理想の昼食を終え、2人は次の目的地である水着のショップ・・・というか大型モールの水着販売フェアに来ていた。
「わああっ!いっぱいあるねっ!」
「でしょ?メーカーの頭数もなかなかだし、これだけ選択肢があれば何処かにはお気に入りが見つかるわよ♪」
先日立海組の女子3人は紀伊梨に連れられてSirena’sに来ていたわけだが、あの店は店舗を構えている時点で、言うなれば水着アパレルとしては例外。
本来水着という奴は季節物で、夏以外用の無い代物。こうして特設会場が設けられ、そこで一斉に売られるのが普通である。
「で?可憐ちゃんはどんなのが良いかしら?」
「えーと・・・」
「あ、因みに。」
「?」
「風の噂に聞いたんだけど、侑士君は足の綺麗な子が好きらしいから、選ぶならそういう足のラインが分かるような奴を「もー良いのーっ!それは違うからもう良いんだってばっ!」
つくづく迂闊な事を言ってしまった。
網代も冗談混じりで言ってるに過ぎない事は分かるけれど、それを差し引いても恥ずかしいから辞めて欲しい。
「あら、そーお?」
「そうっ!」
「うーん、でもそれを抜きにしても水着で足のラインの見せ方は重要よ?例えばだけどああいうーーーあ!ごめんなさい。」
網代がマネキンを指差そうとした丁度その時、遮るような動線で動いてきた者に手が当たってしまった。
咄嗟に謝った網代だったが。
「いえ、こちらこそ失礼を。」
「・・・・・・」
「何か?」
「いいえ?ただ、今日は良く立海生に会うわと思っただけ。」
「えっ?」
「貴方、柳生比呂士君でしょう?ゴルフ部に居たけどテニス部に来たっていう。噂は聞いてるわよ?」
「えっ!?そうなのっ!?」
知らない。知らなかった。
いや、元より幾ら立海が要マーク校だからと言って、可憐とても全員の顔と名前を覚えてるわけではないのだが。
「序でに言うと、仁王君とダブルスを組むつもりなんですってね?良いと思うわ♪今年公式戦の場ではまだ見られないと思うけど、私個人としてはかなり面白いペアになりそうだし、注目株なのよね。」
「そうなのっ!?そうなんだ・・・」
「おやおや、これは・・・」
「柳生?どうし・・・お。」
売り場の品の影から仁王が顔を覗かせた。
「仁王君だっ!こんにちはっ!」
「お久しぶりね♪私達の事というか、顔くらいは覚えてるくれてる、かな?」
「ああ、覚えとるぜよ。と言ってもそれこそ顔と名前くらいしか分からんが。」
「仁王君、彼女達は?」
「まあ、かいつまんで言うと、東京の敵校のマネージャーじゃ。」
「ああ、成る程。ですから、私の事も細かくご存知だったわけですね。」
「いや。柳生の事はどっちかっちゅうと、ビードロズ伝いに情報が回っとるんじゃろう。」
「えっ!?」
「あら、バレた。」
ペロ、と舌を出す網代。
使える物は何でも使う主義の網代は、ビードロズ含む立海勢がその辺の情報統制がゆるゆるなのを良い事に、結構探りを入れているのだ。
「そうだったのっ!?いつの間に・・・」
「まあ、私も知ったのは最近よ?2、3日前。そんなつもりは無かったんだけど、ちょっと話題を振ったら紀伊梨ちゃんが教えてくれたの。写メまで付いてたわ♪」
「紀伊梨ちゃん・・・」
「彼奴のやりそうな事じゃ。」
「良いんですか?敵校のスパイみたいな真似をさせておいて。」
「良い事とは言わんが、今更じゃしのう。」
紀伊梨に口止めすると言っても限界があるし、そうでなくても偵察は山と来ているのである。
「それこそ、そっちのは話を聞くどころかうちに直接来た事があるじゃろ。ご丁寧に制服まで借りて。」
「ほう?徹底していますね。」
「ち、違うのっ!あれはそういうつもりじゃなかったっていうか、ダメ元で行ってみたいって言ったら、思いがけず行けちゃったっていうか・・・ご、ごめんなさいっ!」
「別に俺は責めとらんよ。あれも手引きしとったのはビードロズじゃ。」
「・・・ビードロズの皆さんは立海生ですよね?」
「彼奴らは昔っから幸村の近くに居るからのう。危機管理能力に乏しいんじゃろ。」
(危機管理能力ってこの場合・・・)
(あら、なかなか言うわね。)
これはつまり、敵に対しての備えが甘いという事。引いては、そんな神経過敏にならなくても幸村達なら勝つから大丈夫大丈夫、心配ないさーな状態という事。
