『おかけになった電話番号は、現在使われておりません・・・』
「もう、どうしてですか!どうして・・・!」
泣きそうな声を上げながら紫希はスマホを見つめた。
アンテナは全部立ってる。通信量も問題ない。
何度も何度もかけてきた紀伊梨の携帯なのに。電話番号が間違ってるなんてそんな筈ないのに。
やっぱり通信がどこかよろしくないんじゃないか。
いや、そうだとしてもそれを解決する術は今ない。
(GPSまで狂ってる・・・!これじゃ現在地がよく分かりません・・・)
紫希は今、夜の街中で一人だった。
紀伊梨が行方不明。
その一報を受けてBグループは散会に踏み切った。
足が速く、体力のある真田と桑原は足で探す。幸いなことに紀伊梨は目立つ容姿をしているから、消えたと思われるエリアで見かけた人を見つけられれば望みはある。
紫希は逆に足が遅く体力もない。
それならいっそ捜索に参加しないで、直接交番や警察署に行って欲しいということで話が纏まったのだ。警察に事情を話したら、次は新海の元に。双方、かけてもかけても連絡の繋がらない所だ。
そう、繋がらない。
新海は兎も角警察相手に繋がらないなんて、大規模災害の時くらいしかあり得ないというのに。
(あそこの角、あそこの角を曲がって・・・!)
「曲がって、直ぐの所にーーーー」
交番が。
ーーーない。
「・・・・!」
愕然とした気持ちでスマホを見下ろすと、自分の現在地を指し示す点は、さっき確認した時と大きく飛んで西に移動していた。
さっきからこんなのばっかりだ。
交番を目指して進んでも、近くまで来たと思ったらGPSが嘘ついていて、結局交番が遠いまま。
普段でも偶に運が悪いとあることだが、それにしたってこんな時にどうしてこんなに頻繁に。
どうして。どうして。
なんで。
自問自答を止められない紫希の頭に浮かぶのは、松風の言葉。
『貴方はとても強く守られています。』
『おそらく、一番捕まえる可能性が高いのは五十嵐さんだと思いますよ。』
松風は自分が遠ざけられる存在だとも言っていたが、電話が通じなかったのは紫希だけではなくて、皆同じだった。
だからこの場合、紫希だけがと言うより、全員一律で精霊は自分達を弾いているのだ。
何故?
それは火を見るより明らか。
紀伊梨だ。
精霊は紀伊梨をーーー紀伊梨「だけ」を囲い込みたいのである。
他の人間には用が無いのだ。
もしかしたら、居られると邪魔とかまで思ってるかもしれない。
そして更に推測。
(もし松風さんの仰った事が本当なら・・・私がこんな風に電話が通じないとか助けを求められないとか、守られているのにそういう事がどうして起こるのかと考えると・・・)
精霊の方が力が強いから、というのは考えづらい。
それなら怖がって遠巻きにしたりなどはしない筈だ。
という事は結論は一つ。
紫希を守るお狐様は今の状況を「紫希の危機」と判断していないから。
紫希を守る何かは、あくまで「紫希を」守るのが目的。
その他の人間のことは、お狐様にとって割とどうでも良い。(紫希にはどんなに良くなかったとしても)
そしてそれに加えて、紫希に害をなす気がないのであれば何かが降りかかってもそれは放っておく。わざわざ守るようなことじゃないから、という事だろう。
そこから考えられる精霊の真意。
それは紀伊梨に対しての執着。他の人間はどこかに行っておいて欲しいという願い。
加えて、邪魔だからと言って殺したりそういう気はないーーーなさそう、という事。少なくとも今。忽ちは。
「・・・棗君、と、幸村君・・・」
推測に推測を重ねて大分危うい理論になっているが、とりあえず考えのたたき台が無いとお話にならない。
紫希は幸村の番号を押した。