2日目午前中は川遊びである。
これだけ寒いのに川遊びと聞くとちょっとどうかと思われそうだが、夏の山は日が昇って少しするとちゃんと順当に暑くなる。
想定場所の下流へと、昨日えっちらおっちら歩いて登った道と別のアスファルト道をバスで下り、もうそろそろ下りないと町まで下りきっちゃうんじゃないのこれは、と思い出す頃には、もう日はカンカン照りで超暑い。
「えー、それじゃこれより2日目午前のプログラムになります!自由にしていいけど、あまり離れて行かない事!気分が悪い時は早めに言う事!その他、妙な事はしない!では解散!」
解散、の号令を受けて生徒達は散り散りになる。
大体の生徒は我先にと川に群がり、足を浸けたりばちゃばちゃしたりする。
紀伊梨なんかはその代表。
「いやっほーーーう!」
誰より先にばちゃんして冷たさを楽しむ紀伊梨。もう学校行事なのを半分以上忘れている。
「ちべたーい!ちべたいちべたい、気持ち良いー!あれ?みっきー?さっちゃん?入んにゃいの?」
「いや、行く!行きたい!行きたいんだけどね!」
「あの、ごめん、私達ちょっと慣らさないと・・・」
日が昇って山の気温も上がり、十分暑い。
でも、それを差し引いても尚あまりあるほど川の水というやつは冷たいのである。
特に山の中の水は上流に近いため本当に冷たい。
氷水のほうがいくらか温い位冷たい。
入って良いよと言われたってなかなか体が追い付かない人も居るのだ。
「そーなのー?紀伊梨ちゃん遊べないくらい冷たくないけどなー。」
「お前さんがお子様体温なんじゃろ。」
「はっ!その声はニオニオ・・・!」
「何じゃその反応は。」
後ろにいた仁王からさっと振り向いて距離を取る紀伊梨。
どうした。何かしたっけ。心当たり多すぎて分からん。
「なっちんからネタは上がっているんですおっ!」
「お?」
「ニオニオ、今日の夜のグループ紀伊梨ちゃんと一緒になるように、なっちんに頼んだっしょー!」
(しまった、賄賂の口止めの賄賂は渡しとらんかった。)
ぬかった、出来れば本人には知られたくなかったのに。
「どーしてそーゆーことするのさ、もー!」
「心外じゃのう。俺はただ、お前さんと親睦を深めたくて・・・」
「嘘だよ!流石に分かるよ!」
「駄目か。」
「駄目!もー・・・同じグループになっちゃったのはしょーがないから、もー諦めるけどさー!始まったらニオニオにしがみついておくかんね!」
ここで「のっぺらぼうのマスク持ってきてたかな」とか考える辺りが仁王の慈悲のない所である。
しかしバラされていたとはちょっと予想外、これは今日のお楽しみがちょっと減っちゃったなあ。なんて考えながら仁王は徐に足元の水を水筒に採取する。
「ニオニオ何やってるのー?」
「秘密じゃ、と言いたいところじゃがこれは隠せんな。レポートの材料じゃ。」
「あー。」
今日の午前。
ほぼ川遊びみたいなものだし、教師も生徒も皆そう思っているが、一応学習的な側面があるのである。
どんなテーマでも良い。もうこれ半分以上ふざけてるだろ、みたいなテーマでも良いから、何かこの川遊びを通して調べたい事のテーマを考えて、帰ったらレポートに纏めるように。という奴があるのだ。
「ニオニオお水の事調べるのー?」
「いいや。これはスライムを作るのに使うんじゃ。」
「すらいむ?」
「俺のテーマは川の水を使ったスライム作りじゃき。」
本当にこんなようなテーマで良いのである。
勿論その作られたスライムは後に悪戯に使われるわけだが。
「へー!面白そー!ねーね、完成したら紀伊梨ちゃんにもちょっと分けてー!」
「代わりに何かくれるならええぜよ。」
「お?代わりかー!代わりに何か・・・うーん・・・」
「因みにお前さんのテーマは何じゃ?」
「紀伊梨ちゃんはねー、何か川っぽい曲作ろうかなーって!」
「ああそうか、お前さんはそれが出来るんじゃな。」
こういう時は一芸に秀でているととても便利である。
芸は身を助けるという奴。
「あ!そーだ、ニオニオのテーマ曲を作ってあげよう!うんうん、ナイスアイディア!どお?それで良い?」
「要らん。」
「えー!?なんでー!?」
ただでさえ、不本意ながらクラスではマジシャンだのなんだの言われているのである。この上更にテーマ曲なんて作られてみろ、いよいよ以てマジシャンじみてきてしまいそうだ。
「良いじゃんそれでー!作らせてよー!」
「分かった分かった、ただで分けてやるき。」
「ちょっと何それもー!何かただで良いって言われる方が何かやだー!そんなに嫌ですか、紀伊梨ちゃんお手製のテーマ曲わー!」
「正直熨斗をつけて突き返したいナリ。」
「むー!のしって言葉はわからないけど、突き返したい事はわかったんだからー!」
仁王は対価をくれと言った事をかなり後悔した。
紀伊梨は性格上何かくれと言ったら渋らないだろうとは思っていたが、まさかこうなるとは。
「・・・・・えい。」
「!うっ、」
「あ!」
ちょっとした出来心だった。
紀伊梨的に渾身の贈り物をあげるつもりだったのにあんまり嫌がるから、可愛い抗議のつもりでしゃがんで水鉄砲を打ったら、たまたま服を着てる胴体じゃなくノーガード状態だった仁王の首に綺麗に当たったのだった。
服の下を伝っていく、冷たい冷たい川の水。
「・・・・・・」
「・・・あの、わざとじゃないよ?」
「こんな言葉を知っとるか?」
「え?」
「人を撃って良いのは、撃たれる覚悟がある奴だけじゃ。」
「だからわざとじゃ無いって、ぶっふ!ちょっとー!顔は無いでしょ顔はー!」
「急所の打ち合いをふっかけて来たのはそっちじゃろう?」
「狙ったんじゃないのー!たまたまなんだってばー!」
「ごめん紀伊梨!やっと慣れてきたよ、お待た、せ・・・・」
「・・・何か、取り込み中?」
「ぽい。」
「入れないね?」
「ちょっとねー。」
水をかけあってきゃっきゃうふふとはとても言えない乱闘状態に、井谷と青羽はあっさり加わる事を諦めたのだった。
「あ”-!つべたい!つべたいつべたい!髪の毛濡れたー!」
「そうか、何よりじゃ。」
「何が何よりかー!もー!」