Rare holiday 2 - 3/5


もう水着と浴衣は買ったし。
後はもう帰るだけ、若しくはちょっとテニスショップでも寄って行く?なんて話をしていた時だった。

網代はすごーくすごーくえげつない、悪魔の囁きを可憐の耳に吹き込んだのだった。


ねえ、可憐ちゃん?
ちょーっと、喉乾かない?






「茉奈花ちゃん酷いっ!これは酷いよ、イジメだって言ったら通用するよっ!」
「あーらやだ、人聞きが悪いわあ。私は別に一言も、可憐ちゃんにああしろこうしろなんて言ってないじゃない?「私は」こうしたいからするわね、って言ってるだけよ?

だから、私はケーキセットを頼むけど可憐ちゃんは遠慮なく!アイスティーだけ頼んで頂戴?」

「出来ないよー!」

華やかなカフェの一角で可憐はメニューに顔を埋めながら叫ぶ。

笑う網代が恨めしい。
財布と言うより、どちらかというとヘルスメーター的な意味でヤバいから、アイスティーだけにしようと思ってたのに。
目の前でケーキ食べられながら自分はお茶だけって、何だその拷問。

「ううう・・・どれにしようかな・・・」
「やったあ♪これで半分こ出来るわ!」
「もーっ!今日は絶対お風呂上がったら、体重計らないで直ぐ寝るんだもんっ!」
「あははははっ!それが良い・・・あら。」
「?」
「今日は本当に縁があるわ、ね。」

網代が見やるカフェの入り口を開けて、いつか見た赤髪が入店してきた。
勿論丸井である。

「待ち合わせかなっ?」
「うーん、どうかしら?時間的にはちょっと考えにくいわね、もう16時になるし。」

丸井は可憐と網代に気づかないまま隣の席に座った。
可憐と網代も、もし待ち合わせだったら話しかけても邪魔になるし、と思って敢えて話しかけなかったのだが。

「ご注文の方お決まりでしょうか?」
「えーと、ストロベリーチーズケーキパフェ。」
「はい、ストロベリーチーズケーキのパフェがお一つ。」
「と、こっちの期間限定のマスカットパフェ。」

(((ん?)))

今、可憐と網代と店員は勿論、周りに居た客のほぼ全員が疑問符を心に浮かべた。

「・・・はい、マスカットのパフェがお一つ。」
「と、」

(((と!?)))

「スフレパンケーキの生クリームトッピングと、ケーキセットでグレープフルーツのタルトとカフェオレ、後単品でケーキがこれと、これと・・・」
「し、少々お待ちください!」

待って待って、注文もツッコミも追いつかないの、な顔で慌ててオーダーを入力する店員。

ねえそれ、待ち合わせしてるんだよね?
後続の人達の分のオーダーまで、前以て注文してるんでしょ?そうなんでしょ?
というかそうとしか考えられんぞ、と思う周囲の推測を、丸井はあっさりと裏切る。

「で、これと・・・あ!そうそう、後デザートにクリームソーダ。」

「ねえ丸井君、それ食べられるの?」

とうとう網代が全員を代表して突っ込んでしまった。
デザートって。
デザートも何も、今の全部デザートだろ。

「ん?あ!氷帝のマネジ。」
「こんにちは、ご無沙汰してるわ。」
「あの、丸井君っ?今の注文・・・」
「ああ、食えるかって?食えるけど?」

此処で食べられる!おー!みたいな感じで気合いを入れていないのが尚更怖い。
食べられますけど何か?みたいなリアクションが、逆に丸井が真面目に食べきれる事を示唆している。

「失礼な事言うようだけど、普通は食べられないのよ?」
「マジ?甘いもんは別腹だろい?」
「別腹って言っても程度があるよっ!」

何処に入れるつもりなんだろう、その細身の体に。
柳が食の管理はしていないと言っていたが、敵ながら多少はしてやった方が良いんじゃないかと思わず心配してしまう。

「あ、あのうお客様、ご注文は・・・」
「あっ!私ケーキセットで、モンブランとアイスティーお願いしますっ!」
「私も同じのを。フロマージュとホットコーヒーで・・・丸井君?」
「聞いてたら食いたくなってきたな。追加すっか。」
「「やめておいた方が。」」
「そこまで言うか?」

解せない、な顔をする丸井だが解せないのは可憐達の方である。

「良く入るわねえ。飽きない?」
「別に?寧ろお前らそれだけで良いのかよ?他のも食べたくならねえの?」
「食べたい気持ちはあるけど、気持ちだけだよっ。実際はお腹いっぱいになっちゃうし、お小遣いの事もあるし、それに・・・」
「ねえ?」
「ああ、体重?」

遠慮なく言い当ててくる丸井の目の前に、1個目のパフェが当てつけのごとく運ばれてくる。

「女子ってすげえ気にするよな、その辺。気持ちは分かるけど、食ったら動いたら良いだろい?」
「動いても減らないのっ!」
「簡単に言ってくれるわよ、ね。運動部の男子と一緒にしないで頂戴?」
「そりゃあマネジとプレイヤーだったら同じだけ動くってのは無理があるかもだけど、ケーキの一個や二個でそんなに変わるか?」
「「変わります!」」
「あ、そう・・・」

