(眠い・・・)
テニス部の朝は早い。
朝練は6時からなと最初に言われ、
それはつまり5時50分にはウェアに着替えてコートに居ろと言う事ですね分かります。
それでもちゃんと来ているし、言われた事は集中してこなしているし。
だから欠伸位大目に見て欲しい。
「ふぁーあ、あ~・・・」
「丸井!練習中だぞ、たるんどる!」
(げっ!)
面倒なのに見つかった。
振り向くと怒りを露わにした真田が来るのが見えて、丸井は溜息を飲み込んだ。
「んな事言ったって、眠いもんは眠いんだからしょうがねえだろい?」
「それがたるんどると言うのだ!朝練があるのは分かっているのだから、その分早く寝とかんか!」
そう激を飛ばす皇帝の就寝時間は午後21時である。
「真田?そんなに怒らなくても・・・」
「いいえ、駄目です!こういう事から油断や慢心という物は育っていくのですから、今の内にこそ矯正して置かなければ!」
「そ、そう・・・?」
2年生や3年生の先輩陣とても真田の追及は止められない。
実力的には真田に劣っているから大なり小なり気後れしてしまう所はあるし、真田の言う事はあくまで正論なので、止め方が難しい所もある。
「そうです!分かったか丸井!大体お前は普段から少々・・・丸井!?」
「顔洗って来まーす!」
「待たんか丸井!まだ話は、」
「その辺にしておきなよ、弦一郎。」
「む?幸村。」
助かった。
若干情けない気分を抱えながらも、真田を制止した2年生はそう思わざるを得なかった。
「しかしだな、」
「確かに練習中の欠伸は褒められた事じゃないけれど、実際今眠いのはどうしようもないよ。その対処を取りに自分で動いたんだから、それ以上はもう良いじゃないか。」
「・・・分かった。お前がそう言うなら、この件はこれで終いという事にしよう。」
ああやれやれ。
周りの人間は揃って胸を撫で下ろした。
「ーーープハ!ふう。」
暖かい季節に運動していると、あっという間に体温は上がる。
眠いのは本当だけれど、それを差し引いても顔が洗えるのは助かると丸井は思った。
「運が悪かったのう。」
かけられた声に顔を上げると。
「仁王?」
又珍しい奴が話しかけてきたものだ。
丸井は掛け値無しに吃驚した。
仁王は顔を拭く丸井の隣にきて、洗面台に少し寄りかかった。
「のう、丸井。」
「んー?」
「C組の春日紫希を知っとるかの?」
珍しい奴の口から今度は予想外の名前が飛び出してきた。
「なんだ、お前らも知り合いかよい。」
「ちゅう事は知っとるんじゃな。」
「おう。」
「仲はええんか?」
「ん?うん、まあな!なんせこの間、友達になったし?」
片目を瞑って、得意げに話す丸井。
「あんまり大した事無いように聞こえるぜよ。」
「お前は、春日から友達って言われた事あんのかよい?」
「別に口に出して言われた事は無いが、」
「そんなら今度聞いてみろい、自分は友達かって。多分彼奴、友達になって貰って良いんですかー、とか聞き返してくるぜ?」
当たり前の様にそう返す丸井に、今度は仁王が少々驚く番だった。
「・・・そこそこ話しとるつもりなんじゃがのう。」
「そういう奴なんだって。」
「よう知っとるの。流石友達じゃき。」
「・・・お前なんか、馬鹿にしてねえ?」
「真逆。頼みがあって来たんじゃが、お前さんなら行けそうぜよ。」
「頼み?」
「ああ。実はの・・・」
仁王は話した。
ライブが難航している事。
それをどうにかする為に、考えていることがある事。
それに当たって丸井にやって欲しいと思っている事。
「・・・何でそんな事になる必要があんのか、全然分かんねえんだけど?」
「この辺は細かく説明しても仕方が無いからの。まあ嫌っちゅうんならそれでも良いが。」
「嫌とは言ってねえだろい。やるよ。」
(ほう。)
サクッと了承した。
これは面白い。
「ええんか?やる事はシンプルじゃが、進んでやりたい事とは思えんがの。確率は低いが、万一っちゅう事もあるぜよ。」
「でもだからっつって放っておくわけにいかねえだろい?万一とかいうなら尚更・・・」
「やり方は色々ナリ。例えば、いっとう簡単な方法はおまんの代わりを見つける事じゃな。」
「それも癪だろい、俺がやる。」
癪って、何が癪なんだか。
仁王は突きたい気持ちでいっぱいになったが、グッと堪えた。作戦に支障があってはいけない。我慢我慢。
「そうか。それなら頼むぜよ。」
「オッケー!」
「じゃあ、早速じゃが今日の昼集まれんかの?春日と打ち合わせが必要じゃきに。」
「分かった。」
「ああ、それから。」
「ん?」
「俺が良いと言うまで、この事は誰にも秘密ぜよ。」