Booty 2 - 4/9


「・・・みたいな感じだったけど。」
「ええええ・・・・!」
「大丈夫なのかよそれ!」

学年クラス問わずわちゃわちゃと入り乱れて生徒が行き来しているプールの片隅で、可憐と向日それに宍戸は頭を寄せて話し込んでいた。

「引き受けたからにはどっかで勝てる見込みあるんだろうなと思ってたら・・・イメトレかよ!」
「いやまあ、俺もイメトレかよって思ったけどよ。でも侑士の中で、それでいけるって踏んでるからそうしてるんだろ。多分。」
「うーん・・・一応、他にも手があるかも、みたいな事も言ってたんだけどっ!」
「他に?」
「なんか、私が手伝ったらしくってっ!詳しい事は、相手にばれるとまずいからって教えて貰えなったんだけど。」
「・・・イメトレの手伝いじゃないだろうな?」
「違うよっ!イメトレの手伝いとか覚えがないよっ!って、だからって何の覚えも無いんだけど・・・」

言われてから可憐なりに思い出してみたのだが、これかな?と思えるような事が何もない。
単純に部活での運動量が生きる、マネージャーとしていつも有難うとかそういう話かなとも思ったが、それなら「最近までやってた」というのは変だ。今だってやってるんだから。

「その岳人の言われた、スイミングやってないって言っとけ、っていうのも良く分かんねえよな。」
「そうかなっ?これはわかるよっ、ブラフでしょっ?噂を広めて、相手を油断させるって言う、」
「でもよー、跡部に聞いてみたけど侑士がスイミングの経験無いって言うのは本当らしいぜ?」
「えっ!?」
「ブラフっつうか事実だなそりゃあ・・・」

氷帝学園外部受験組は、受験の際参考程度にだが「何か習い事やってる?」みたいな事も聞き取りされている。そのデータは生徒会長である跡部も見られるわけだが、それによると忍足の習い事項目にスイミングは無い。

「まあ相手も、つい最近までスイミングやってたってわけでもなさそーだけどよ。」
「でもやってなかった奴とだったら差つくだろ。授業でしか泳いでねえってことじゃねえか。」
「お、忍足君って普通に泳げるよねっ!?大丈夫でしょっ!?」
「忍足は大体何でもスッとこなすし、そこは心配してねえけど。」
「つーか、最近ずっと部活で泳いでるだろ・・・まあそんなに遅いようには見えねーけど。」
「ただ早くもねえよな。」
「・・・正直。」
「えええ!」
「いや、別に遅いわけじゃねーんだって!寧ろ早くも見えるっつーか・・・」
「???」
「・・・言い方悪いけど、なんか彼奴いつも手抜いて泳いでるように見えるんだよな。」
「えっ!?」
「涼しい顔してよ。どうも全力出してる風じゃねえつうか。」
「ま、逆に言うなら全力出したらもっと早い筈なんだから、今日全力出したらーーー」


「彼奴何やってんだ?」


なんだろう。知らない人の言葉なのに何か嫌な予感がして、3人は話を切り上げて背を向けていたプールを振り返った。

「あっ、忍足君っ!」
「泳いでる・・・」
「ああ、泳いでるけど・・・・」

((・・・遅くねえ?))

今、最近部活の一環として泳いでいても早くないと話をしたばかりだけど、それにもまして遅い。なんか最早わざと遅く泳いでるのではと言っても良い位だ。

「・・・ブラフ?」
「あそこまで行くと逆効果じゃねえか?」

何か狙いがあってやってる気もするんだけど、ああやって相手を油断させる作戦なんだよという位しか目的が思いつかない。

ブラフ以外ならこういう理由じゃないか?いやそれはおかしい。じゃあこうか?と考えを言い合う向日と宍戸の周りでは、他の生徒達が実に好き勝手言っている。


「あの子ってあれじゃない?」
「あれってどれだよ。」
「知らないのー?何か水泳勝負するとかなんとかでさー。」

「なんか・・・遅くね?」
「いや、遅いよ。彼奴文化部か?インドア系?」
「テニス部らしいけど。」
「テニス部だったらもうちょっとやれるだろ。」


(忍足君、本当に大丈夫かな・・・・)


更衣室で話した時からちょっと膨らんでいた、「なんだかんだ忍足なら大丈夫だろう」という気持ちがどんどん萎みそうになっていく。
大丈夫だろうと言い聞かせても、目の前で普通かそれ以上にのろのろ泳ぐ忍足を見ていると本当か?大丈夫なのか?と自問自答してしまう。

(でも・・・)

ちら、と反対側にある競技用レーンの様子を伺うと、もうそろそろ勝負の方法に上がっていた「100m自由形」の競技開始時間である。

もう駄目だ。出来ることがもうない。

無情に鳴り響くホイッスルの音。




『これより、100m自由形のレースを始めます。競技者の方は案内に従い、レーンにお集まりください。』