Booty 1 - 4/7


「宍戸。」
「お前、今日の今日になって、いきなり喧嘩売ってくるような真似しやがって!お前と違って忍足は準備も何も出来てねえんだぞ、不公平じゃねえか!」
「う!」
「おまけにこんな大勢の前で、聞こえるように言いやがって!これじゃただの吊し上げだろ、勝負って言うんだったら対戦相手の事くらい考えろ!」
「う、あう・・・」

正論でがつがつ押していく宍戸の勢いに相手はたじろぐ。
そして相手がたじろぐとそれに比例して忍足の落ち着きは深くなる。

「大体、」
「な、なあ!もうその辺にしといてやってくれよ・・・」

人の輪の中から更に知らない男子が1人。
こちらも2年生らしい雰囲気なのでおそらく友人だろう。

「は?」
「此奴小心者なんだよ!勇気が出なくてっていうか・・・ふんぎりをつけるために勝負挑んだみたいな所あるから、忍足君のコンディションまで気が回ってなくて・・・」
「それこそ激ダサだろうが!人に勝負挑むんだったら、自分の腹くらい括りきってから来いよ!相手のコンディションまで気が回りませんでしたって、ただパニくってるだけじゃねえか!それを、」
「宍戸、もうええて。」
「忍足?でも・・・」
「ええねん、おおきに。おかげで考え纏まってきたわ。」

忍足が一番欲しかったのは考えを詰める時間である。
宍戸は図らずも、それを稼いでくれたのだ。有難い。持つべきものは友達である。

「確認したい条件が幾つかあるんですけど。」
「え、ああ・・・何?」

「俺が勝ったらどうなるんです?」

え、と口から零れた2年生の様子に、失礼ながら忍足は良くこれで受験を切り抜けて来られたなあと思った。

「どうって・・・俺は何もしないって言うか、」
「それはおかしないですか。そっちが勝ったらそっちにメリットがあるって言うんやったら、俺が勝ったら俺にメリットがあらへんと。そうやあらへんのんやったら、俺はリターン無しで、リスクだけ背負ってるいう事になります。気の毒ですけど、俺は現状維持は別にリターンやと思うてへんので、負けたら誘うの止めます言われても。」

この返しに俄かに周囲がざわついた。

「決めてへんて言うんやったら、こっちの方で決めます。」
「え、え、え、ま、待てよ!お前何を要求する気・・・」
「それはこっちも考える時間欲しいんで、又後で。勝負の後出しにはしませんけど、適当にも決められませんし。」
「えええええ・・・・!」

と、言いつつ。
忍足の頭の中ではもう半分以上条件の方は固まっていた。

「勝負の距離と型は?」
「え、普通に・・・100m自由形?」
「いきなり勝負ですか?練習で何本か泳ぐんは認めてませんか?」
「いや、それは別に・・・やったらやっただけ疲れると思うけど・・・」
「今バスケ部ですよね?こないだまで水泳部やったとか、スイミングしとったとかそういう経験は?」
「いや、俺はずっとバスケで・・・スイミングは一応小3までやってたけど・・・う、嘘じゃないって!本当だよ!水泳を選んだのは単に今日大会があったからで、ほら時期が丁度良いし・・・」

(夏休み前やからなあ)

今此処でデートに誘う事が出来れば、時期からして只のデートじゃなくて「夏休み中のデート」を取り付けることが出来る。
ましてこの男子はバスケ部なのである。
網代と同じ部活なら兎も角そうでなかった場合、長期休み中のアプローチは厳しい。現状で友達でも何でもないのなら尚更だ。

「おい忍足、受けるのかよ?」
「ん?まあ・・・」
「止めとけ止めとけ!相手にしなくて良いんだよ、こんな奴!自分に有利な条件ばっかり整えて奇襲してきやがって・・・お前に勝てるって算段があるから、こんな事言ってるんだぜ。」

正論である。
とても正論。

ただ、分かっていても不利な勝負を受けないといけない時というのが、人生には往々にしてあるものであって。しかも受けるだけで済むのならまだ良い。

(勝たんとあかんのやろなあ・・・)

「忍足?何か言ったか?」
「ああ、まあ。取りあえず受けなと思うて。」
「はあ!?なんでだよ!」

「受けて勝った方が恰好つくやろ?」

阿呆かな、と思われるだろう。
自分だって他人が言ってるのを見たら阿呆かと思うもん。

でもしょうがない。
このバスケ部の2年生はそこまで予測していなかっただろうが、この状況で喧嘩を売られてしまったら、今の忍足は受けないわけにいかないし、勝たないわけにいかないのである。


あの子は此処で勝てない男は嫌いだろうし。
あの子に頑張ると約束もしてしまったし。


「そんな理由で・・・」
「まあ、俺の都合っちゅうわけや。庇ってくれておおきにな。」
「別に庇ったって程の事はしてねえけどよ。」
「え?ええと・・・え?結局、良いのかよ?」
「はい。受けます。」






ざわ、とどよめきだす周囲の人の輪。
きゃあ、なんて恋愛スクープに色めき立つ女子の小さい悲鳴も聞こえてくる。

「ワーオ。」
「良いね良いね~。勝っても負けても面白いじゃ~ん?」
「あのねえ、朝香ねえ・・・」

「マジかよ、冗談だろ・・・」
「どどどどどどうしようっ!?ねえ向日君、どうしようっ!」
「どうしようってどうしようも・・・っつうか、彼奴も受けたんだったら何か勝算はあるんだろ。」
「どこにっ?」
「・・・どっかに。」

多分。あると思うけど。
可憐の不安を煽りたくないから、呟きを零すのは内心だけにした。