珍しく気圧される丸井。
どうもそうは思えないのだが、まあ本人達が此処まで変わると力説してるんだから変わるんだろう。

「丸井君の彼女になる人は大変ねえ、太らされちゃって・・・特にこれからの時期なんて。」
「ああ・・・」
「時期?」
「夏だよ丸井君、これから夏っ!」
「水着とか夏服とか、露出の多いお洒落をしたい時期じゃない?まして好きな男の子なんかが居れば尚更そうよ!」
「そうだよっ!それなのにお菓子の誘惑に耐えながら頑張れなんて・・・丸井君。」
「ん?」
「ストロベリーチーズケーキパフェって何処に行ったのっ?」
「え?食い終わったけど?」

パフェは飲み物。
そんなフレーズが思わず脳裏に過ぎった。

「で、何だっけ?お洒落?でも俺がどうこう以前に夏のお洒落って、根性無いと無理だろい?」
「そんな事、」
「だって、それでなくても夏は美味いもんが多いんだぜ?スイカ、ぶどう、かき氷、アイス、水羊羹、夏野菜、夏の暑い日に食うカレーとか夏バテ防止の焼肉とか中華屋で始まる冷やし中華とか丑の日の鰻とか、」

良くまあそれだけパッパッと思いつくものである。

「それから海の家とか夏祭りで食うたこ焼き、焼きそば・・・あ。」

そうだ。
思い出した。
リベンジだ、今年の夏祭り。

「浴衣家にあったっけな?」
「あっ、そうだよねっ!丸井君も夏祭り行くんだよねっ!」
「部活の後なんでしょ?頑張ってね♪」
「おう。スケジュールは結構キツいけど、詰め込まねえとどこにも行けないまま夏が終わっちまうしな。浴衣も五十嵐が着ろって言うし?」
「まあそれはしょうがないわよ、ね。ビードロズの皆も浴衣を新調してるんだから、女の子にお洒落させておいて自分は適当な格好って言うのはねえ。」
「マジ?」
「うんっ!紀伊梨ちゃんが言ってたよ、皆で買いに行ったってっ!」
「へえ・・・」

流石お祭り好き達は気合の入れようが違う、という所か。

「皆って事は黒崎も新調してるんだな。幸村君が喜びそうだろい。」
「絶対喜ぶよねっ!好きな女の子がお洒落してるんだもん、きっと嬉しいよっ!」
「そうねー、それに彼は情熱的だからお洒落もし甲斐があるわよね!やっぱり可愛いって思ってくれてるんだったら、内心で思ってるだけじゃなくて、なるべく言葉とか態度に出して欲しいもの!」
「・・・・」
「可憐ちゃん?」
「あ、ううんっ!」

(忍足君は苦手そうだなあ、そういうの・・・)

今の情報は伝えといてあげよう。
でも知らせたところで可能かどうか。

「丸井君もそういうの得意そうよね?」
「あ、分かるっ!女子に可愛いとかって、サラッと言えちゃいそうな感じっ!」
「んー?ああ、まあ。」
「やっぱりっ!」
「女子は嬉しいわよね、そういうの!モテるわよ丸井君、その調子!」

その調子とか言われるけど。
いや確かに、正直自分の事モテないとは思ってないし、人の事を褒めるのにも気負わないんだけどさ。

「・・・イマイチ信じて貰えねえんだよなー。」
「えっ?」
「ほら、偶に居ねえ?褒めても「そんな事無い」っつってこっちの言う事信じねえ奴。」

偶に居るというか、周囲の該当者は約1名しか居ないのだが。

「それって、謙遜って事っ?」
「いや、謙遜程度にそんな事無いって奴は居るけど。でもあれは謙遜が2割位で端から信じてない気持ちが8割位だろい。」
「ああ、居るわね自己評価の低い子。でもどうしようもないわ、ね。」
「マジ?打つ手なし?」
「無いわけじゃないけど、即効性のある魔法の言葉は無いわ。信じて貰えるまで、地道にコツコツ頑張るしかないわね。テニスと同じよ、何事も反復練習!継続は力なり。」
「「へー。」」

ユニゾンで感嘆する2人。
こういう事にも継続は力というのは有効なのか。

「でも反復ってこの場合、何度も可愛いとかって言うって事だよねっ?」
「そうよ?」
「ううん、難しそうっ!」
「まあねえ。あくまで理想論というか、実際はなかなか難しい要求だと思うわ。」
「そお?可愛いって思ったら都度都度言うってだけだろい?」
「丸井君・・・」
「可憐ちゃん、覚えておくのよ。これをタラシっていうのよ、タラシ。侑士君もタラシだけど、丸井君はまた違うタイプだわ。」
「失礼な奴だろい、誰がタラシだよ。」
「貴方よ、あ・な・た。」

(丸井君も幸村君程じゃないけどハッキリしたタイプだなあ。)

彼女になる人は安心するだろうな、彼氏の愛情表現かハッキリしてるタイプだと。なんて思うが、こういうタイプは彼女出来るまでが揉め事起こしがちなのを、可憐は恋愛経験が浅すぎて分からないのだ。

「ねえ。」
「えっ?」
「ああ、可憐ちゃんじゃないわよ、丸井君?」
「ん?」
「グレープフルーツのタルトとザッハトルテとレモンパイとピスタチオムースとメロンのショートケーキと白玉抹茶ロールは何処に行ったの?」
「え?此処。」

どちらかというと引き締まっている腹を指差して言う丸井。
ケーキもまた飲み物であるらしかった。