Camp school:Cowardly spirit 3 - 4/6


「来ましたか。」
「え?」
「いえ、すみません。こちらの話というか、こちらの仕事の話です。失礼。」
「ああ、はい。」

松風は席を立って、店の外に出た。
着信。
発信者、黒崎棗。

「はい、もしもし。」

『繋がったあ・・・・!』

感極まった声がする。
繋がった。と言うことは。

「連絡を切られましたか。」

『はい。紀伊梨が居なくなったんですけど、紀伊梨にも繋がらないし警察と先生にも。』

「まあ、「あれ」のしそうな事というとそんなものでしょうね。」

『逆に松風さんには繋がるんですね。』

「私にはネタが割れているというか。私は精霊の敵ではないですが味方というわけでもないので、色々対策しているんですよ。あっちの都合で振り回されるのも、面倒なもので。」

『ああ、そういう・・・』

「はい。なので、私と連絡が取れないという事態にはまあなりませんよ。そこは安心して頂いて。」

『正直、大分安心しましたよ今ので。』

「ふふふ。」

なんだか年相応の幼さを持ち合わせた子らが少ないなあと松風は思っていたが、こういう時不安になるのはやっぱり子供だ。

まあ大人の方が逆にこう、理屈に合わない状況になるとパニックになるかもしれないが。

『で、俺達どうしたら良いすか。』

「そうですね・・・先ず、最も重要な前提としまして。」

『はい。』

「五十嵐さんは安全です。」

『・・・どういう根拠で?』

「彼女は気に入られているからです。故に精霊ではないものーーー人間の不審者であるとか犯罪だとか、そういう物には遭いません。あれが守っていますから。」

『つまり、紀伊梨が今連絡取れないのは、精霊が彼奴を捕まえているからとみなして良いと。』

「そう。」

そんな事言われても、それはそれで困るぞ、と棗は今電話の向こうで思っている。
が、松風としては人間相手よりこっちの方があしらい方をわかっている分ずっと楽だ。

「それからこれも又重要な前提ですが、あれは五十嵐さんにも他の誰にも危害は加えません。」

『それは正直すげー疑わしいんですけど。』

「あっはっは!無理ですよ、出来ません。彼奴にそんな度胸はない、あったらそもそも約束を無視したりしません。」

『そうかなー・・・』

「貴方方の先生も勘違いしてらっしゃいましたがね。うちの精霊は、決して高尚な存在じゃないんですよ。年を食って、この世のものでなくなって尚生き続けて、それで強くなった気がしている・・・していただけの臆病者だ。」

『言い過ぎじゃないっすかw』

「いいえ、全然?それで、どうします?」

『どうとは?』

「私にまやかしは効きません。もうそろそろ定時連絡の時間ですが、おそらくあれは先生を騙して、何も起こってないかのように錯覚させるでしょう。ですが私は、それに付き合わなくてもいいんです。今すぐ事情を先生に話すことも可能ですよ。」

『・・・そうなるとどうなります?』

「白旗を掲げるでしょうね。誰を騙せても私は騙せないことは、向こうも分かっています。警察を呼ぶまでもありませんよ。」

『じゃあ、』

「それで良いですか?」

『え?』

「それをやった場合、成果を上げたのは私になります。君たちじゃない。夜間学習としては失敗になるのでは?」

『それ言ってる場合じゃ、』

「まだ言ってる場合なんですよ。」

『・・・・・』

「ただ、君達の気持ちもわかります。実際友達が危ないかもしれないのに安心しろと言ったって、無理があるというものでしょう。ですから助けてくれと言うのなら、手助けするのは全くやぶさかではありませんよ。」

棗が電話の向こうで思案しているのを感じる。

今の状況で一番頼りにしているのは松風。
その松風の言うことなら概ね正しいと思えるが、大丈夫だから安心しろと言われても流石に信じていいか微妙というところだろう。というか、外したらどえらいことになるのだ。

『・・・ちょっと、5分待ってもらって良いですか。他の奴の意見も聞きたいんで。』

「どうぞ。」

切れた携帯を仕舞いながら席に戻ると、新海は何やら紙を見ながらPCで打ち込んでいた。

「お仕事ですか。」
「え!ああ、お帰りなさい松風さん!」
「ただいま帰りました。それは・・・授業計画書?」
「いや、お恥ずかしい・・・夜間学習の資料を纏めてたらこっちの方をやる時間が。あはは、オフレコってことで・・・」

やる時間が、なんて言ってるが、実際はちゃんと時間を割いていたのだろう。
それは何も知らない松風が見ても分かる。
綴じられている授業計画書は元書いてあるメモに赤で注釈が付けてあり、その上から更に青で修正がされており、更に更にその上から緑で・・・という様相。
何度も纏めては考え直して、それを纏め直してまた見直して、それの繰り返し。全ては生徒のために。

「・・・お忙しいところすみませんが先生。少し聞いても?」
「はい、勿論!俺に聞けることなら、何でもどうぞ!」
「大人として・・・もしも子供が困難にぶつかった時。そしてその困難が大人にとっては容易く解決してやれる時。その上で本人から助けてくれ、どうにかしてくれと言われた時。」
「・・・はい。」

「こういう時は、いつでも解決してやれるのだからと、信じて放っておくのが正解ですか?それとも、困っているのだからすぐに助けてやるのが正解ですか?」

「・・・・・・」

新海は完全に体をPCから離した。

「・・・うーん、正解はないですよね。」
「ない。」
「ええ。世の中には色んな大人が居て、今仰ったパターンでいうと前者の人も居ますし後者の人も居ます。それで良いんです。どっちのスタンスならいつも正しいとか、そういう事では測れないことなので。」
「成程。」
「ええ。ですから、もしそうなったら、松風さんの正しいと思う方にしてやれば良いんじゃないかと。」
「もし間違っていたら?」
「間違っているかどうかよりも、子供たちにとってはもっと重大な問題があります。」
「?」

「その考えが真摯かどうかです。結果的に間違っていようと正しかろうと、適当に出された答えに対して子供はとても敏感です。逆に真剣に考えて寄り添ってやろうとして結論を出せば、どういう方向に転がろうと子供はそれを受け止めてくれるんです。」

大人は直ぐに正解か不正解かで結論に色を付ける。
でも子供は違う。平気な顔をして、感覚を元に答えを出す。

目の前のこの人は敵か。味方か。
自分の事を見ていてくれるのか、くれないのか。

結果論では測れない第六感こそが、子供の最大の武器なのだ。

「・・・・・」
「ま、それも又難しいんですけどね。特に思春期は、自分でも自分がわからない子達が大勢居ますし。」
「・・・いえ。大変参考になりました。」
「そうですか?まあ、お役に立てたなら何よりです。」

?な新海だが、少なくとも松風がすっきりした顔をしているのは間違いない。
なら、良しとしようかな。

「ところで先生、生徒からの定時連絡の方は?」
「ああ、来てますよ3人からLINEが。異常なしだそうです。」

やはり報告をでっちあげているか。あれのやりそうな事だ。

まあ良いさ。
自分の方針は今決まったから。

「さて。上手く出来ますかね、あまりこういう事はやった事がないですが・・・」
「?」
「ああ、失礼。こちらの”仕事”の話です。」