「・・・・・」
紫希はかなり真剣にブレスレットを見ていた。
2つまでは簡単に絞りこめた。ブレスにするのも最初から決めていた。詩にしろキーボードにしろ、両手を使うからだ。
問題は効果の方。
いや、こんなのあくまでお守りなんだから、別にどっちを選んだところで大差はないのかもしれないけれど。
(自信・・・勝負運・・・どっちにしろ足りていないもの・・・あああ、どっちがより足りないんでしょうか・・・)
いや、厳密にいうともっともっと無数にあるぞ足りてないもの。
それこそこのトンボ玉達の力を借りても、とてもカバーしきれまい・・・と思う紫希は、今すっかり負のスパイラルにはまっている。いつもの悪い癖。
「何見てんの?ああ、迷っ、て・・・・」
紫希の背中越しにそれを見た丸井は、ちょっと言葉を切った。
「・・・なあ。」
「はい?」
「それ、どっちかにすんの?」
「はい。でもどっちにしようかと思って・・・」
(嘘だろい。)
こう言っちゃなんだけどさ。
片や黒で、片や濃紺で。
格好いいんだけど、紫希が着ける事を思うとちょっといかついというか。
イメージ違うというか。
ぶっちゃけ似合わないぞ、多分。
「・・・なんで、そのどっちかなわけ?」
「どれも欲しいんですけれど。」
「?」
「その中でもどれか、と言われたら自信か勝負運のどちらかかなと・・・」
「あ、そこか。」
完全にファッション的観点でしか見ていなかったが、そういうことなら確かにわかる。
わかるけど。
「んー・・・でもさ。言っちまえば、こういうのっておまけみてえなもんだろい?そうじゃなくて、もっと着けたいの選んだ方が良いんじゃねえ?」
「え、でも・・・でも・・・」
そうも開き直り切れない。
丸井は小さく溜息を吐いた。
買うのもつけるのも最終的には紫希だから、最終的にはまあ好きにしたら?な話なのだが。
普段なら。
「・・・ちょっとでもマシになったら、みてえな気持ちは分かるけどさ。」
「え?」
「止めた方が良いって、結局。そういうのって、失くしたり壊したりした時、要らねえ不安感まで出てきちまうから。」
要は今の紫希の思考の場合、ブレスレットが精神的なドーピングの役割を果たしてしまいかねないのである。
これがあるから大丈夫、というのは裏を返すとこれがないからもうダメです、に繋がってしまうのだ。
「頼んねえ方が良いぜ?必要なんだったら尚更。」
「・・・・・」
そうかもしれない。
自信も勝負強さも欲しいけれど、本当に必要なればこそ、きっとお守りのおかげだと思う余地を残さない方が良いんだろう。
お守りは壊れるし、おまじないは解ける。
誰にも取り上げられないようにするには、やっぱりなんだかんだ自分で身に着けてしまうしかないのだ。
「・・・そうですね。」
紫希はそっとブレスレットを戻した。
「有難うございます、丸井君。私、間違ってました。」
「いや、間違いって程のもんでもねえけど。」
「いいえ、間違いです。今の私には。」
おまじないとかに頼るのが一概に間違いなわけじゃない。
でも、今の自分が当てにしていいものではなかった。
性格と状況的に、このまま購入していたら多分どこかの時点で丸井の言った通りになっただろう。
「本当に有難うございます。」
「良いって!で?」
「え?」
「効果が云々は置いといて、どれにすんの?」
「ええと・・・」
どれにしよう。
効果を置いておく、とすると。
単にデザインだけで選ぼうとすると。
「・・・・」
「ああ、良いじゃん。」
「いえ、でも、これも効果が・・・」
「いや?」
「嫌じゃないんですけど・・・」
紫希が手に取り直したのは、薄いピンクのトンボ玉のものだった。
ただ、まあ。こういうのは大抵、ピンクのものには恋愛運アップがくっついているもので。
「恋愛運を今伸ばしてどうしようっていう・・・」
「ははは!良いんじゃねえ、別に?損するわけじゃねえんだし。」
「そうですけど・・・ううん、折角ですから片思いの人でも居れば良かったんですけど。」
「・・・居ねえの?」
「はい。あ、でも!もしかしたらこれで、良い恋の詩が書けるかもしれないですね。」
別にわざわざそのために好きな人作ろうとかまでは思わないけど、やっぱり恋をしていない、ないしちゃんと恋した経験もないのに、恋の詩を書くのはどうなんだろうかという思いは紫希の中にある。
良い悪いというより、説得力に欠けるのではないかと自分でいつも気になってしまって。
まあ現状では作曲側の紀伊梨が恋していないので、恋のテーマを据えられるのは珍しい。
ただそれもいつまでもは続かないだろうし、それでなくてもやはり永遠のテーマの一つだから、恋の詩が書けないというのは作詞担当としてちょっと辛い。
そういう意味では丁度良かったかもしれない。
両思いは無理だろうが、良い恋をーーー片思いでも良い恋をさせてくれるかも。
「これにします。」
「・・・おう!」
自分も良いと思う。
「似合うと思うぜ?さっきのよりよっぽど”らしい”し。」
「あ・・・やっぱりさっきの、私らしくなかったですか・・・?」
「ああ、まあ。ぶっちゃけ全然似合ってなかったけど。」
「ですよね・・・」
まあ自分で分かっていたけど。
常なら絶対選ばないタイプの代物だったから。
「ま、良いじゃん!それは似合ってんだし、可愛いし。」
「そうですか?そう言って頂けると嬉しいです。」
可愛い、が指す対象が微妙に食い違っている事に、紫希と丸井はお互い気づかないのだった。