Rare holiday 2 - 5/5


「礼を言う。」

言われた網代はキョトン。
可憐もキョトン。

「えーと、何のお話?」
「お前達の証言のおかげで事が収まった。俺一人ではもっと時間がかかったやもしれん。」
「良いよそんなのっ!」
「ええ。私達、見た事を言ったまでですもの。」

当たり前といえばある意味当たり前なのだが、事務室に連れていかれてもあの大学生は万引きしたとは最初は認めなかった。
しかし網代の証言とテープを入れたポケットが一致していた為、結構粘っていたが最後にはとうとう罪を認めざるを得なくなった。

「むしろ私の方が助けて貰っちゃってっ!有難うっ!」
「それこそ、礼には及ばん。当然のことをしたまでだ。ああいった輩は許せんというのも勿論だが、お前達には借りがある。」
「えっ?」
「お前達は氷帝のマネージャーだろう。以前GWの際にはあいつ等をヘリコプターで送迎してもらったからな。」
「あ、あれはそもそも私が悪いの、ごめんなさいっ・・・」

あの時何故送迎する事になったかといえば、元々の発端は可憐がビードロズ側の手を借りたからである。
そう言えばあの時もテニスショップでお世話になったっけ。

「それにしても、流石の度胸ね真田君。幾らこっちが正しいといっても、大学生に向かっていくなんてなかなか出来るものじゃないわよ?」
「そうそうっ!凄いよね真田君、堂々としててっ!」
「こちらが正しいのならば、何も委縮する事などないだろう。」
「ううん、それはそうなんだけど、ね。頭では分かっていても、なかなか実際やれって言われると厳しいもの。」
「そうか?」

説明されてもピンとこないけど、な顔の真田。

まあピンと来ないだろうなとは可憐も網代も思う。
というか、事務室に居た者は皆そう思っただろう。あの、大学生に罪を認めろと詰め寄る真田の気迫たるや、大人顔負けであった。

「しかし近頃はふざけた大人が多い。いい年をして全く、たるんどる!」
「真田君が言うと、説得力抜群ね。」
「真田君、怖くないのっ?」
「怖い?何を怖がる。」
「だって大人って、体も大きいし力も強いでしょっ?」
「だから何だ?」
「だからっていうか・・・」


「力だ体格だというのは二の次だろう。先ずは精神力だ。どんな勝負でも心の上で負けていては、最初から敗北しているも同然だ。」


「はー・・・」

凄いを通り越してもはや可憐は呆気にとられてしまう。
こんなにストイックなタイプは氷帝に居ない。跡部も大概自分には厳しいけれど、こんな風に根性論に振り切れてはいない。

「では、俺はもう行く。お前達も東京に戻るのならば、遅くならない内に早く帰れ。」
「あっ、うん!またねっ!」

同い年に向かって遅くならない内に帰れとか親のようだが、真田は大真面目である。
特にここ最近は変な大人が多いので特に。先日は人攫いで今日は万引きである。

去っていく真田の背を見送りながら、可憐は複雑な思いを抱いていた。

凄いなあと純粋に思う。それだけに余計複雑なのだ。
あのメンタルの強さは友人としてはおおいに結構だが、敵校の選手の一人として見るとなんという恐ろしいスペック。

(確か真田君も二つ名的なものがあった筈だよねっ?なんだっけ?)

「ねえ茉奈花ちゃんっ!真田君の二つ名って・・・茉奈花ちゃんっ?」
「・・・・・・」
「茉奈花ちゃんっ?茉奈花ちゃんっ!」
「・・・!ごめんなさい、何?」
「あ、大した事じゃないんだけど・・・真田君の二つ名ってなんだったかなって。」
「ああ、そうね。彼も「皇帝」っていう名前があったわ、ね。その名の通りっていうか、手強いオーラ十分!って感じだったけれど。」
「うん・・・茉奈花ちゃん大丈夫っ?具合が悪いのっ?疲れちゃったっ?」

自分は最近ちょくちょくぼーっとしている(こういうのもちょっと情けないが)が、隙のないタイプである網代はぼーっとすることなど滅多にない。
体調が優れないのではと尋ねると、網代は曖昧に笑って首を振った。

「違うの。その・・・真田君の事。うちの部には居ないタイプだな~と思って、ね。こう、気持ちで勝て!気合が大事だ!みたいな感じの選手って、氷帝には居ないじゃない?」
「あっ、それ私も思ったっ!跡部君とはちょっとタイプが違うよねっ!真田君って、こうメラメラーって感じっ!」
「ああ、うん。そういう感じ、わかるわ。」

苦手なタイプ。
網代は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。