「そいでさ、その時の服がね?」
「うんうん!って、お?」
不意に鳴ったスマホに、紀伊梨はポケットの中を探った。
LINEだ。棗から。
「おー・・・おー・・・お?」
「五十嵐。」
真後ろの座席から、丸井が伸びあがって前方の紀伊梨の方に顔を出した。
「あ、ブンブン!ブンブンも来たー?」
「来たっつうか、これ何?」
丸井のスマホにも同じ文面のLINE。
曰く、
『明日の夜、テニス部+ビードロズでの精霊探しを行う。チームメイトにしたい者が居る場合は今日の夕食までに自己申告されたし。』
「うえ?ブンブン知らない?」
「何だ?」
「何々?」
なんだか騒ぎ出した紀伊梨と丸井に、紀伊梨の隣のクラスメイトや丸井の隣の男子等も何事だ何事だと2人のスマホの画面を覗いてきた。
「何これ?」
「だから俺も知らねえんだよ。」
「あのねー、明日の夜になったら皆で精霊さんを探しに行くんだお!」
「へ?」
「なっちんとにおにおが考えてくれたんだお!これなら怖くないし、紀伊梨ちゃんでも大丈夫!です!」
なんて言ってVサインしている紀伊梨だが。
「夜っていつ?」
「ご飯とお風呂の後だって!」
「消灯まで1時間しかなくねえ?」
「うん!でももーちょっと長く起きてて良いんだってー!後汗かくかもしれないから、お風呂は帰って来てから先生と入るって!」
「テニス部とビードロズって・・・」
「うん!いつもの皆で行こうよ!」
それって。
それってそれって。
「・・・・ずるーーーーい!」
丸井の更に真後ろの席で成り行きを聞いていた女子が声を上げた。
それを皮切りに、そこかしこで同じような声が上がる。
「良いなー!何それー!」
「何だよお前らだけー!」
「俺だって知らねえよい!」
「ずるくないよー!だって・・・」
パン!
と鋭い手拍子の音が車内に響いた。
「はいはい、そこまで。ですわよ?」
「先生・・・」
B組担任にして古典担当の女教師、上里雅がいつの間にか紀伊梨達のすぐそばに立っていた。
「皆さん。五十嵐さんと丸井君はたしかに2日目の夜にちょっとだけ別行動をしますけれど、これは学校の方で許可済みです。ずるくも不正でも何でもないので、2人にずるいだのなんだの言うのは止めましょうね?」
「でも先生、なんで2人だけ・・・」
「あらあら?皆行きたかったなら、2人と同じように許可を申請すればそれで済みましたのよ?」
「許可?」
「立海大附属中等部校則、第120条1項。に、書いてありますわ。」
その言葉に皆ごそごそと生徒手帳を漁り出す。
丸井も自分のを出して、言われたページをぱらぱらと捲った。
こんなもの、わざわざ全部見ようなどと思った事はないのだが。
(第120条・・・夜間で行うべきと認められた学習内容については、以下の書式を提出し通知を発行された上での物のみ許可する・・・マジかよ?)
要するに、棗辺りが先導してこの許可とやらをもぎ取ったのである。
元々こういうのは得意な上に、今は柳生と言う生徒会に精通するブレーンが居るのだ。造作もあるまい。
「わかりましたわね?わかりましたら、皆さん良い子で静かに席に座りましょうね。」
ちょっと幸村が怒っている時のそれに似た笑顔でにっこり微笑むと、上里はすたすたと前方の教師席に戻って行った。
マジで?
出来るんだこんな事・・・
知ってた?
知らなーい。
口々に周りが言う中、丸井は紀伊梨にちょっと落とした声で本題をもう一度聞いた。
「で?精霊探しに行くって?」
「うん。あ!精霊のお話はねー、お昼になっちんがしおりを配りにきてくれるお!紀伊梨ちゃんは!聞いたけどあんまりよく覚えてません!」
「彼奴本当こういう事はまめだな。」
紀伊梨や棗を見ていると「全力で遊ぶとはどういう事か」みたいな哲学のような事を偶に考えさせられる。
「で?欲しいチームメイトを選べって?」
「うん!皆でぞろぞろくっついてても面白くないから、途中からチーム分けするって言ってたお!」
「精霊探しのチーム分けね・・・」
そんな居るか居ないか分からない(というか多分居ない)もの探すために、チームまで組むか普通。まあ棗や仁王は普通じゃない奴の筆頭株でもあるけど。
「まあ良いか。チームねえ、チーム、チーム・・・取り敢えず、お前はパスな。」
「えー!ちょっとちょっと、なんでー!?」
「いや別にお前でも良いけどよ、毎日クラスで顔合わせてんのにこういう時まで顔見てえとか別に思わねえだろい。」
クラス単位での行動が多い今回の合宿で、折角クラスを跨いで遊べるチャンスなのである。なのに何故わざわざ同クラを指定せねばならないのか。
「むー!良いよ良いよ、じゃー紀伊梨ちゃんだってブンブンは指名しないもん!」
「はいはい。えーと、じゃあ・・・」
(取り敢えず、ジャッカルと・・・それから柳生だな!なんだかんだまだ知らねえ事多いし。後・・・)
軽快にスマホを叩く丸井の前の座席で、紀伊梨も又軽快に返信を打つ。
(紫希ぴょんとー、千百合っちとー、やーぎゅとー、それから、)
ゆっきー!
と打った指が、そのまま送信ボタンに滑る。