For dive 3 - 4/5


遠く遠く。
誰かの声が聞こえる。

段々近くなってくるけど、ああもうちょっと寝ていたいなあ、後で行くからもうちょっと待って居てよ・・・


「おい、ジロー!」
「・・・んにゃ?あれ?跡部?に、春日さん達?」

折角ばれない様にそろりそろりと階段を上がったのに、4人が上りきる頃には芥川はとっくにベンチでおねむしていた。
その内起きるかと思いきや全く起きる気配もなく、コートの使用者が入れ替わっても寝返り1つうたない芥川に、跡部は全てを諦めて起こしにかかったのだった。

「おはよージロっち!」
「おはよ~!」
「あんた良くこんな所で熟睡出来るわね。」
「お体、痛くはありませんか?」
「A~?俺、ボールの音が聞こえて寧ろ、E感じに眠れちゃうけどな~。」
「あ、分かる―!ちょっと音鳴ってた方が寝やすい時ってあるよねー!」
「そうそう!静かなのも良いけど、賑やかな所でお昼寝するのもなんだか気持ち良くってさ~!寝るつもりじゃなかったんだけど、ど~しても我慢できなくて・・・ふあ。」
「じゃあ・・・芥川君はやっぱり、御用事があって此処まで来たんですね?」
「俺ね~、跡部に言われたから来たんだC!」
「それよ、それ。」

その発言が割と尾を引いて色んな人を振り回しているのだ。
本人が残した唯一の手がかりみたいな事になってしまって、皆なんとなく跡部に連絡してしまうけど、その跡部は何も知らないという始末。

「ジロー、それなんだが俺はお前に何を言ったんだ?ストリートテニスしろなんざ言った覚えはねえが。」
「俺もそうは言われてないけど~、ほら!跡部さ~、この間言ったじゃん、俺に!


お前はもっとハングリー精神を育てた方が良いな、ってさ!」


跡部はちょっと目を見開いた。

「言ったの?」
「・・・ああ、言った。」

言ったけど覚えていて、しかもそれを実践するのはちょっと予想外だった。
うとうとしてたし絶対半分以上寝てると思ったので、9割方独り言のつもりだったのに。

「でも俺、ハングリー精神ってよく分かんなかったからさ~。取り敢えずいつもと違う所に行って、いつもと違うプレイとか見たら、何かワクワクが見つかるかな~って思って!」
「他校のプレイなんかは、動画で撮られていないんですか?もしデータがあるならそっちの方が、移動もしなくて良いですし沢山のプレイが見られるかと思うんですけれど・・・」
「うんうん!俺もそう思って網代ちゃんに動画見せて貰ったんだけどさ~、なんかどれもワクワクしなくてすぐ眠くなっちゃったんだよね~。」
「ほえー・・・そいでそいで?お外ではワクワクなプレイは見つかったにょ?」
「ううん、見つかんなかった!」
「そっかー!」

「はあ・・・」
「苦労するわね。」
「いや、構わねえ。ジローはこういう奴で、其処が良い所でもあるんだ。」

芥川は怠け者なのではない。ただただ、贅沢なのだ。
テニスに関して感性が肥えている、と言っても良いかもしれない。
自分にとってどうでも良いプレイはどうしても見る気が起こらないし刺激にならない。
単に強いだけでは駄目。氷帝テニス部に芥川より強いプレイヤーは今の時点では何人も居るが、強さに加えて芥川の琴線に触れる何かを持っているプレイヤーでなければ、芥川を起こす事は出来ない。

それは多分自分の無意識下で取捨選択を行った結果だろうから、無理して起きてろと言う気は跡部には無い。
少なくとも今は。
・・・今の所跡部以外ワクワクを呼び起こせるプレイヤーが居ないというのは、流石にちょっと、贅沢が過ぎてるような気がしないでもないけど。

「まあ兎に角事情は分かった。だが今度からは1人は止めておけ。」
「A~?なんで~?」
「実は今、結構騒ぎになってまして・・・」
「みーんなジロっちの事探してるんだよー!どっか行っちゃったー!って。」
「マジ?わ!本当だ、着信いっぱいだC!」
「携帯の音で起きられるようになってからにしたら。」
「う~ん、でもそんなの出来るようになるかわかんないC~・・・」

冗談じゃなくあくまで真面目に悩む芥川の顔は、もうそろそろオレンジに染められ始めている。