「うにゅ・・・」
「ほら、紀伊梨!しゃきっとしなってば!」
「五十嵐ちゃん、もうちょっとで食堂だよ。ね?起きよう?」
「にゅ・・・」
紀伊梨は、寒いとかそんな理由で起きる事は終ぞなかった。
何時ものように熟睡して、いつものように寝ぼけ眼を擦って起こされて、何時ものように何か食べねばちゃんと目が覚めない。
「ねみゅい・・・」
「あ!五十嵐ちゃん、危な・・・」
ふらふらっと前方によろめく紀伊梨の肩を、誰かの右手がはしと掴む。
「お早う御座います、五十嵐さん。」
「んにゃ・・・?やぎゅ?」
「はい、そうですよ。」
紀伊梨を支える柳生は、がっちり目が冴えている。いつもと何ら変わりなく、全然起き抜けという感じがしない。
「おあよ~・・・眠いにぇ・・・」
「申し訳ないですが、私はそれほど眠いとは思いませんね。」
「柳生君は元気だね。」
「私は、生徒会の打合せで1時間前には起床していましたから。元々早起きは不得手ではありませんし。」
「ほえー・・・」
早起き苦手じゃないとか、紀伊梨は人生で一度もそんな事言った事がない。
何故皆朝になると起きられるのだろう、こんなにお布団の中は気持ち良いのに。起きたら楽しい事はわかっていても、眠いもんは眠いぞ。
「紀伊梨もちょっとは見習って起きなって。」
「やらー、紀伊梨ちゃんご飯食べたらもっかい寝ゆもん・・・」
「あのねえ!」
「着替えの時間とか考えたら30分位しか眠れないよ?」
「ああ、ですが今日はそのくらいで丁度良いかもしれません。我々は、夜遅くなりますから。」
「あー。そっか、紀伊梨達今日夜間学習だ!」
今日は夕食を食べてキャンプファイアーをしたら、引き上げて入浴して就寝。
でも夜間学習と言う名目で精霊探しに行く一同は、キャンプファイアーが終わってもまだ寝ない。そこから更に町に下りて探索である。
「そうだった、寂しくなっちゃうね。」
「成程ねー。確かに今の内に寝溜めしといた方が良いのかも。」
「まあ、とはいえこうふらふらされても困りますね。五十嵐さん?食堂まで後少しですからもう少ししゃんと立って下さい。」
「むいー・・・」
「おーすwおはようw」
「黒崎君。お早う御座います。」
「おはよ!」
「おはよう、黒崎君。」
「むーん・・・」
「お前だけ聞こえてないだろw」
大丈夫、聞こえてる聞こえてる。
ご飯食べる前だからちょっとねむねむしてるだけ、それだけ。食べ出したら起きるから、と思ってはいるけど口から出て来るのは「らいじょーぶー」という全然大丈夫じゃなさそうな一言だけ。
「昨夜の登山が効いているのでしょうか?」
「え?・・・え?」
「五十嵐ちゃん、すごくサクサク登ってたけどなあ。」
「単に眠いだけだろw朝何か口に入れるまでは大概こうだよ此奴w」
だから勝手知ったるビードロズの面々なんかは、早朝今!直ぐ!起きて下さい!な時は紀伊梨の口に良くお菓子を突っ込むのだ。もぐもぐしてる間に目が覚めるから。
「よし紀伊梨w特別にお前と、居合わせてる柳生に目の覚めるような事を教えてあげようw」
「に~?」
「今日の夜のグループ分け、お前と仁王を一緒にしといたぞwきっと怖がらせて貰えるぞ、良かったなw」
冷水をぶっかけられたような、とは正にこの事であろう。
文字通り一気に目が覚めた。
「え?え?え?」
「仁王がねwお前と一緒が良いって頼みに来たんだよw気に入られて良かったなw」
(これ、気に入られてんの?)
(気に入られてる事は、気に入られてると思うよ・・・うん。)
「ちょっと待ってよー!ねえ!なんでそんな事するのー!なんでー!」
「なんだどうしたw仁王が嫌いかw」
「嫌いじゃないけど、怖い所でニオニオと一緒には居たくないー!」
「知らないそんなのw俺言われてないしw」
「そんなー!」
(黒崎君、これは少々酷いのでは?五十嵐さんが気の毒です。)
(もう2人入れて、フォーマンセルだから大丈夫だよw少なくとも2人の内1人は怖がらないし、紀伊梨の面倒見てくれるよw)
仁王と一緒だよ、棗は言っただけ。
仁王と2人だよ、とは言っていない。
紀伊梨はその辺を丸っと忘れて、今思い切りパニックになっているが。
(まあ、もう1人は俺なんですけどねw)
(黒崎君・・・)
(大丈夫だよ、俺だって鬼じゃないよwそんな目で見ないでw)
「もー!もー!紀伊梨ちゃんそれなら行かないー!怖いー!」
「でも怖い所に行くんじゃないんでしょ?」
「怖い所じゃなくてもニオニオは怖い事言うよー!はっ!そーだ、紀伊梨ちゃん先生と一緒に居る!そーする!」
「先生てw付き添うのは正ちゃんだぞw」
言っちゃなんだが、新海はお化けが怖い時に当てに出来る先生じゃない。自らも怖がりだからだ。
その事は皆知っていたが、黙って持ち直す紀伊梨を見守るのだった。