来れない所に行って観戦する、という事です。』




(来れない?でもそれって、私達もいけないんじゃないの?)

千百合が訝しんでいると、紫希が追加の説明を続けた。




『まず、前提条件としてテニス部に部外者は入れませんから、観戦するなら周囲からという事になります。』

『その場合、道は一本しかありません。3号館の近くの自販機の裏を通る道を真っ直ぐ行って、テニス部の南側に出られます。』




それは千百合もよくよく知っている。
仁王と会った、あの自販機の道だ。




『此処からが仁王君のお話です。仁王君が仰るには、もう一つテニス部に近づくルートがあるので、其処を通って近く迄来いという事です。』

『・・・具体的には?』

『・・・先ず、2号館

の、階段下物置に忍び込みます。』
















ちょっと待てえええええ!




「あっはっはっはっはっは!www」

隣室から聞こえて来た妹の声に、棗は腹を抱えて笑った。

棗だって仁王から事の次第は聞いている。
だから千百合はそう言うだろうなと思っていたのだ。

「はあーあ、おっかしーw」

さて。
我が妹はどうするか。
















『仁王君曰く、誰も使わなさ過ぎて戸締りが杜撰で、何時も開いてるのだそうです。其処に入ったら、窓から外へ出ます。そうしたら後は外周フェンスと建物の間を真っ直ぐ行けば、テニス部敷地の東側に着く、との事です。』




「いやいやいやいやいや。」

おかしい。
いや、物理的には可能なのかもしれないが、そんな事やるか普通。
いや、仁王は普通じゃないのはなんとなく知っていたけれど。




『ただ、問題が3つ程ありまして。』

『3つじゃ済まない気もするけどねん☆』




千百合は珍しくも紀伊梨の意見に同意せざるを得ない。




『先ず、観戦している間は他人に見られるわけですので、後日他の方から「どうやって彼処まで行ったの?」と聞かれる可能性が高いです。それを躱さねばなりません。』




「成る程・・・それはそうか。」

自分はそれなりに自信がある。
兄の棗も大丈夫だろう。
推しの弱い紫希と、抜けている紀伊梨が上手くやれるかが心配だ。




『次ですが、人が通る事を前提にしていないルートを通る事になりますので、結構通りにくいそうです。足場が悪いし、女子には多少辛いかもしれないと言われました。』




「ああ、そっちもあるか。」

とは言え、道の詳細を聞いた時点でこれは想定すべき事だ。
これも紫希が心配だ。
彼女は運動が得意では無い。




『最後ですが、今言った道を行くと、テニス部東側のフェンスの向こう側に出られます。・・・が、其処から更に南か北へ進むと、実はフェンスの切れ目に辿り着いてしまって、内部まで入れてしまうとの事です。』




「えっ。」




『なので、植木に迷ってうろうろしていて、その内コートに出て来てしまう・・・という事態になる可能性があるそうです。そうなったら勿論即アウトですので、真っ直ぐ進んでフェンス迄出たら、原則彷徨かない事、だそうです。』




それは危ない。
下手を打つと、自分達のみならず幸村や仁王にとばっちりがくる。

(紀伊梨ね、やばいのは。)

絶対に野放しにするわけにはいかない。




『一応、概要としては以上です。』

『はい、分かりました!』

『あんた、聞いてたんじゃないの?』

『色々いっぱい言われると、覚えてらんないんだもーん!』

『あんたね。』




やはり不安だ。
というか、紀伊梨がどうのを置いておいても不安だ。

(だって、色々グレーじゃん、これ。)

一つ間違うととんでもない事になる。
絶対、絶対、隙を見せない様にしないと、と千百合は固く心に誓った。