Camp school:Refreshing morning - 1/7


次の日、早朝のホテル。紫希は同室の3人がまだ眠っている中、5時のホテルの廊下を歩いていた。

「寒い・・・」

そう、7月の早朝の山は夏でも寒い。涼しい、を通り越して寒いのだ。
部屋の空調は点いているが、まさか寒さを感じるレベルとは思っていなかったので暖房設定にもなっておらず。

堪りかねてどうにかならないかと考えた結果、フロントに貸し出し用のブランケットがあった事を思い出した紫希は、明日の朝もある事だし人数分取って来てしまおうと部屋を後にしたのだった。

しかし寒い。廊下は尚も寒い。
学校の指示でジャージをパジャマとして持って来たけれど、家の箪笥にある冬用のモコッとしたパジャマが恋しい。
一応空調の温度を暖房モードにした上で上げて来たけれど、戻る頃にはちょっとはマシになってるだろうか。

日が昇りだしているのに不思議に寒いホテル内を、紫希はフロント目指して歩いている。
と、前方で微かにピピ、ガコンと言う音が聞こえた。自販機の音である。

「・・・丸井君?」
「ん?あ、春日。おはよ!」
「お早う御座います・・・それ。」
「ああこれ?良いだろい?寒いし、ぴったりじゃん♪」

丸井が買っていたのは、ホットの缶コーヒー。

・・・ではない。自販機で売ってるカップ麺である。

「・・・何時食べるんですか?」
「え?今から。部屋戻ったらお湯はあるしな。」
「・・・・・」
「?あ、欲しい?ちょっと食う?」
「いえ、結構です・・・」

朝一からBIGサイズのヌードル食べられる丸井の胃の強靭さに、紫希はただただ感心する。
そりゃあ寒い時はラーメン美味しいよ、美味しいけどさ。

「・・・クシュン!」
「大丈夫か?やっぱ寒いよな、此処。」
「有難う御座います、大丈夫です。そうなんです、寒いのでブランケットを貸して貰いにフロントに行こうと思って。」
「マジ?そんなのあったっけ?」
「はい。沢山置いてありましたよ。」
「そっか。じゃ、俺も行こ。」

丸井も寒いと思ったから、対処を取ろうとして此処に居るのである。
思いついた対処ってそれ?みたいな所はあるけれど。

まあ何はともあれ、2人は7月に寒い思いをしながらフロントに足を向けた。



「しかし、7月とは思えねえだろい。」
「日中は暑かったですよね。」
「そうそう、汗かいたよな。山は気温差あるって聞いてたけど、此処まできついって知ってたらもう少し何か持って来たのに。」
「私もお父さんの言う事をもっと良く聞いておくべきでした・・・冬物を何枚か持って行く位で良い、って教えてくれていたのに、結局薄手の長袖を持って来たくらいで。」
「お前のお父さん詳しいんだ?」
「はい。お父さんはアウトドア派なので、そういう事は良く知ってます。」
「へえ!似てねえな、お前と。黒崎の所もだけど。」
「あ、ご存じなんですか?千百合ちゃんのご両親の事。」
「知ってるって言うか、昨日廊下で擦れ違った時電話してたんだよ。別に、会話聞く気はなかったんだけど。」
「良く聞こえますよね、千百合ちゃんのお父さんとお母さんの声って。」
「あ。やっぱそうなんだ?」
「はい。2人共基本、大きな声でその・・・お話されると言うか・・・」
「喧嘩するっていうか?」
「う、ううん・・・まあ・・・あ!フロントです。」

まだ薄暗い廊下の中でぴっかり輝く蛍光灯の下、フロントマンは眠いと言う素振りも見せず事務仕事をしていた。
奥のカウンターにブランケットが山と積まれていて、紫希と丸井はホッとした。良かった、此処に来て売り切れだったらどうしようかと思った。

「すいません。ちょっと、」
「ブランケットでしょうか?」
「はい。」
「少々お待ちください。」

(対応早えな。流石ホテルマンって感じ?)
(やっぱり皆、同じ事考えてるんですよね。きっと。)

