Camp school:Refreshing morning - 2/7


うーわ、さっむ。

目を覚まして千百合がまず思ったのはそれ。

(今何時・・・6時か。)

寝る時にふおおおん・・・位の音だった空調は、今やぶおおおおと唸りながら頑張って暖房モードで働いている。

それでも千百合が寒い、と思ったのは窓際のベッドを使ったからだった。カーテンを閉めていても、窓に近いと窓から冷気がすうっと入ってくるのだ。

何かないかこの寒さへの対処法、と辺りを見回すとベッドサイドのちょっとしたテーブルに、寝る前には置いてなかったブランケットが置いてあった。

(こういう事するのは、紫希か美嘉か・・・紫希か。)

堀江と江野の所にもブランケットが畳まれて置いてある中、紫希は掛け布団の上に更にブランケットを被せて寝直していた。
こういう所流石だと思うし良くやるわとも思うけど、面倒だから見習おうとは思わないのが千百合らしい所。

(この寒いのにありがと、って感じ。今だってそこそこ明るいくせに、普通に涼しいんだから・・・)

なんて思って、ちょっと気が向いたので其処のカーテンを開けて外を見た。

「・・・・嘘。」

冗談だろ。
そんな馬鹿な。
何考えてるんだよ彼奴。

千百合は自分の目が信じられなかった。
外。ホテルの敷地、と言っても山の中のホテルなのでだだっぴろい土地が広がるばかりのホテルの周囲。

其処に幸村が居る。
走っている。
朝の走り込みという奴だ。

「・・・えええ。何やってんの・・・」

いや、好きにしたら良い。
好きにしたら良いけど、とても理解できない。

こんな所まで来て自主練するか、普通。
しかもまだ6時だぞ。何時から走ってるんだよ。
ああそうか、そうだった、幸村は何時も4時に起きる人間だっけ。

「・・・・・・」

カーテンを戻して、朝から熱心ねー、ご苦労様ー、って思ってもう一回寝れば良い。
起床は7時30分なんだから、後まだ1時間以上ある。

此処は肌寒い。
外はもっと寒かろう。
じっとしていたら尚更だ。

「・・・・・はあ。」

林間合宿とかさ。
こういう、自主的に行きたいとも思わない行事に来て只でさえ精神的に怠いのに、この上更に怠くなるような事するのかと思うと溜息も出る。

結局の所、悪いのは自分という事だ。





ああ、寒い寒い。
今日は良く晴れていて日が燦々と差しているのに寒いなんて、7月なのに気候的には初秋みたいなもんじゃないか。山って面倒くさい。

「まぶし・・・」

朝日が目に痛いなあ、なんて徹夜明けみたいな事を考えながら外に出るとやっぱりひんやりしている。
ああでも、空気は確かに心なしか綺麗かもしれない。

(どういうルート走ってんだろ。)

多分山を下りたりはしてないだろう。
外周ぐるぐる回ってるんじゃないだろうか。
そう当たりをつけて、玄関前のちょっとしたスペースにあるベンチに腰かけた。

自販機で買っておいたホットの緑茶が有難い。
これがあるのと無いのとで大分快適さが違う。

暫くお茶の有難味を噛みしめながらただただ景色をぼんやり眺めていたら、左手の方に小さく幸村の走る姿が見えてきた。

「ふう・・・あれ?千百合?」
「よ。止まらなくて良いよ別に。」
「いや、良いんだ。もう終わる所だったしね。千百合はどうしたんだい?目が覚めた?」
「うん、まあ。寒くて。」
「・・・・」
「何。笑うような事何もないでしょ。」
「千百合が俺を喜ばせるからだよ。」
「喜ばせてねえよ。」

だって寒いから寝室で起きたのに、寝室より尚寒い外へ出るのは何故という話。
普段だったら寝直す所だろうに、ブランケット被ってお茶で暖まで取って。
基本面倒くさがりな千百合は、見方を変えるととても分かり易くて可愛らしい。

「千百合と会ったのが小学校の頃で良かった。」
「話飛んでない?」
「飛んでいないよ。会ったのが中学の時だったらかなり危なかったなと思って。千百合は可愛いからきっと他の誰かの恋人になっていただろうし、自分が恋人の座に着けている事に今ちょっと、ホッとしたんだ。」
「精市ってなんで時々強烈に頭悪くなるの?」

千百合としては、此処まで来ると一周回って突っ込みきれない。
色々有り得ないだろ何考えてるんだよ。可愛いのくだりも有り得なければ、幸村が居なければ他の誰かが自分を捕まえてただろうという見通しも有り得ない。
卑屈とかじゃなくて客観的に冷静に見て有り得ない事を、幸村はそれは優しく微笑みながら平気で言う。

「今の俺は頭が悪いかな?」
「悪いって言うか、頭飛んでるって言うか。」
「ああ、その感覚はわかるかな。ただ、それはお互い様だろう?」
「は?」
「お互い様だよね?」
「・・・・・」
「ふふっ。さ、中に入ろうか。寒かったのに、待たせて本当にごめんね?」
「喧しい!」
「あははっ!」

自分だって頭飛んでる事は自覚している。

何が悲しくて、こんな疲れると分かってる日の朝から進んでより疲れるような事しているんだろうか、って。眠いのに起きて、寒いのに外出て、なんでそんな事してるのかって聞かれたら結局の所千百合だって「頭飛んでる」のだ。
これまで一緒に居た中で、もう何度も何度も見た幸村の走る姿をわざわざ見る為に1人でこうして出てきたなんて、紫希達ならまだしも他の生徒に知れたら暫く学校に行きたくなくなる。

「ちょっと、手、」
「うん?」
「うん?じゃなくて!」

登山の時もそうだったけど、幸村は何と言うかごくごく自然に手を繋いでくるので、何時も千百合は反応が一泊遅れる。
そしてその一泊がもう命取り。もう離せない、離して貰えない。
ぎゅうっと凄い力で握りしめられてるとかいうわけでもないのに、どうも振り払えないのが幸村の不思議な所である。
本当は然程真剣に振り払う気がないんじゃないか、という心中の呟きには、あーあー聞こえないモード。

「ふふふっ!大丈夫だよ、こんな時間に起きて外に出てるのは俺達以外じゃ弦一郎くらいのものだから。」
「彼奴も走ってんの?」
「走るんじゃなくて、山を少しだけ下ってるんだ。登りとの往復運動をしたいらしいね。」

千百合は手を引かれながらそれを聞いて、此奴らはやっぱり頭がどっかおかしいんだと思うのだった。