「疲れた・・・」
「連れまわしといて疲れるって何?」
千百合と江野はミュージアムのだいぶ端っこの方まで来ていた。
結局土台のスタミナは千百合の方が上で、引っ張ってきた江野の方が先に音を上げる始末。ぐったり来ている江野と、ぐったりとまで言わないがまあまあ疲れている千百合は展示物から程なく離れたところのベンチに腰を下ろした。
「ねえ、どう?千百合!何か琴線に触れる作品はあった?」
「特に。」
「あーん!」
「何が目的でどうしたいのよ、一体。」
「えー?そりゃあ美術に興味を抱くレアな千百合が見たいんじゃない!」
「あほくさ。」
「む!あほくさいとは何よー!報道の第一歩はこういう所からなのよ?スクープはどこに落ちてるかわから・・・」
「・・・?桃美?」
ちょいちょい、と江野が指差す先を辿ると、ちょっと離れたところに仁王が居た。
立って壁に寄りかかっていて、それは良い。
だが気になるのは目線。
顔こそ正面を向いているが、目は明らかに左を見ている。
(何あれ・・・)
何か企んでる、というよりは何かを野次馬している気配を感じる。
江野もそれを感じ取っているのだろう、行きたそうにしているが、同時に邪魔をしてはいけないという心理も働くのかそわそわしているだけで立ち上がりはしない。
そうしていると、仁王が千百合と江野に気づいた。
目を向けてにや、と笑うのは「来て良いよ」の意思表示である。
「良いって、行こ。」
「え、マジ?なんでわかんの?」
仁王は近づいて欲しくない時、とても露骨である。
サッと立ち去ったり、手で追い払う仕草をしたり、分かりやすく視線を逸らしたりする。そうしないということは、つまりそういう事。
「おす。」
「おう。奇遇じゃの。」
「否定しないわ。で?何ちらちらしてんの?」
「ほれ。」
仁王の視線を辿ると、その先には郁と林を交えた4人グループがある。
「お!あれは噂の一条さんね!あれ?って事は、もしかして仁王君は一条さんのことが?」
「全然違う。よう見てみんしゃい。」
「一条じゃないって事?」
「それも違う。一条の顔の向きの話をしとるんじゃ。」
「「顔の向き・・・」」
郁は4人グループで行動している。が、仁王の指示に従ってよく見ていると、展示をちゃんと見ているのはその内3人。
郁自身は顔がちょくちょく一定の方を向いては戻り。向いては戻り。
(あれは・・・)
(つまり・・・)
要は、仁王と一緒である。
仁王が郁を野次馬していたように、郁も又誰か、或いは何かの様子を気取られないように窺っているのだ。
じゃあ更にその先には何を?
郁の顔の向く方へと千百合と江野は視線を送る。
「Oh・・・・」
「・・・・」
「面白かろう?」
「面白いもんかよ。」
さして苦労せずとも、千百合にも江野にも分かった。
丸井だ。
丸井自身もクラスの友達と回っているからそこかしこをうろうろしているわけだが、その丸井を目で探しては位置確認して元に戻り、また位置確認して元に戻り、以下エンドレス。
「お、見失った!あー、今ケースの裏側だから其処からは見つけにくいだわよ・・・おお、見つけた!」
「ほれ見んしゃい、良い娯楽じゃき。」
「あんた達2人、悪趣味を隠そうともしないわね。」
自分はどうでも良いので、元座っていたベンチに戻ろうか。
そう思って足先を後ろに向けたその時。
「あ、紫希。」
「春日もなんぞ探しとるようじゃの。」
「え?」
なし崩し的に別行動になった紫希が、携帯片手にきょろきょろしている。
堀江も隣に居るが、堀江も辺りを見回しているのでおそらく2人して何かを探しているのだ。
まあ、こっちの場合は何かというと。
「・・・あれ?私達、もしかして探されてる?」
「かもね。どっちにしろ、もう気は済んだでしょ。行くわよ。」
「ああん、待って!今出てったら一条さんの目的が闇の中に消えちゃうだわよ!」
「闇に消えようが光に浮かび上がろうがどっちでも良いわ。」
「残念じゃが、もう消えてもうたぜよ。」
「えっ!」
仁王が指差したのは、郁でなくて丸井の方。
紫希が話しかけている。おそらく探しているもの(高確率で千百合達だが)を見なかったか、と聞いているのだろう。
そのせいで丸井自身が周りを窺いだしてしまい、一方的に見ていたかった郁は監視?を一時中断せざるを得なくなってしまった。
「あーん!もー!」
「もうじゃねえんだよ。ほら。」
「あだだ!千百合引っ張らないで・・・あれ?」
「え?」
「何か指差されてない?」
距離がそれなりにあるから声は通らないが、紫希と丸井は今はもうはっきり千百合達を視認していた。そして自分達を・・・いや。指差しているのは、自分達の更に後方か。
「どーーーーん!」
「ぐえ!」
「ちょっと・・・紀伊梨重い!何!」
「千百合っち見っけー!ねーねー、紫希ぴょんも一緒にお土産行こうよー!」
「土産?」
「あっちにねー、お願いの叶うお土産がたーくさん売ってるんだよ!」
ああ、そういう話だったか。
だから探されていたんだ。
普段だったら土産なんてわざわざつるまないで勝手に買えば良いじゃん、と思うけど。
此処は特別か。
「ね!皆でおそろにしよーね!」
言うと思った。