「・・・・・・・」
会場にて、跡部はトーナメント表を思案気に眺めていた。
「どないしたん?」
「・・・いや。」
なんでもない、と言いかけた声を遮るように、可憐の声が跡部の耳を突き刺した。
「ねえ茉奈花ちゃんっ!青学って、都大会まで出てたかなっ?」
「・・・・!」
思わず振り向く跡部の視線の先では、何も知らない可憐と網代が普通に会話を続けている。
「青学?って、青春学園よね?」
「うん、そうっ!」
「なら、都大会までは出てるわね。コンソレーションで敗退して、惜しくも関東進出ならずだったわ。」
「そっか、有難うっ!」
「それがどうかしたの?」
「紀伊梨ちゃんに聞かれたのっ!この前一緒に遊んだ時、青学テニス部の子をちらっと見かけたから、もしかしたら今日来てないかってーー」
「おい。」
「それで・・・跡部君っ?」
「そのテニス部ってのは誰だ。名前は。」
「えっ?ええと、えーと・・・確か、不二君っ?不二、周助君だったと思うけど・・・」
「そうか。」
「どうしたのっ?何か気になるっ?」
跡部の様子に、何かを察した網代の眼(まなこ)がきらりと光る。
「あの子の事、ね?わかるわ、私も気になるもの。」
「えっ!?何っ!?不二君の事っ!?」
「違うわ。といっても、不二君に関してはまだ1年生だし試合も見れてないから未知数で、警戒しようにも材料がない所があるんだけど。でも、不二君は置いておいて青学には「スーパールーキー」と呼んで差し支えない逸材が、少なくとも一人居るのよ。」
「そうなのっ?」
「誰なん?」
「「手塚国光。」」
手塚国光。
可憐と忍足はその名を知らないが、跡部と網代にとっては重要な名前である。
「強いん?」
「べらぼうに強いわよ。青学として団体で勝ち上がっては来れなかったからもう彼の試合を見るのは望むべくもないけれど、あの強さは間違いなくこれからの中学テニス界で名を馳せることになるわね。」
「そんなにっ!?」
「ああ。基本的に青学の奴らの平均レベルは、正しく文字通り「都大会レベル」でしかねえが・・・彼奴だけは別格だ。」
「そらほんまもんやな。」
跡部は基本、お世辞で人を認めたりしない。
ましてテニスに関しては尚更だ。
その跡部がここまで言うからには、手塚とやらの実力は本物なのだろう事が初耳の可憐にも窺えた。
「そんなに強いんだっ!都大会で見ておけば良かった・・・」
「ビデオあるやろ。茉奈花ちゃん、あるやんな?」
「ないわ。」
「「え?」」
網代は残念そうに首を振った。
「青学の方針なの。手塚君は1年生なんだけれど、青学では1年生はどんなに強くても夏まではレギュラーになれないのよ。」
「えええっ!?」
「うちじゃありえへんな。」
「くだらねえな。手塚を入れていれば、関東まで出てこれたかもしれねえものを。」
(そういうのもあるんだ・・・ううん、意外とそういう所も多いのかなっ?立海ももう幸村君たちが出てるから、何年生だろうとレギュラーはレギュラーって思ってたけど、うちや立海が変わってるだけなのかもっ。3年生にとったら最後の夏だもんねっ。)
なんだか知らない間に、すっかり実力至上主義に慣れきってしまってる自分が居る。
氷帝も立海も、基本的に「もう今年最後なんだから・・・」なんておセンチな理由でレギュラー決めたりなんて、そんな甘い采配はしない。弱者は引っ込んでろ。以上。
「しかし、出てへんのに2人ともよお知ってたな。」
「要マーク選手のピックアップは網代に頼んでおいたからな。」
「茉奈花ちゃん凄いねっ!」
「あら、それほどでも♪まあ私も元々はプレイヤーの端くれだったから、こういうことにアンテナを張るのはお手の物よ?」
そうは言うが、幾ら探し方を知っていたとしても実際に探すのは手間であることは間違いない。手際の良い網代だからこそ出来る技だ。
「お疲れさん。」
「あら、労わってくれる?」
「・・・何を要求してくるつもりなん?」
「ねえ聞いた、可憐ちゃん?まるで人がいつも無茶な要求してるみたいじゃない?人聞きが悪いったらないわ!」
「そうやあらへんけど、ちょいちょい変な要求してくるのはほんまの事やん。」
「あら、いつ私がそんな事を?覚えがないわ、ね。」
「先週データ見させてもろた時に、お礼はこれでとか言うて人の眼鏡取って行ったん誰や?」
「それはそうと可憐ちゃん、今日の解散後の話なんだけれどね、」
「あはは・・・」
(・・・でも、仲良さそうだなっ。そうだよね、別に私がお世話焼かなくたって元々2人共気が合って仲が良いんだから・・・)
だから今みたく、自分が知らないエピソードなんて山ほどあって当たり前。
うん、良いことだ。良いこと良いこと。
・・・うん。
「・・・それで、なあに茉奈花ちゃんっ?」
「お昼なんだけど、ほら。私達はミーティングで食堂でしょ?だからーーー」
「おい、食堂は使えねえぞ。」
「「えっ?」」
「知らなかったのか?今日は厨房設備のメンテナンス日だ。まあ今日は午前解散だから、わざわざ言わなくても使う奴は居ねえと踏んでたんだが。」
「も~~~そういう事は早めに言って頂戴よ・・・」
「聞いてないよっ!どうしよう、私今日お弁当持ってきてないっ!」
「俺もやわ。どっかコンビニあったやろか。」
「別にコンビニなんざ行く必要はねえだろ。」
「いや、あるやろ。俺も今日練習したいねんから、昼飯が・・・」
「全員纏めてうちに来い。昼食くらい出してやるよ。」
「「「・・・・・え。」」」
かくして、急遽跡部邸行きが決まったのだった。
若干の畏怖を交えながら。