Camp school:Cowardly spirit 4 - 5/7


真っ直ぐ目的地に迎えるって、こんなに早かったんだ。
紫希は不思議な感激を覚えながら、丸井と、現在神主不在の葉玖戸神社に辿りついた。

「おし!到着到着♪で?着いた後はどうしろって?」
「ええと、社務所に適当な皿があるので、それの上に飴を盛って・・・」

飴を個包装の袋からちまちま出して、それを神社の東側の縁側に置く。
自分達はその傍らに腰かけ。

「・・・で?」
「それでお終いです。」
「え、もう?」
「はい。・・・あ、」
「ん?」
「飴には手を着けない様に。だそうです。」
「あっぶね!」

ごくごく自然に、こうして会話しながら左手が伸びていた。
後もう少し遅かったら手遅れだった、セーフセーフ。

「あー、腹減っただろい。折角さっきコンビニ居たんだし、何か買っとくべきだったな。」
「・・・丸井君。」
「ん?」
「さっきは急いでましたし、私も有難かったので聞けなかったんですけど・・・」
「?おう。」
「どうしてコンビニに居らしたんですか?」

隣で縁側に足を垂らしながら寝転がっていた丸井は、目をぱちくりさせてきょとんとした顔になった。

「どうしてって?」
「丸井君って、柳生君と2人で行動だったんですよね?」
「そうだけど、だって嫌じゃん?」
「えっ!?えっ、えっ、な、何か喧嘩でもーーー」
「じゃなくて。柳生が嫌なんじゃなくて、お前を1人にしとくのが嫌なんだよ。」
「え・・・」
「だってほら、危ねえし?迷ってるみたいだったし、近くに・・・は、まあ居なかったか。でも行ける距離だったし、あと・・・」
「・・・・?」
「えーと、ほら。真田もジャッカルも、もう一緒に行動してねえって言ってただろい?」
「はい。」
「だから・・・だからっつうか、うーん・・・」

言い辛い。
とても言い辛い。
感情的にとかそういう事じゃなくて、なんて言ったら良いのか分からない。ぴったりくる言葉が見当たらない。おかしいな、国語は得意な方なのに。

なんて言ったら良いんだろう。
あのなんとも言えない焦燥感というか。不安だけじゃなくて。心配だけでもなくて。
一番大きいのはそうじゃなくて。

もっとシンプルで。
もっと無視出来ない気持ち。

こうやって紫希を見ていたらわかりそうな気もする。
でも何時まで経ってもわからなさそうな気もする。


「・・・俺、」


リン。

良く通る鈴の音が会話を遮った。

リン。リン。リン。

(近づいてくるな。)
(参拝の方でしょうか?)

こんな遅くにかよと思わないでもないが、別に神社なんて24時間年中無休で開いてるのだから来る人が居てもおかしくはない。
ただ、今は松風が居ないし自分達も留守を預かってるわけじゃないから、何か聞かれたりしても困るな。なんて思いながら、そろそろ姿が見えて来るであろう階段を見つめていると。

「・・・え?」
「五十嵐?」

紀伊梨だ。
2人共反射的にそう思い腰を浮かしたが、次の瞬間には階段を上りきった所に、髪色も目の色も服装も何もかもが全然違う、似ても似つかない女性が立っていた。

(あれ、違う?)
(私、今どうしてか、あの人が紀伊梨ちゃんだと思ってしまいました・・・)
(俺も。)

着物を着たその女性は慣れた風に自然に神社へと近づいてきて、紫希と丸井を見やると明るくにっこりと笑った。笑顔の雰囲気が似てるなあ、とどうしても一挙一動を紀伊梨と重ねてしまう2人は、何か言われたらちゃんと応対しないとと思うのに気が散って気が散ってしょうがない。

「こんばんは!」

「・・・こんばんは。」
「こんばんは・・・」

ぎこちなく挨拶を返す2人から、少し離れた所に彼女は座った。

「待たせて貰って良いかしら?」
「え?あ、えと、私達は全然・・・」
「良いですけど、松風さんなら当分帰って来ないかもですよ?」

待たせてと言って誰を待つつもりなのか知らないが、もし松風であったら可哀想だと丸井は思った。そもそも発端は自分達だが、松風は今精霊の件で動いてくれている。
いつまでかかるのかわからないし、どのタイミングで神社に帰るかもわからないのに、ただ待つというのはこの女性が気の毒だ。

しかし彼女は、おかしそうにあははと笑った。

「大丈夫よ!その人を待ってるんじゃないから。」
「あ、そう・・・」

「それに、待つのは慣れてるの。」

その言葉。
常ならばそれこそ、ああそうですかの一言で片付きそうなものだが。
だが、殊この場でその発言はちょっと思うところがあるというか。この神社で私待ーつーわー、いつまでも待ーつーわー的な発想は縁起悪いから辞めた方が、と他人事ながら止めたくなる。

気づかわし気に女性を見やる2人に、女性は又にっこり笑った。
やっぱり紀伊梨に似てる気がする。なんというか、空気感みたいなものが。

「貴方達、仲良しさんなんだね!」
「え?」
「はい。」
「お友達?」
「はい。」
「はい。」
「・・・・・」
「・・・え?な、なんですか丸井君・・・?」
「んー?別に♪」

此処ですぐはい、が出てくるのが如何程の嬉しさか。

思わず笑んでしまう丸井を見て、更に女性はくすくす笑った。

「貴方、かっこいいね。」
「ん?」
「そういう風に笑えるの、とってもかっこいいと思うよ!」
「そういう?」

そういうって、どういう。
意味も教えてくれないまま、女性はもう一度笑って夜空を仰いだ。

「良いな。私も見てみたかった。」
「見て・・・ん?」
「あの・・・何を見てみたかったんですか?」
「あいつのかっこいいところ。」
「「?」」
「・・・あ!ねえ、見て!」

彼女は、よく晴れた夜空を指さした。

その人差し指の先には、大きく明るく、輝く満月。

「綺麗だね!」

確かに綺麗だった。
満月も、それに照らされて笑う女性も。

だから2人とも思い至らなかったのだ。


今日は、満月の日だっけ?