『お水~、お水~、』
バドミントン部に所属している榎本は、昨日偶々使おうとしていた水道が混んでおり、少し距離のあるテニス部近くの手洗い場迄足を伸ばした。
その時、色違いのリボンを付けた数人の上級生の女子グループと鉢合わせた。
鉢合わせたと言っても、偶々そのグループが手洗い場の近くで立って話していただけで、お互いにお互いをはっきり認識していたわけではない。
ただ其処にいるだけの存在。榎本にとっても向こうにとっても、それで終わる筈だった。
向こうの会話が聞こえて来るまでは。
『あの金髪でしょ?網代とかいう一年生!』
(え?)
榎本は普段から、挙動が人よりやや遅い。スローな動きで手洗い場を使用する榎本には、特に変わった事をしなくても、会話を暫くの間聞く事が出来た。
『マジムカつくよね!何様なの彼奴!』
『いきなりしゃしゃって来て、我が物顔でマネージャーすんなっての!』
『ってゆーか、1年とかマジ舐めてる。こっちはマネやって3年目になろうってとこだったのに。』
『本当それ!』
(マネやって、3年目・・・って事は~、)
可憐から話に聞いていた。今迄居たマネージャーは、跡部に辞めさせられてしまったと。
そしておそらく、其処のグループの女子はその辞めさせられてしまったマネージャー達だ。
『・・・・ふぅ・・・っ!』
『亜里沙!?』
『私・・・悔しい!なんでこんな所で、こんな風に部活終わらなきゃいけないの!?』
『亜里沙・・・』
『1年の下に就きたくなんかないって思うの・・・グスッ・・・そんなに変な事なの?どうしてこんな・・・こんなの嫌だよ・・・こんなのないよ・・・』
亜里沙と呼ばれた3年生は泣き出してしまった。
屈辱なのか。
理不尽なのか。
無念なのか。
或いはその全部かもしれない。
『・・・ねえ!やっぱり、どうにかしようよ!』
『真由子・・・』
『亜里沙の言う通りだよ!私達、そんなに変な事言ってる!?いきなり入学したての一年生に従え、出来ないなら辞めろなんて、そんなのおかしいじゃん!』
『でも、具体的にどうするの?』
榎本は耳をそばだてた。
だが、そばだてるなどしなくても、真由子と呼ばれた女生徒はあっさり言った。
『・・・脅すのよ!』
ピタ。
と一瞬、榎本の手が止まったのに、向こうは気がつかなかった。
『脅す・・・?』
『マネージャー関係の事は網代が任されてるらしいじゃん。つまり、跡部がどうのとかじゃなくて、網代さえ「うん」って言えば良いわけよ。』
『成る程。後は適当に弱みでも握って・・・ってとこか。』
『そ。』
『でも出来る?彼奴ムカつくけど、聞いた話だと隙は無いって感じだよ?』
『取り敢えず探すよ!それでも無かったら、奥の手あるから。』
『奥の手?』
『そうよーーー・・・』