時刻は19:30。
今日は此処からが夜間学習である。
「良いか?今日の活動時間は、20:30だ。それ以上は駄目だぞ?」
「翔ちゃんが粘ってくれたら?」
「うーんそうだなー、俺が雷を食らうのを良しとすれば、21:30までは最悪・・・って何言わせてんだお前は!こら黒崎兄!隠れるな!」
「あっはっはっはっはwおーい皆集まってーwグループ分けを発表するよーw」
一同はキャンプファイヤーしていた位置から、ゴンドラでゆっくり下りている途中だった。最終的には町まで行くのだが、その前に寄り道する所もあるし。
「じゃ、行きますよwグループ3つね!まずAグループ!リーダー幸村!」
「ん?リーダーが居るのかい?」
「翔ちゃんの要望でなw」
「リーダーって言うか、まあ連絡係だな。何かあった時用に、各グループにしっかりした奴が欲しい・・・」
「ああ・・・分かりました。」
今の幸村の何気ないああ・・・の中に如何程の納得と、新海への労わりが隠されていたか。
「それからAグループのメンバー!千百合!柳生!それから丸井!」
「おや。」
「マジ?」
「マジか・・・待て。」
「ん?」
「あんたのマジ、っていうのは何。希望通ってないの。」
「おう。ま、希望言ったら通るって決まってるもんでもなかったし?」
「しかし、丸井君にしては珍しいですね。」
「そうだね。この手の運は丸井は強い方と言うか、希望が通る方だと思っていたけど。」
「いや、通る予定だったんだよw」
「「「「え?」」」」
「土壇場で桑原に上書きされちゃったんだよwまあブンブン君は何も言わなかったから、希望を押して来た方の願いを叶えてあげたのさw」
「おい待て!俺はそこまでは別に、「行くよー、Bグループ!リーダー真田!」
「分かった、引き受けよう。よろしくお願いします、先生。」
「あ、ああ・・・よろしく・・・」
担任のくせにというか、良い年した大人のくせにという所だが、実は新海は真田が怖かったりする。授業の度に高度な質問を矢継ぎ早にされるので、生徒と言うよりなんだか大学時代の教授を相手にしてるような錯覚に陥るのだ。
「それから桑原!」
「おい、俺かよ!」
「後、紫希!」
「あ、はい!」
(え?)
丸井は糸で引かれたかのようにそっちを向いた。
「・・・・・・」
「おい、待て!」
「なんだよwお前の希望を通してやったんじゃないかw」
「違うだろ!俺が頼んだのは、」
「あってるじゃんw俺の中で変な冗談言わなさそうな奴ランキングの上から3人で纏めてやったんだぜw絶対安牌じゃないか、何が不満よw」
「そうなんだろうけどそうじゃなくて・・・・というか悪い、安牌ってなんだ?」
「元々は、麻雀用語です。牌と呼ばれる道具を揃えたり捨てたりして相手に勝つゲームですけれど、考えなしに牌を捨てると逆に相手を勝たせたりしてしまうんです。安牌というのはそこから派生していて、捨てても問題ない牌。つまり自分の不利には絶対ならない、安心しても良いだろうと思われる事に対して安牌と言うんです。」
「ああ、そういう・・・ううん、確かにそういう意味なら安全と言えば安全だろうけど・・・」
「?良く分からん奴だな。お前は希望が通ったのではないのか?」
「いや通ったけど、」
「ならば良いだろう。要望が叶えられておいて文句を言うとは、解せん奴だ。」
「まあ、うん・・・そうなんだがな・・・」
自分の要望はあくまで「紫希が可哀想だから仁王と紀伊梨の所に入れるのは止めてやって」だった筈だ。確かに紫希が可哀想だろという理由もちゃんと組むのなら、仁王と紀伊梨と離した上で、より真面目な者と一緒にしてやるのが親切。
そうね。そうね。まさか自分に白羽の矢が立つとは思ってなかったけどな。
「・・・・・・」
Bグループを見つめる丸井。
を、千百合達3人が更に見つめる。
(ああいう所よ、ああいう所。)
(まあまあ、大目に見てあげよう。)
(何か精市甘くない?)
(自分では難しいものですよ。我々は傍で見ているから分かり易いだけです。特に丸井君のようなタイプは。)
(そうだね、俺もそう思うよ。)
根拠は何ですと言われると勘ですとしか言いようがないけれど、丸井はあれはあれで結構本人は苦労するだろうなと幸村は踏んでいる。
兎に角放っておいても人が寄ってくる。人間関係に悩まなくても自然に上手くいく。そしてその事に本人が慣れ過ぎている。
だからとても肝心なことが本人の無意識下で進行していく。無意識下でしか進行しない。
そしてある日ふと気づくのだ。
「もう遅い」のラインに踵がかかっている事に。
「思い出すなあ。俺にもああいう頃があったよね。」
「おや、そうなのですか?」
「え、嘘。いや、嘘よ。いつの話してんのよ。」
「ふふっ。千百合達はそうやって否定するだろうけどね。」
でも、自分は自分のことだけにそっくりだと思う。
あの、言うなればある種呑気な感じが。
ちょっと昔を懐かしむ幸村から数メートル離れたところでは、もう分り切ったCグループの発表が改めてなされていた。
「行きます、Cグループwリーダー柳!」
「構わないが、お前ではないのか?」
「お前の方が心が安全でしょw翔ちゃんのw」
(正直、それはある・・・!)
「それから紀伊梨w仁王w後俺ねw」
「・・・・・・」
「すまんのう、なっちん。」
「気にしないでw貰うもんは貰ってるからw」
「もーーー!もーーー!やなぎー、助けて~!」
「分かっているから、そうへばりつくな。」
そう、柳は分かっている。
紀伊梨の事もそうだが、土台このグループは頭の良し悪しを抜きにして、極端に常識人が少ないのだ。自分がしっかりしなければという意識は大きい。
「ん?・・・五十嵐。」
「ほえ・・・?」
「・・・そのウエストポーチは。」
「あっ!これ良いっしょー?可愛いっしょー?おかーさんがねー、あたらしーのそろそろ買おっかって買ってくれたんだよー!」
「ぶっはw」
「む!なーにー!?なんで紀伊梨ちゃん今笑われたのー!」
「ごめん、なんでもないのw思い出し笑いw」
「・・・・・」
今、柳と棗の心には同じ思いが過っている。
此奴。
お守り、忘れて来たな。
(あの時此奴、リュックの方に入れてたもんねw失くさないよ、とか言ってしっかりとw)
(移している、という可能性も0ではないが高く見積もっても凡そ3.4%・・・まあ無理筋だな。)
それなら、お前お守りホテルだなと指摘しない方が良い。
こういうのは気の持ちよう。お守り持ってない、忘れてきちゃったどうしようどうしようと狼狽えながら過ごすより、スパッと忘れきっていた方が却って安全というもの。
「俺が言うのもなんじゃが、お前さんら何か隠しとりゃせんか?」
「「してない、してない。」」
「しとるんじゃな。」
「えー!何をー!?紀伊梨ちゃんにも教えてよー!」
「お前ら2人は絶対ダメw」
「おーい!お前ら、そろそろ移動するぞー!ええと、町の前に・・・」
「神社ですw葉玖戸神社にお願いしますw」