バスのルートと、通る時間が分かれば何処の会社で何処行きのバスなのか大体は絞れる。
それこそ此処を横切って行きました、というだけでは難しいが、今回は紀伊梨が粘って追って行ったのでバスの特定はかなり簡単に済んだ。
「地下鉄の駅行きだな。」
「え?ジロっち電車乗っちゃうの?」
「違う。バスの行き先が駅だと言ったんだ。」
「途中で降りる場合も十分あり得ますよね。」
「まあ寝過ごして終点まで行くパターンもありそうだけど。」
何処へ行きたいのかと、実際何処へ行くのかが乖離しがちな芥川の足取りを追うなら、矢張り離されてはならない。
だもんで今リムジンは、芥川の乗ったバスの真後ろにピタリでついていた。
「やー、でもべ様が来てくれてちょー助かったよー!」
「そうですね。本当に有難う御座います、跡部君。」
「私ら荷物もあったしね。お手上げかと思ってたのよ。」
暑さと疲労の中3人分の浴衣セットを持て余し、通りで往生していた紫希と千百合。
その2人を、本当に幸運にも跡部が見かけて拾ってくれたのである。
殊人と荷物を運ぶ事に於いて強力な乗用車の力を借りられたのは、正にラッキーであった。
「気にするな。俺もジローを探してた所だったんだ、そういう意味ではこっちも楽が出来たぜ。」
なんだかんだ面倒見の良い跡部は、迷子が出たよと聞くとどうしても探してしまうのだ。
その上部員だし、それになんだか自分の名前を出して失踪したようだし。
「ジロっちって結局、何しにどこ行くのかわかんないんっしょ?」
「ああ。俺に言われたから、とか言い残したらしいが俺は用事を頼んだ覚えはねえ。何の約束もしてねえしな。」
「芥川の方が何か勘違いしてんじゃないの?」
「勘違いか・・・」
「あんたがそんなつもりなくても、世間話が指示とか頼み事みたいに聞こえたとかさ。」
指示。
その言葉に跡部は何かひっかかりを感じた。
「・・・・・」
「べ様どったのー?お腹痛いのー?」
「アーン?お前と一緒にするな。」
「どういう意味!?」
「あっ!跡部君、芥川君が下りてます!」
「どうやら目的地についたようじゃねーの。よし、停車だ。」
芥川はふわついた足取りでバスを降りると、ちょっと左右を見回して右に歩き出した。
自分の乗っていたバスの真後ろにリムジンがくっついているのに目に入っていない辺り、今この瞬間相当頑張って起きている事が伺える。
ふらふらと進むその背中から目を離さないようにしつつ、4人はそっと車を降りて、見つからないよう一定の距離を保ってついていく。
「ねー。なんで私達隠れてるのー?」
「まだ何の用事かはっきりしたわけじゃねえからな。」
「話しかけてしまうと、邪魔になってしまうかもしれませんし。」
「あ。浴衣下すの忘れた。」
「届けさせるから心配するな。」
「マジか、サンキュ。」
「お手数おかけします・・・」
「ありが、あ!行っちゃう行っちゃう!ジロっち歩くの早い・・・む!」
「声がでけえ、静かにしろ。」
跡部に口を押えられる紀伊梨だが、言ってる事は強ち間違いではない。
芥川の足取りは実に不思議で、早そうなわけでもなんでもなく寧ろ遅いように見えるのに、ちょっと目を離すとぐんと遠くに行ってるので気が抜けない。
「足早いわね彼奴。」
「走ったりしてるわけじゃないんですけど・・・」
「ジローはそういう奴だ。良く寝るのは確かだが、案外ジッとしてるわけでもねえ。」
「寝ながら動くのー?」
「動きながら寝るんだよ。」
今起きてなくちゃ、起きてなくちゃと思っていてもどうしても寝たいという欲求に勝てない。芥川はそういう性格である。
今だって目的があって歩いてはいるが、段々睡魔との戦いは劣勢になってきており、何処かへ通じる屋外階段を上ろうとするその足取りは落ちないか見て居る方が心配になってくる。
「おお!なんか登ってっちゃった!」
「どこ、此処?」
「公園でしょうか?」
「いや・・・此処は、」
可憐と忍足が桃崎と出会った所。
ストリートテニスコートである。