千百合も普段買い物は悩まない。
ざっと見て、適当に楽そうなのを選ぶ。以上、おしまい。
なんだけど、こういう時は時間がかかる。かなり。
「それにしますか?似合うと思いますけど。」
「いや・・・」
「ああ、黒崎さんらしいな・・って、戻すん?」
「まあ。」
「うーん、もうちょっとああいう雰囲気のやつでもええんとちゃう?」
「・・・・・・」
「ねー千百合っちー!」
「何よ。」
「黒とか紫とかはさー、今年は無しにしやせんかっ!」
ぐ、と返事に詰まる千百合。
そう、千百合の好きな色は大体濃い色、寒色、明度の低い色である。黒とか青とか紫とか。
だから普段の服も大体そんな感じの色になりがちだけど、こういう時はついつい幸村の顔が脳裏を過って、偶にはピンクとかオレンジとか白とか着たほうが良いんだろうかとか考えてしまう。
又幸村の性格が、迷いに余計拍車をかけるのだ。千百合が何を着ても可愛いと言うので、全然参考にならない。
「あら、黒とか紫が好きなん?さっきピンク見てたからそっちのがええんかと思うたわ。」
「いやそれは、」
「おー!ピンク良いじゃんピンクー!それにしよーよ千百合っちー!」
「黒とかの方が好きなんやったらそっちのがええんとちゃう?」
「ええ、千百合ちゃんによく似合うのでそれで良いんじゃないかと思うんですけど・・・」
「えー!やだやだ、千百合っちがピンクとか着てるの見たいー!」
「紀伊梨ちゃん、でも・・・」
「紀伊梨ちゃん、気持ちは分かるけどこういう場合は千百合ちゃんの意見か、若しくは彼氏さん?居る?居るんやったらその人の意見が優先やで?」
「でも、紀伊梨ちゃん見たいんだもん!紀伊梨ちゃんが見たいんだったら、ゆっきーはもっともっと見たいよ!そーに決まってるよ!」
それはちょっとあるかも、と千百合も紫希も思ってしまった。
今のは結構説得力がある。
「うーん・・・侑ちゃんはどない思う?男として。」
「そんなん言われても困るいうか、本人に聞かな。個人的には、夏の海で振袖とかそういう無茶苦茶せえへん限りは、好きな女の子やったらどこでどんなん着てても大概は可愛い思うで。」
「えー!そんな事言わないでさー、おっしーからもオレンジとか勧めてよー!」
「馬に蹴られる趣味ないねん、堪忍な。」
危機管理能力の高い忍足は、彼氏持ちの女の子に自分が服のことをとやかく言うことの危うさがなんとなくわかっている。恵理奈みたく兄弟だというのなら兎も角、友達はまずい。頼まれてもないのに。
「ああもう面倒くさくなってきた考えるのが。」
「い、意見が分かれますね・・・」
でもサイズの問題で今買いに来てるのだから、何も買わないというわけにはいかない。
もう良いからどれか目についたのにしようかな、と思った矢先。
(あ。)
目についた。
「それ。それで良いや。」
「え?どれですか、あ・・・」
水色。
「あー、なんだー!千百合っちも知ってたんじゃーん!」
ぎ・・・と胸の奥が軋んだ気がする。
いや、気がするだけだ。きっと気のせいだよ。
「知ってた?」
「あ・・・幸村君、水色がお好きなんです。私は、ついこの間が初耳だったんですけれど。」
「へえ、彼氏さんの好きな色かあ。ええやん、それにしとこ!紀伊梨ちゃんもほら、この色やったら青系言うて明るいし、ええんとちゃう?」
「うん、良いよ!ゆっきー、きっと喜ぶよ!」
「・・・そ。」
ああ嫌だ嫌だ。
本当に自分が面倒くさい。
喜んで貰えそうなら良かったなって普通に思ってれば良いのに、お墨付きを貰ってもそのお墨は誰が署名したのと思うと急に面白くなくなるという、この矛盾が面倒で面倒で堪らない。
良いじゃん別に。紀伊梨の署名で。
自分の親友が署名してるんだぞ、どうしてそんなに嫌なんだよ。
分かってる、何が嫌なのか。
だから自分が嫌なのだ。
「いやー、これできっとゆっきーは惚れ直しちゃいますなあ、うんうん!」
「・・・・・・」
「よし!千百合っちの気が変わらないうちに買っちゃおー!紫希ぴょんも買うっしょー?」
「あ、ええ。買いますけど・・・」
(・・・千百合ちゃん?)
今の場面、いつもなら紀伊梨に一言言ったり小突いたりする場面である。
でも今の千百合は何も言わない。かといって恥ずかしがってる風でもないし。
(疲れてるんでしょうか・・・)
「紫希ぴょーん!行こー!」
「あ、はい!」
レジに向かう3人を見送って、忍足は安堵の溜息を吐いた。
ああやれやれ。これで買い物を終わらせられる。
「・・・ちょっと失敗してもうたかもしれへんわ。」
「え?何が?」
「水着。」
「水着て・・・決まったやん、今。」
「でもあれでええんやろか。」
「ええんやろかて、ええんやん。満場一致やったやろ、黒崎さんも含めて。」
「せやけど。」
「・・・?」
姉は偶に良く分からないことを言う。