Camp school:Cowardly spirit 5 - 2/5


(此処だな・・・)

「・・・紀伊梨ちゃん。ちょっと此処で待っていてくれるかな。」
「お?うん、良いよ!」

落ち着いて。
落ち着いて。

大丈夫。
もしかしたら出来るかも。


バチン!


「っ!」
「おおお!?お!?お!?おにーさん!おにーさんどーしたの!?」
「い、いや、なんでも・・・」

(駄目か・・・!)

伸ばした右手からは一筋血が流れている。
駄目だ。抜けられない。

「おおおおおお!?!?!?血だ!血が、血が、血が、血が、」
「だ、大丈夫だよ落ち着いて・・・・」
「駄目だよ!死んじゃうよ!誰か助けてー!誰かー!」
「あ、いや、あの、」

まずい。
これはまずい。
紀伊梨が外に目を向けてしまう。

今通りすがりの人だとか、友達の誰かに助けをだとかそういう事を考えられると本当にまずい。一も二も無く此処でお終いだ。

呪(まじな)いで正気を奪うか。
いや。今の自分ではゴリ押しももう出来ない。

「・・・その、紀伊梨ちゃん。聞いてくれるかな。」
「へ!?」
「あの・・・黙っていたけれど、僕は皮膚の病も患っていてね。普通の薬では止血出来ないんだ。」
「えええ!?じゃーどーすんのー!?」

「葉玖戸神社に行こう。あそこなら、薬がある。ついてきてくれるかな。」

結局、引き分けルートを選ぶ事になった。

いや。
他に選べなかったのだ。








した。した。
音なんか殆どしていないのに、紀伊梨の良い耳はこんな時までばっちり血の滴る音を拾ってしまう。

「おにーさんだいじょーぶ!?まだ死んじゃ嫌だよ!死んじゃ・・・」
「死なないよ、死なない。そこまでの傷じゃないから。」

そう、そこまでの傷じゃない。
咄嗟の所で手をひっこめたから。

でも。

(・・・抜けられなかった。)

たかだか、塩とレモンティー撒かれただけ。
たったそれだけのちゃちな結界1つ突破出来ない。


昔は、こんなんじゃなかった。


在りし日の自分であったなら、あの程度の細工はちょっと顔を顰める程度で済んだのだ。
正に蚊に刺された程度の傷しか負わなかった。
所が今はどうだ。
ちょっと結界の範囲に指先が掠っただけで、流血が止まらない。

長い長い年月は、嘗ては彼の味方であった。
今、歳月は敵である。

逃げて逃げて逃げ続けた時間の分だけ、自分は力をーーー生命力とでも言うべき力を失った。

土台勝てっこなかったのだ。

紀伊梨達も松風も、生きている。
生きて、立ち向かってくるだけの勇気がある。

それこそが生きているという事。
自分なんて、生きているというよりは所詮ダラダラ生きながらえているに過ぎない。
本物の生者と半分死者のような自分が衝突して勝てる道理など最初から無かった。

だから五分に持って行こうとしているのだ。
ああ。自分は本当に昔から変わっていない。


「おにーさん!」


「・・・!ご、ごめん!なんだい、紀伊梨ちゃん?」
「お手て痛いの!?さっきから俯いてるよ?」
「あ、いや!そういうわけじゃないよ、ちょっと考え事を・・・」
「そなの?」
「そうなんだ、ええと・・・その。僕は松風とちょっと・・・気が合わないと言うか・・・治してくれといって、直ぐ治してくれるかと思って。」
「えっ!?そーなの!?むむむ、困った・・・うーん、でもでも!だいじょーぶだよ、おにーさん!もし駄目って言われても、紀伊梨ちゃんが一緒にお願いしてあげるかんね!」


『よしよし・・・怖がらないで。大丈夫よ!』

『まあ・・・ちょっとは怒られるかもしれないけど、でも!私は一緒に居るからね?安心して良いの。』


本当に自分は変わっていない。
肝心な所は悪い方へ悪い方へと変わっていったのに、情けない所は本当に変わらない。

今だってそう。
弱っているから、簡単に目の前の年端もいかない女の子に助けてと縋りつきたくなる。
もう何度こんな事を繰り返したかわからない。

「・・・・・・!」
「おにーさん?」

気配がする。
塩とか檸檬じゃない。

人間。
しかも寄って来られたら困るタイプの人間だ。

(どこだ・・・居た!)