こういう経緯で決まった『ビードロズ』の冠なので。
紀伊梨がガラス細工ミュージアムのお土産に特別な気合を入れるのもまあ、当然といえば当然なのかもしれなかった。
「おー!おー!いっぱいあるー!すごーい!ねーねー、どれにする?どれにする?」
お土産コーナーは凄い品揃えであった。
本業が土産屋ではなく、あくまでミュージアムに付随するグッズコーナーということを考えると、ちょっと凄すぎると言ってもいいかもしれなかった。
「ただ、おそろでってなると割と絞られるんじゃない。」
「そうですね。どうしてもアクセ系になってしまいますから・・・」
「ごめん我儘で悪いんだけどw流石に俺もハートのストラップとか持たされるのきついから、ある程度は個人個人で選ばせてくれないw」
「えー!おそろにならなくなーいー?」
「まあまあ・・・全く同じじゃなくても、テーマを揃えれば統一感は十分出ると思いますから。」
「色とか?あ、でも私色は自分で選びたいわ。」
「あ!じゃあじゃあ、あれで行こうよ!」
紀伊梨が指差したのは、「幸運を齎すトンボ玉アクセシリーズ」という一角だった。
「ね!ね!ハッピーになれそーだし!」
「俺もそれでお願いしたいw」
「あれって・・・」
「多分ね。」
へー、そうなんだー、くらいにしか思っていなかった今朝仕入れたての情報が、紫希と千百合の頭をよぎったのだった。
「これですね・・・」
「やっぱりか。」
コーナーの中の更に限定された部分にそれらは鎮座していた。
運命の人に出会えるトンボ玉アクセ。今朝江野に教えてもらった噂のお土産達である。
「丁度良いんじゃないかw紀伊梨はこの中から選んで、運命の人にでも会えるようにお願いしたらどうよw」
「うん!そーする!」
別にガツガツ彼氏作りたいわけじゃないけれど、素敵な恋がしたいなーという程度の気持ちは紀伊梨だって普通に持っている。
運命の人に会えるもんなら会いたいし、それにほら。こういう綺麗なものが繋いでくれる縁って、良い感じじゃないか?
「どれにしよーかなー?」
幸運シリーズのトンボ玉は、いずれも中に星のモチーフが入っている。
とはいえ、加工の方法も様々なので選ぶといっても色々ある。
こういう時紀伊梨はどうしてもトンボ玉しか見ないで話を進めてしまう傾向があるのだが。
「あ!綺麗!これにし・・・」
「止めておけ。」
「お?」
伸ばした右手に待ったをかけるのは、同じく土産物コーナーに居た柳だった。
というか、時間的に今大概の生徒が此処に集まりつつあるのだが。
「やなぎーだ!どーして?欲しいの?まだあるよ?」
「そういうわけじゃない。幸村から聞いたが、お前達はビードロズで揃いのものを買おうとしているんじゃないのか。」
「うん!」
「身に着けられるものの方が良いんじゃないか。」
「そうだよ?」
「それなら、もう少し汎用性の高いものにしておけ。」
紀伊梨が買おうとしたのは簪であった。
「はんようせい?」
「色々な使い方ができるもの、という意味だ。簪は使う場面が限定されるだろう。」
「えー?ヘアアクセは毎日使うお?」
「お前はそのヘアアクセサリーが毎日変わるから言ってるんだ。」
「・・・はっ!?」
紀伊梨は基本、決まった髪型というのがない。別に涼/宮ハ/ルヒごっこをしてるわけじゃないが、単に昨日と同じ髪型は飽きるよねー、と食事のおかずを選ぶノリで毎日髪型を変えるから、簪を使うとしてもそれは毎日ではないのだ。
「それに、アクセサリーの類は基本的に入浴や就寝の時に外すもの。お前は直ぐにその類のものを失くすタイプである確率98.65%だ。」
「ぐ!う、ぐ、ぐ・・・」
「大人しくストラップ辺りにしておけ。失くすわけにもいかないだろう。」
「はーい・・・んじゃあ、じゃあ、」
「あれはどうだ。」
「えー?あっちの勉強運アップのやつだお?」
「丁度良いだろう。」
「良くないー!紀伊梨ちゃんは運めーの人を連れてきて貰うの!」
運命の人よりテストの点数の方を優先した方が良い気がするけど。差し当たって。
「ねーねー、やなぎー!」
「何だ。」
「これとこれとこれとこれで、どれが運命の人連れてきてくれそうと思うー?」
(連れてきてくれそう、という言い方がそもそもどうなんだ。)
縁を結んでくれそう、とか巡り合わせてくれそう、とかそういう言い方が普通なんじゃないだろうか。連れてきてくれそう、ってなんだかこのトンボ玉達が相手をずるずると引っ張って来そうな感じがする。
運命の人が犬か何かみたいだな、と思う柳だが、イメージとしては実際割と近い人物がその役になることを誰もまだ知らない。
「どれが連れてきてくれそう、と言われてもどれも同じだと思うが。」
「そーなんだけどー!こうフィーリングでさー、」
「折角付いているトンボ玉がそれぞれ違うんだ。効能の強さではなくて、イメージで選んだらどうだ。」
「イメージ?」
「どれが強力そうという話ではなくて、どういう人物と縁を結びたいのかという風に考えてはどうだ、と言ったんだ。賢い人間ならその青いのが良さそうに思うが、穏やかな人間が良いのなら緑が良いように思える。要は見ていてお前がどんな人間を連想して、誰が良いかという話だ。」
「おー!そっかー、あったま良いー!そっかー、紀伊梨ちゃんが連れてきて欲しい人かー。」
(・・・どんなだろ?)
そもそもそこのビジョンがかなりあやふやな紀伊梨。
まあ初恋もまだなので、ピンと来なくてもおかしくないといえばおかしくはないのだが。
「んー・・・んー・・・んー・・・・・・・・これ!」
それか。
「・・・参考までに聞きたいんだが。」
「んー?」
「どういう人物をイメージした結果なんだ?」
「え?さあ?」
「・・・・・・」
「だってー!なんとなくこれが似合う人が良いなーと思ったんだもーん!」
紀伊梨が選んだのは、赤いトンボ玉のストラップだった。
紐から何から燃えるように真っ赤で、煌めくというより強く鋭く光る星を内包するそれ。
赤ということで、もしや丸井のイメージなのかと一瞬思ったが。
違う。確かに丸井もカラーイメージでいうと赤になるかもしれないが、これは明らかに丸井みたいなタイプを連想する赤じゃない。
もっと極端でもっと激しくて、ガラス玉だというのにふつふつと煮えたぎるような熱さを感じるような力強さ。
「五十嵐、お前は・・・・」
「?」
「・・・いや、悪い。なんでもない。」
お前、一体どんな奴を好きになるつもりなんだ。
危ないやつじゃないだろうな。
なんて思ったが、実際は危ないなんて一言ではとても言い表せないような奴だとわかるのはまだ。
まだまだ先の話。