Camp school:Cowardly spirit 5 - 5/5


「あああ、また・・・」

神社の女性はため息を吐いた。

「また?」
「何がですか?」
「すっぽかされちゃったみたい。」
「「え!?」」
「しょうがないわよね。全く昔から本当に変わらないんだから、ああいう思い切りの悪いところが。」

困っちゃう、なんて言いながらもどこか楽し気に笑う女性だが、紫希と丸井としては笑ってる場合なんだろうかとどうしても思ってしまう。

「あの、ええと・・・じゃあ、これからお一人で下山されるんですか?」
「危なくないすか?タクシーとか呼んだら?」
「大丈夫よ。これでも地元の者だから、危ないことはないわ。有難う2人とも。」
「ですけど、」
「ああ、そうそう!言い忘れ!」

彼女は縁側から立ち上がって、くるっと振り向いた。


「美味しかったわ、ご馳走様!」


そう言って手を振られた気がするけど、それは2人ともよく見えなかった。
急に強い風が吹いて、パッと目を閉じてしまって、開けた時にはもう彼女は居なかったから。

「・・・・え?も、もう下りられたんでしょうか・・・」
「多分?足速えなあの人、着物なのに。」
「それに、ご馳走様ってなんだったんでしょう・・・」
「な。別に何も出してねえよな、俺達ーーー」

そうでもないわよ、とでも言いたげに丸井の言葉を遮って、木のお椀が転がる音がした。
飴を盛っていたあのお椀である。

いつの間にか中身が消えて空になっているそれは、縁側から落ちてコロコロと転がっていき。


そして見慣れた星柄のスニーカーにぶつかって止まった。


「・・・あえ?え?え?え?」


目をパチクリさせた紀伊梨がそこに立っていた。

「紀伊梨ちゃん!」
「五十嵐!?」

「ほえ?あ、紫希ぴょんとブンブン!あり?ってゆーか、紫希ぴょんもブンブンもなんでこんな所ーーーーー」
「紀伊梨ちゃん!」
「うえふっ!?」
「紀伊梨ちゃん!紀伊梨ちゃん、大丈夫ですか!?どこもどうもなってないですか!?お怪我とかしてませんか、」

怪我。

その単語に紀伊梨はさっきまでの記憶が蘇った。

「そーだ!おにーさん!紀伊梨ちゃんはだいじょーぶだけど、おにーさんは怪我してるんだよ!おにーさん!おにーさん・・・あれ?」

周りを見回しても、自分の他には紫希と丸井が居るばかり。
青年の姿は見当たらない。

「ねー、おにーさん知らない?」
「お兄さん・・・?」
「松風さんか?」
「じゃなくてー!別のおにーさん!着物着てー、手の所ケガしててー、」
「そんな人居たか?」
「いえ、見てませんけど・・・」
「えー!?そんなわけないよ、さっきまで一緒に・・・」

確かに一緒に居たのに。
でも、同時に今この場に居ない見当たらないというのも又確かなのだ。

不思議と怖くはなかった。

でも解せないけど。

「あれー・・・?」
「なあ!話戻すけど、お前は大丈夫なのかよ?」
「え?紀伊梨ちゃん?」
「どこも痛くないですか?お具合悪いとか、ご気分が悪いとか・・・」
「んーん!紀伊梨ちゃんは元気!です!」
「「はあ・・・・・」」

安堵の溜息が零れる2人。
ああ良かった。
何はともあれ、紀伊梨は無事で戻ってきた。

連絡をしないと、と顔を上げた丸井の視界に、人影が2つ。
紀伊梨の向こう、階段下からこっちを見上げている。

千百合と幸村が追いついたのである。

「・・・紀伊梨!」
「五十嵐・・・良かった。よくわからない事も多いけど・・・」

取り敢えず、我らが親友は無事帰ったのだ。
細部は後々に置いておくとして、もう今はそれだけで良い。それで十分。

それで良いよね、と安堵と疲労の混じった視線を千百合が向けると、幸村も優しく目を合わせて微笑んでくれる。

「おーい!千百合っちー!ゆっきー!」

何事もなかったかのような紀伊梨の声が頭上から降ってきた頃、月はひっそりと三日月に戻っていた。