以前偵察に行った際もそうだが、情報が取りやすくて助かる反面、割とあからさまに格下に見られていると分かるのは複雑な気分。
「で?」
「えっ?」
「今日も偵察に来たんか。」
「ちっ、違いますっ!今日はっ!っていうか本当は前のも違ったんだけど、」
「今日はプライベートよ?ほらもう夏だから♪貴方達も同じでしょう?」
「それはその通りですね。」
此処は水着の特設会場。
水着、ないしそれに関するものしか此処には売ってないのだから、此処に居る時点でもう目的は皆同じだ。
「そうだ!ねえ、折角会ったんだしちょっとだけで良いから、水着を選ぶの手伝ってくれないかしら?」
「えええっ!?」
「私達がですか?」
「ええ!貴重な同学年男子の意見ですもの♪」
「同じ部活のご友人に聞かれた方が良いのでは無いですか?」
「あら、駄目よ。どんなの買ったかバレちゃうじゃない。」
「それはそうかもしれませんが。」
(茉奈花ちゃん、凄いなあ・・・)
可憐的には、水着を選ぶのに際して同学年男子の意見を取り入れるという発想が先ず無い。どう取り入れたら良いのか分からないし。
「仁王君も良いかしら?」
「気が進まん。」
「あら、お急ぎ?」
「そういうわけじゃないが、ただで人を手伝うのに慣れとらんのじゃ。」
「仁王君?女性にそういう態度は感心しませんよ?」
「プリッ。」
「そ、それってお金が要るって事っ!?」
「いえいえ、取りませんよ。ご心配なく。」
「じゃあ何を出せば良いの?」
「情報をくれ。」
「・・・うちの部活の?」
ちょっと身構える可憐と網代だが、こういう場面で仁王は期待をあっさり裏切る。良くも悪くも。
「いや。何か人のプライベートな秘密みたいなもんが良い。」
「「・・・・・」」
「何か言いたそうじゃな。」
「言いたくもなりますよ、彼女達の立場になれば。」
この男、大丈夫なんだろうか。
こう、倫理観的な意味で。
「そんな事言われても困るよ・・・!」
「うーーーん・・・あ!それなら、紫希ちゃん、紀伊梨ちゃん、千百合ちゃんの新しい水着か浴衣がどんなだか教える!なんてどうかしら?」
ピキ。
と仁王と柳生の顔が固まったのに2人は気づかない。
「ええっ、良いのっ!?っていうかどうしてそんな事知ってるのっ!?」
「実はこの前侑士君が、ね。」
「・・・忍足君っ?」
「そう。偶々お姉さんと買い物中に3人と会ったんですって。それで成り行きで買い物に同行したらしくて、どんなの買ったか知ってたのよね。」
(私、知らなかった・・・)
いや、別に知ってなくちゃいけないわけじゃないんだけど。
ただ、やっぱり自分だけが知らない会話があった事が伺えると、ちょっと。
寂しいというか。
(・・・ううんっ!駄目駄目っ!寂しいなんてこんな事でいちいち思ってちゃ身が持たないよっ!これから茉奈花ちゃんと忍足君は恋人同士になるかもなんだから、そうなったらもっともっとこんな事が増えるんだから・・・)
こうやっていちいち引っかかる自分が、可憐は最近本当に面倒くさい。我ながら我が事が鬱陶しい。もっとサッパリしろよ、サッパリと。
「3人には悪いけど、いずれは分かる事だし。あ!それに、もしこの子の服は楽しみにしていたい!っていうのがあったら、その子のは伏せて教えるわよ?どうかしr「いや、言わんでくれ。頼む。それ以上は何も言わんで良い。」
「えっ?」
「ただでお手伝いしますから。仁王君、それで構いませんよね?」
「ああ、引き受ける。引き受けるダニ、この話はもう流してくれ。」
「・・・2人ともどうしたのっ?」
「どうしたと言われますと・・・」
「命が惜しいんじゃ、察してくれんか。」
紫希と紀伊梨は良い。
でも。
でもだ。
まかり間違って幸村より先に千百合の水着だの浴衣だのの情報を仕入れたりしてみろ。今年の夏が終わるまで無事で生きていられるかどうか。
「寧ろその、今しがた話題に出ました忍足君という方がとても心配ですね。」
「逆にこの事を幸村に流したら、敵校の戦力を削げるかもしらんぜよ。」
「なんでっ!?っていうか、駄目だよっ!?やめてっ!」
「ああ・・・そっか、そうよね。面白くないわよね、幸村君的には。」
「分かっていただけましたか。」
「ええ。ごめんなさい、こっちの配慮が足りなかったわ。」
良かった、言わなくて。
ホッとする網代だが。
「大変ねえ、貴方達も。」
「「まあ。」」
慣れだ、慣れ。