皆まで言わずともわかってますよ、なオーラを感じさせつつフロントマンはテキパキ用意してくれる。

「何枚ご入り用でしょうか?」
「1枚づつ。」
「あ、ごめんなさい私4枚欲しいんで、全部で5枚・・・」
「え?そんなに寒い?」
「いえ、同室の子の分もと思いまして・・・」
「・・・黒崎だっけ?」
「はい、千百合ちゃんも居ますよ。それからクラスの友達が、後2人です。」
「良いな。」
「?何がですか?」
「んー・・・いや。まあ、ちょっと?」
「?」

だって自分は寒いから自分で起きたのに、千百合は寝て起きたら紫希がブランケット用意してくれてるんだろ。寒いと思って取りに行っておいたんです、って渡してくれるんだろ。良いじゃん、羨ましいじゃん。と、反射的に思ってしまったのだ。

要求が何か子供くさいから、そうと口には出せないけどさ。

「かしこまりました。それではこちらに4枚と・・・此方に1枚ですね。お返しの際は、部屋に置いたままにして下さって結構ですので。」
「はい、有難う御座います。」

返しに来なくて良いとは親切だな、とか思いながらさっと羽織ると、まあ暖かい。
生き返る様とは正にこの事。ホテル側も色々分かっているのでペラペラのブランケットなんて元より出さないのだ。

「あったけえ!借りて正解だろい!」
「はい!ふかふかしますね、気持ちいい・・・」

両手で後3枚ブランケットを持っている紫希は、今全身でもふもふを感じている。
あああったかい、昨日の夜からこうしておけば良かった。

「重くねえの?」
「はい、大丈夫ですよ。嵩張るので大きく見えますけど、軽いです。」
「あったかい?」
「はい!あったかいです!体の前が。」
「・・・・」
「何ですか?」
「いや?何かすげえ幸せそうだなーと思って。」
「そ・・・」

それは実際そうなんだけれど、そう指摘されたらなんとなく気恥ずかしいのはどうしてだろう。ブランケット抱えて「あったかーい!ふわふわー!わーい!」って思ってるのが見透かされてるからだろうか。

「そう、です、けど・・・」
「何沈んでんの?」
「何か恥ずかしくて・・・」

段々ブランケットに顔が埋まって行く紫希。
本当は完全に埋まってしまいたいけど、そうすると前が見えなくなる。

分かっているんだ、別に丸井は馬鹿にしようとしてこんな事言ってるわけじゃない。というかそもそも自分が気にし過ぎ。
でも紫希としては、友達であってもあんまり子供っぽい所は見られたくないのだ。誰が気にしてなくても自分は気にする。

「前見えてる?」
「ギリギリなんとか・・・」
「手引っ張ってやろうか?」
「良いです!結構です、大丈夫ですから・・・!」

目は口ほどに物を言うと言うが、正にそれ。
言葉の上で丸井は何でも無い様な事言ってるけれど、声音が、顔が、こっちを見て笑ってるのがわかる。
止めてくれ、笑ってるんだと思うとますますもって恥ずかしいから。

「あ!あの、あの、私部屋はこっちなので、」
「ドア開けられねえんじゃね?」
「開けられます!開けられますから、大丈夫ですからお気遣いなく・・・」

だから、頼むからもうそっとしといてくれ、と真っ赤になって目で訴えてくる紫希は、もう寒かった事なんか丸っきり忘れてるんだろう。


・・・可愛い。


「え?」
「ん?」
「・・・今、何か言いましたか?」
「ん、いや?言ってない、と、思う。多分。」

多分ね、多分。
今何か無意識に口からぽろっと出た気もするけど、残念ながら無意識なので、自分の事ながら何て言ったのかわからない。悪いけど。

「そう?ですか?では、又後で・・・」
「おう、おやすみ!」

勿論丸井が寝直すのは、カップラーメンを美味しく頂いた後である。