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人間、心配事が解消するとホッとするものである。
そしてホッとした途端、急に忘れてた空腹感や眠気やそういうものを思い出し、グッタリするとかいうのも良くある話。

今の紫希は正にそれだった。
昨日初めて会った男子と1人で話をするという不安から解放された紫希は、仁王が朝練に向かった直後に机に突っ伏して眠っていた。

「黒崎さん、春日さんどうしたのー?」
「いや、私にも良く。」
「珍しいよね?紫希ちゃん真面目なのに。」

そう、珍しい。
寝てる事も珍しければ、1人で先に行くというのも珍しい。

昨晩、先に行きますの一報を受けた時は、理由を聞いてもなんとなくとしか言わなかったが。

(ぜーったいなんとなくじゃないわ、どっかに何か理由があるのよ。言わないだけで。)

別に親友だからと言って何もかも知ってないと嫌だとかそういうわけじゃないが、千百合としてはただただ心配なのだ。嫌なものに対して嫌と言えない大人し過ぎる友人が。

「起こした方が良いのかな?」
「・・・ギリギリ迄寝かせといてあげたい。理由は分かんないけど、眠いのは間違いないし。」
「ふーん。」

紫希の後ろの席の女子がニヤニヤしながら千百合を見た。

「何よ。」
「ううん?黒崎さんって、実は結構優しいよねー?みたいな?」
「別に優しくないわよ。」
「はいはい、優しい人って皆そう言うの。」
「だから違うって・・・・」

「何だ、騒がしいぞ。」

来たか。
千百合は真田が来ると何時もそう思ってしまう。

「・・・おはよう。別に何でもないわよ。」
「そうか?む・・・春日はどうした。」
「なんか、疲れちゃってるみたいなのよねー。」

先程の女子が軽く答えるが、真田の眉間にグッと皺が寄るのが見て取れて、千百合はそういうのを見る度にげんなりするのだった。

「たるんどる!疲れているからと言って、学校で居眠りなど・・・」
「黙れ!あんた煩い!」
「何!?」

「黒崎さん、黒崎さんも大声だから!ね!」
「紫希ちゃん起きちゃうなーこれは。」

クラスメイトがそっと紫希の耳を塞ぐ傍、千百合と真田はヒートアップしていく。

「あのね!百歩譲って授業中怒るのは妥当としても、今何時だと思ってるのよ!休み時間くらい寝かせてやろうとか、あんたにはそういうのないわけ!?」
「たわけが!授業中だとかそうでないとかいう話ではない、学び舎をなんと心得ているのかという話だ!学徒たるもの、中休みだろうと常に気を引き締めて、」
「だーかーら!あんたがそれをするのは勝手だけど、それが出来ない人間にそれを押し付けるなって言ってんの!」

(あーイライラする!なんなのよ、此奴!)

千百合は普段人に対して物申す時でももう少し穏やかに出来るし、紀伊梨があのルーズさを発揮した時でも此処まで声を荒げる事は滅多に無い。

でも真田は違う。
何か分からないが、一挙一動が凄く勘に触ってしまう。

「大体ね!紫希は普段から真面目なんだから、今日は何か特別な理由があるんだなとか、そういう察しは出来ないの!?」
「理由があったとしてもだ!それとこれとはまた別の話で、学校は寝に来る所ではない!」
「あんたねえ・・・!」

「どーしよー、やばいよ?」
「春日さん起こす?」
「うーん、止める人が居ないと此処までくるとは・・・」

何時もなんだかんだ、「あれ?やばくない?」という辺りで紫希が間に入ってくれるので、他の止め方が誰も分からないのだ。

かといって、あの2人の間に入れる人間というのも・・・




「はあい、それまでよ。」




顔を付き合わせて言い合う千百合と真田の間に、ノートが一冊割り込んだ。

「なあんか煩いと思ったら、お前らかよw」
「千百合っち、どったのー?」

ノートを引っ込める棗の後ろから、紀伊梨がひょこんと顔を覗かせた。

「む?黒崎棗か。其処の女子は知らんが。」
「覚えてるとは流石だw2、3回しか会った事ないのにw」

「ねーねー、千百合っち?どしたの?喧嘩?」
「いや、なんというか・・・」

喧嘩という程はっきりしたものでもない。
寧ろはっきりしないから、こうしてだらだらと突っかかってしまうのかもしれないが。

「というか、あんたらはなんで来たのよ。」
「俺はノート返しに。お前の数学、間違って鞄に入ってたから。」
「私は今朝紫希ぴょんと会えなかったんだもーん!だからお喋りにね☆」
「でもま、寝ちゃってるけどねw」

いっそ清々しいくらい寝こける紫希に、棗はおろか紀伊梨も少しびっくりしている。

「紫希ぴょんがお寝坊さんとは、珍しい事もあったもんですなあ!また本でも読んでたかな?」
「何にしろ、寝かせてあげて欲しいのよ。それなのに此奴と来たら・・・」

ジト、と千百合が真田を見やると、真田も黙っている性格ではない。

「寝かせるというのがそもそもおかしい!学校とは勉学に励む為に来る所だろう!友人と言うなら起こさんか!」
「まだ言う気!?」
「うおおおおう!?ちょっと待って、ちょっと待って!?なんでそんな2人とも喧嘩腰なの!?お年頃なの!?」
「紀伊梨の言う通りだよwお前らもう少しお互いを認め合えよw」

棗の言葉に、千百合と真田はピタリと静止した。

「お互いを・・・?」
「認め合うだと・・・?」

ゆるゆるゆる、と顔が互いの方を向く。

そして目が合う。
瞬間。




「断る!」
「嫌だ!」




「なんでええええ!?」
「あっはっはっはっはw」

腹を抱えて笑う棗に、オーバーリアクションで頭を抱える紀伊梨。

間も無く予鈴が鳴っても、いがみ合いは収束を見ないのだった。