Booty 2 - 6/9


水泳において。ある程度普通に泳げる人にとって25mというのは正に最短、あっという間と形容して全く問題ない距離である。誰かとの競争になってしまうともう、スタートダッシュで差を付けられたら巻き返せない距離。それが25m。
ところがこれが50mになると話が変わって、100m以上になるとちょっとペース配分と駆け引きを考えないといけなくなってくる。
100mというのはそういう距離である。

「・・・なあ。」
「はい?」
「・・・いや、何でもない・・・」

2年生の彼も又、当たり前であるが対戦相手たる忍足の動向を気にしていた。
さっきすごくのろのろ泳いでるのも見ていた。

正直ちょっと安心したけど、心のどこかで安心しきれてない自分も居る。
忍足本人はと言うと、至って普通の顔で足首回したりしてるし。

(なんかあの余裕が怖いよな、焦ってない感じっていうか・・・でもスイミングやってないってなんか小耳に挟んだし・・・負けても別に損害は無いやって開き直ってる可能性も・・・)

「第7レースの選手、位置について!」

そう言われて位置につくけれど、どうしても目がちらちら忍足の方に行くのは止められない。忍足が普通な態度なのが余計に気になる。

(相手が何考えてるのか分からないって結構きついんだな・・・)

「用意・・・


・・・スタート!」


え。
と、今が水泳でなくて普通に空気中でやる競技だったら、間違いなく声が出ていただろう。

(おい、待て、待て、おい!)


「速-い!すげー!」


誰かの声が耳に飛び込んできた。

そう。
速い。

見る見るうちに遠ざかって行く隣のレーンの忍足は、最早横じゃなくて顔を上げて前方を見ないと視認できない。
嘘だろ、と思って必死に腕と足を動かす。

正直ちょっと油断はしていた。
明らかに本気じゃないとはいえ、あんなにのろのろ泳いでいるんだからと、そんなに速いイメージがついてなかったのは事実だ。

でもそれにしたって、こんなに差が付くなんて。
自分だってそんなに言う程遅い方じゃないーーー寧ろ現時点で中学生男子の平均より早いのは、練習の時タイム計って実証済みなのに。

なのになんでだ。どうしてだ。
足の一蹴り、腕の一かきでどうしてこんなにいちいち伸びが違うんだよ。

・・・とは、実は忍足も思っている。

(思うてたより効果あるな。)

二度目のターンをしながら、忍足は最早すれ違う勢いで距離の開く相手をちらりと見やった。

どうしようかな。ちょっと早い段階で差を付け過ぎたかな。
心理的には追う側の方が楽だし、後から追いこみにかかられるくらいなら、今ちょっとスピードを緩めてそこそこ合わせた方が良いのだろうか。

(・・・いや。作戦が上手い事嵌ってるんやったら、下手にもう一回揺さぶろうとするより、このまま突き放しを目指す方がええな。)

なんて考える余裕があるのが、既に相手からしたら信じられないのだ。

おかしいだろ、奇襲をかけたのはこっちだぞ。なんで対応されてるんだよ。
そもそも奇襲した時点で既にちょっと格好悪かったのに。それでも勝てば官軍だとか思って、負けるより良いと思って、勝ちさえすればそのマイナスを補えると信じていたのに、よもや惨敗フラグが立ってるなんてそんな。あっていいのかこんな事。

でももう遅い。
今更今の無しな、なんて言えるわけもなく。かといって追いつけそうかと言われたら、追いつけそうどころかまだ僅かづつ離されているくらいである。
ああもう嫌。自分の負けなのは分かったから、もう今すぐ勝負を終わらせてよ楽になりたい。

と思った時、向こうの方。
100m泳ぎ切った忍足が、プールの壁に手を着いて足を下ろしたのが見えた。