ところで。男って馬鹿な事で張り合うわよね、と思った事はないだろうか。
そんなちっさい事でいちいち人と競争しなくて良いじゃない、とか。
なんでそうやって勝ち負けの話に持って行きたがるんだよ、とか。
勿論全員がそうだというわけじゃなく、完全に傍観モードを決め込む人だって沢山居る。
忍足もその内の一人だった。
「今日の自由形50mで負けた奴奢りな!」
「は!?ふざけんな水泳部に自由形で勝てるかよ!」
「ハンデ付けろハンデ!俺らの自由形のタイムと、水泳部は背泳ぎのタイムだよ!」
それこそ水泳部でもないんやし何分かかろうが別に良えやん・・・とか思いながら、方々で繰り広げられる似たような会話をBGMに忍足は本を読んでいた。
「なあ忍足・・・」
「ん?」
不意に呼ばれたので顔を上げると、クラスメイトの男子が「ちょっと良い?」と言って教室の外を指差した。
知らない生徒だ。見た事も無い男子生徒が廊下から手を振って居る。
そしてタイの色が自分達と違う。
(2年生・・・?)
雰囲気的にちょっと体育館裏来いよとかそういう事もなさそうだが、逆に目的がさっぱり分からなくて、何の心の準備も出来ないまま忍足は取り敢えず席を立った。
「誰なん?」
「俺の部活の先輩。」
「何の用事?」
「さあ?」
「さあて。」
「だってー。聞いても教えてくんないし、兎に角呼んでくれって言われるし・・・」
だってー、とか言って許される男子って芥川ぐらいのものだぞ、なんて考えつつ廊下に出ると件の先輩は軽く頭を下げた。
「悪いな、急に。」
「いや、別に忙しかったわけでもないんで。」
で、結局何の用事なの?と目で促すと、2年の男子はちょっときょろきょろと辺りを見回した。
今はHR前の登校時間である。全員が教室へと移動しているので、廊下は学年クラス問わず沢山の生徒が入り乱れて行き来している。何か内密の話をしたいと思うなら、朝の教室前廊下なんて、正に最悪と言って良い状況。
「場所変えますか?言うても、今から移動やいうたら時間はあんまり残りませんけど・・・」
「いや、良い。なるべく人が多い方が良いからな。」
「え。」
その前振りは何か嫌な予感がする、と忍足は何かを察したがもう遅かった。
「忍足侑士!お前に決闘を申し込む!お前に勝ったら、今度の休みに網代茉奈花ちゃんをデートに誘う権利を貰うからな!」
わけわからへんねんけど。
という思わず零れた呟きは、周りのどよめきの声にあっさりかき消された。